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11. 糸屋『エルスター』

 リャナンは石畳の道を朝と同じように速足で進む。目的地は朝の出発点、リャナンの自宅だ。


「ただいま」


自宅の入り口ではなくお店の扉から入る。扉を開けるとドアベルが澄んだ音を鳴らす。

その音に、店番をしながら雑談に花を咲かせていた母と兄嫁がリャナンの方を向く。店の中にお客はいない。


「ああ。リャナン。おかえり」


リャナンの帰宅に気が付いた母親が笑顔でリャナンを迎える。しかしリャナンの顔を見ると不思議そうに、


「どうしたの?学校でなにかあった?」


と問いかけた。その声色が小さな子供に語りかけるようで、リャナンは内心苦笑いをしてしまうのと同時に、いつでも母親の勘は鋭いのだと舌を巻いた。


「いや。学校はいつも通りだったよ。それよりも何か手伝うことある?」


リャナンは嘘でごまかしながら、話題を無理矢理変えた。


「実はアーベルさんの所に配達に行って欲しいのだけど」


そう言いつつ、足元に置いてあったらしい大きな袋を台の上に乗せる。中には色とりどりの刺繍糸が入っている。


「今日はカミルちゃんがお店にいるようだし、リャナンは夕ご飯までに帰ってくればいいからゆっくり

してきてもいいよ」


学校で何かあったことに気が付いているようだが、母親は何も聞かなかった。


「わかった。荷物置いたらすぐに向かうね」


母親の言葉に苦笑いしながらも一端自分の部屋へ向かう。

自室に入り、荷物を置いて、襟も外す。

再び店に戻ると、数人のお客が糸を物色していた。その中の一人が橙色の糸を手に取った時に、リャナンはお客さんが糸を買ってくれることを願った。母親も熱心にその糸をお客に勧めている。

やがて、本当にその糸を気にいったのか、ただ単に母の勧めに負けただけなのかはわからないが、お客はその糸を買うと店を後にする。お客が店から出ていくのと同時に、リャナンは無意識のうちに止めていた息を思いっきり吐き出した。


「やっぱりリャナンが造った花で染めた糸はよく売れるんだよ」


母親もすっかり上機嫌で親バカともいえる発言をする。その様子に兄嫁はすっかり呆れていたが、リャナンは、たとえ母親のセールストークのお蔭で売れただけだとしても十分嬉しくて、帰宅の時とは打って変わって足取りも軽く渡された袋を抱えて店を出た。

目的地は刺繍屋『アーベル』。刺繍屋とは、その名の通り、小物から、カーテン等の大きな布製品に至るまであらゆるものに、刺繍を施して売っているお店だ。店同士が同じ通り沿いにある上に、糸屋であるリャナンの家にとって、リャナンが生まれるよりも前からのお得意様である。それ故に家族同士も仲が良く、そこの娘であるカミルは年齢が一つ下ということもあり子供の頃からよく遊んでいた。二人して刺繍の手習いや、色の合わせ方はカミルの母親から教わり、糸の染め方や紡ぎ方などはリャナンの祖父母から教わっていた。

その後、カミルは刺繍の腕を上げ店の看板娘になり、リャナンは大学に進学して花を造ることを目指している。やっていることは全く違ってしまったが、二人は今でもよい友人として付き合いは続いていた。


一向に話が進まなくてすみません。次回は刺繍屋、カミルの登場です。

今回刺繍屋の終わりまで書きたかったですが断念しました。

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