17. 謁見の間
今回は短めです。
リャナンが案内された部屋の中には毛足の長い赤い絨毯が敷き詰められており、高い天井と広い部屋だ。普通なら解放感を感じるはずだが、その場所にはどことなく緊張感が漂っていた。
部屋が醸し出す緊張感に、リャナンは今すぐ「間違いでした。」と帰りたい気持ちになった。しかし、それを抑えて前に進む。単に約束は守らなければいけないという思いだけがリャナンを動かす。入ってきた扉の閉まる音に一層の不安が掻き立てられた。
正面の一段高くなった場所では大理石の床の上に立派な椅子が置かれていた。
所謂、謁見の間というものだ。目の前にある椅子は玉座だ。
「こちらでしばらくお待ちください」
先ほどローン=ニエルと名乗った男性がリャナンに声をかけ、彼は前方にある扉から部屋を後にした。
一人取り残されたリャナンはまさか玉座を前に棒立ちになっているわけにもいかず、持っていた鉢を横に置き、その場に膝をついて叩頭する。毛足の長い絨毯は膝をついても苦痛にはならなかった。
いくらリャナンが平民といえども、フランツェンを目指している以上そのくらいの礼儀は心得ている。大学の一般教養のひとつに礼儀作法があるくらいなのだ。叩頭してリャナンは改めて、自分の服装を認識した。
(しまった。いつもの作業服で来るような場所じゃなかった)
今更後悔してもどうにもならないが、リャナンは時間を守ることだけに頭がいっぱいになり格好の場違いさにまで思い至らず、ここにきていきなり失態に気がついた。自分が今いる場所と格好があまりにも離れすぎている。今更どうしようもないことに頭を悩ませているとそれほど待つことなく、前方の扉が開く音がする。さらに硬い床の上を歩く音がして、玉座に向かっていることが分かった。足音は二つ。ひとつは先ほどからリャナンを案内してくれていた、ローン=ニエルのものと思われた。叩頭しているリャナンの視界は床に敷き詰められた赤い絨毯しかなく聞こえてくる足音だけが情報源である状態はリャナンの不安を一層掻き立てる。しかしここで顔を上げるなどという暴挙に出られるはずもなく、リャナンは頭を下げ続けている。
「リャナン=エルスターさん。顔を上げてください」
リャナンは、静かに告げられる聞き覚えのある声に促されるまま、ゆっくりと顔を上げる。
目線の先には玉座に座る、白いフロックコートに黒いズボンという格好こそ朝とは違うが、見間違えるはずのない、昨日初めて出会った彼が玉座に悠然と座っていた。
リャナンは叫びそうになるのをかなりの努力をして抑え込んだ。