14. 和解
翌日の朝、リャナンはいつもと同じ時間家を出た。昨日と同じようにいい天気だ。いつも通りの道をいつもと同じ速足で歩く。
学校までの三十分を無心で歩き、いつも通り自分の畑へと向かう。
毎朝のように自分が一番乗りのはずだったが、畑まで行くと人影が見えた。まさかと思いつつ、はやる気持ちそのままに駆け足と言える速度で人影に近づく。すると、足音で気が付いたらしい人影がこちらを振り向いた。
「ああ、よかった。ちゃんと会えて。おはようございます。リャナン=エルスターさん」
にこやかに言う彼は、
間違いなく昨日畑で出会ったローン=ニエルだった。
「おはようございます。ローン=ニエル様。まさかもう一度会えるとは思っておりませんでした。昨日の無礼を謝罪したいと思っておりましたので会えてうれしく思います。できますれば昨日の無礼をお許し頂ければと思います。」
そう言ってリャナンが頭を下げると、ローンは驚いたように、
「ちょっと待って。今日は、僕があまりにも無知で昨日、君を怒らせてしまったことを謝りたかったから来たのであって、昨日のことは君が謝るべきことではないよ。昨日は僕の方こそごめんなさい」
そう言ってローンも頭を下げる。それを見たリャナンは慌てて
「そんな。ローン様に謝っていただく必要はございません」
と言ってローンの頭を上げさせる。
「あの。じゃあお互い様ってことで、こういうの仲直りっていうの?」
嬉しそうに言ってきた顔が無邪気でリャナンは返答に困る。
「昨日のは喧嘩って訳じゃないような気もしますが、でもそうですね。仲直りです」
リャナンが答えると、ローンは一層笑みを深くして嬉しそうに笑った。その顔にリャナンもつられて笑
う。
「あのね。あと図々しいかと思ったんだけど、リャナンさんの畑を見させてもらって、この花が一番きれいだと思ったんだ」
そう言ってローンが指差した先には、一重で、花弁の色が中心が黄色で外側が許色をしたダリアの花だ。リャナンも咲いたときにちょっと感動した花だった。
「夜が明けるときの太陽と空の色みたいで素敵だね」
「ありがとうございます。私もその花は好きですが、バイカラーの花は染物には向かないので、一般認定を取っても使われることはないと思います」
リャナンは不本意そうに答えた。この花はきっとここでしか咲くことなく終わる。自分の畑でなく貴族の誰かの畑だったら、あるいはとも思ったがそんなもしもは無意味だ。
「あの。そうじゃなくて、この花、国王認定を取らない?」
唐突なローンの言葉にリャナンは驚いた。
「そんな、無理ですよ。昨日もお話ししたと思いますが、予備認定を通してもらえません」
しどろもどろになりながらリャナンは答える。悔しさで泣いてしましそうだった。
「そうじゃなくて。“僕”が取らせるから。そうだな放課後、今日何時に学校終わるの?」
俄かに張り切りだしたローンについていけなくなりそうになりながらも、なんとか「四時です」とだけ答える。
「四時ね。わかった。そしたら学校が終わったらこの花と、えっと、これだ。この時計を持って、ローン=ニエルを訪ねてきたと門の所で近衛兵に言って取り次いでもらって」
言いながら上着のポケットを探って取り出したのは銀色の懐中時計だった。繊細な鎖と凝った細工がされていた。リャナンはいきなりのことに戸惑いながらも出されるままに時計を受け取った。
「やばい。そろそろ帰らないと。じゃあ約束だからね」
そう言ってローンは駆け出して行ってしまった。その場に取り残されたリャナンはいまいち状況が呑み込めない。幻を見せられていた気分だ。国王認定を取らせるとはどういうことだろう。
(考えても仕方ない。本当に取れたらラッキー位に思っていよう。今のことは誰にも相談できそうにないな)
頭をすっかり切り替えたリャナンは畑の水やりだけを済ませて教室に向かう。朝ごはんを食べ損ねて少し空腹だった。
やっとここまで来ました。書きたいシーンに辿り着けて良かったです。
しかし陛下がどんどん無邪気になっていってこっちがびっくりです。