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15. 密談

フェローニア王国コンフェレンツ・ルーム。


「陛下。今朝“も”どちらかにお出かけしてらしたのですか?」


この日の早朝会議が終わり、貴族たちも全員退出済みの部屋で宰相・ローン=ニエルはいかにも不満気な声で問う。


「うん。昨日出会った学生の子に会って約束を取り付けてきたから。今日の四時頃にローン=ニエルを訪ねてくる人は僕のお客だから帰してはだめだよ」


この国王陛下の突飛な発言はいつものことだと思いつつも、勝手に巻き込まれたままというのも落ち着かない。


「それはどういった用件で?」


言葉に刺を含ませたままローンは尋ねる。


「国王認定を行う花を持ってきてもらう」


至極あっさりとした口調で重大事項を告げるのもいつものことだ。目の前の国王陛下にいちいち驚いていたら心臓がいくつあっても足りない。ローンはルトナーを見つめる。何でもない事のように装っているが、先ほどの会議内に渡された書類を見ている振りでローンの方を見ていない。それに気が付くと、実はルトナーも少々気まずく思っていることがうかがえてローンは内心笑みをこぼす。しかし、ことは国家事業の中枢に関わることである。国王陛下の暴挙を微笑ましく思っているだけでは宰相は務まらない。


「人にものを頼むときはきちんと相手を見るべきでしょうな」


陛下自身もわかっていることを敢えて口にすることで、とりあえず話を聞く態勢を作る。案の定書類を置きローンの方を見たルトナーは、


「ずっと決めかねていた、ルトナー=フェローニア治世下第一号の国王認定の花を決めることになった。花はダリア。花の作成者はリャナン=エルスター。彼女はスタンホール大学の三年生。この花を認定することで卒業後、フランツェンの資格を得ることになる。本日午後四時、登城を言い渡してあるが、僕の名をローン=ニエルと偽ったため彼女はローン=ニエルに会いに来るつもりでいる。だからローン=ニエル宰相に彼女と会っていただきたい」


ローンは別に国王としての言葉を求めたわけではなかったのだが、ルトナーは毅然と言い切った。一言の注意からいきなり国王の振る舞いになるのはルトナーが存外、真面目な性格だからだ。中庸がないともいえるが、それもまた目の前の彼が国王という仕事に真剣だからだと思えばローンにとって悪いことでもない。


「国王認定を行うことにも、その女性が城を訪ねてくることも異存はございませんが、なぜ彼女の花の認定を決めたのか伺ってもよろしいでしょうか?」


花が気に入ったからだといえばそれ以外の理由はいらないのだが、ローンはそれ以外の理由がありそうだと感じていた。実は国王の即位後初の認定花というのは通常の国王認定よりも重要視されていて、貴族のフランツェンから選ぶのが古くからの慣例だ。リャナン=エルスターは貴族でもなければまだフランツェンでもない。さらに花がダリアであることも少し気に係る。この国で育種を行なっているのはバラ・ダリア・キク・ラン・クリスマスローズで、この中でダリアは一番育成期間が短く、育種が簡単な花だからだ。それ故に品種登録数も多く一段下に見られることも多い。それをあえて選ぶことも引っかかった理由である。


「多分、宰相が考えていることと同じだよ。彼女が貴族でもなく、フランツェンでもないからだ。あの狸爺達の息がかかっていない人間である必要があった。

これは僕がこの国を取り返すのに必要な認定なんだよ。正直、彼女を利用するようで申し訳ないと思わないでもないけどね」


あっさりと認めたルトナーにローンは


「まあ、大学生である以上、目標はフランツェンでしょうから彼女にとっても悪い話ではないでしょう。それに一番目が貴族でフランツェンというのも慣例であって絶対ではないですから認定に文句を言える人間もおりますまい」


と、こちらもあっさりと返した。


「全ては今日の四時。彼女が城に来てからだ。というわけで、彼女の取次よろしく頼むよ」


「承りました。リャナン=エルスター氏が城に着次第、陛下の元へお連れ致します」


二人は共犯者の気分でコンフェレンツ・ルームを後にした。


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