天の川ラプソディ 〜独裁者の娘は、1年後の7月7日に愛を(物理で)証明する〜
初めまして、あるいはこんにちは! 本作を開いていただき、本当にありがとうございます。 本日、7月7日は七夕ですね。 もしも現代のブラック気味なIT企業に織姫と彦星がいたら……? そんな妄想から生まれた、ちょっと(いや、かなり?)執着心の強い男の子と、 お仕事頑張る女の子の、勢いだけは一丁前な現代風七夕ラブコメディです。 スマホで3〜5分ほどでサクッと読める短編となっております。 少しでもクスッとしていただけたり、胸キュンしていただけたら幸いです! それでは、本編をどうぞ!
「お前との交際が発覚した。今すぐ彼と別れなさい、織花」
大理石の豪華なデスクの向こうから、冷徹な声が響く。
声の主は、国内最大のITコンテンツ企業『インペリアル・ギルド』の最高経営責任者。
そして――私の、実の父親(通称:天帝)だ。
普段なら「パパ、お小遣いちょーだい」の一言で財布の紐がガバガバになる男だが、今日ばかりは眼光が違った。完全に、娘の彼氏を社会的に抹殺するタイプの悪い顔をしている。
「嫌よ! 私は彦を愛してるの! 彼が夜中に『ラーメン食いてぇ』って呟いただけで、深夜2時に原チャぶっ飛ばして家系ラーメン届けるくらいにはズブズブなのよ!」
「やかましいわ! なんだその底辺のパシリみたいな愛は! 彼はただの叩き上げの3Dモデラーだ! 我が一族の高級外車を乗り回す男に相応しくない!」
父は冷酷に言い放ち、一枚の辞令をデスクに叩きつけた。
「本日付で、お前を東京本社、彼を福岡支社へ異動とする。個人スマホを含め、お前たちの端末はすべて我が社の最新セキュリティAIで通信制限をかける。LINEのスタンプ一個、SNSの裏垢の『いいね』一つでも私的連絡とみなせば、即刻、彼のクリエイター生命をネットの藻屑にしてくれるわ」
「ちょっと待って!? 職権乱用が過ぎるだろ! お前それ労働基準監督署に駆け込まれたら一発でアウトだからな!?」
「黙れ! 私が法律だ! ……ただし、猶予は1年。年に一度、7月7日に開催される『全国社員総会』。そこでお前たちが、会社の株価を爆上げするほどの圧倒的な成果を出しているならば、その日1日だけ、同席することを許そう。……まあ、液晶のブルーライトで目が腐るのが先だろうがね」
現代の天の川。
それは、親の権力と、ガチガチのセキュリティ規約という名の、決して渡れない絶望の川(物理)だった。
✧*:・゜✧
福岡へ発つ前夜。
監視の目を盗んで、駅のホームで交わした最後の1分間の会話。
「ごめんね、彦……私の親が、ただのイカれた独裁者ゴリラだったせいで……!」
涙を流す私に、彦は優しく、けれど完全に目がイッている燃えるような強い瞳で私の手を握った。
「謝るな、織花。俺は絶対に潰されない。お前の父親が業界の神なら、俺はその神のド頭を3Dのポリゴンバットで殴り飛ばすクリエイターになってみせる。7月7日、絶対に100割の笑顔で迎えに行くから」
それが、最後の言葉だった。今思えば、半分くらい脅迫だった気もする。
✧*:・゜✧
それからの1年間、私の生活からは「人間らしい営み」が消えた。
画面に向かい、狂ったようにデザインを描き続ける。
ユーザーの視線誘導? 知るか。0.1秒の遅延をも許さない完璧なUI? そんなことより、この鬱憤をどこにぶつければいい。
気がつけば、私の描くアプリ画面は、あまりの怨念と執念により「触っただけでユーザーの精神を覚醒させる」と噂され、社内では『東京本社の動く要塞』と呼ばれるようになっていた。
寂しくて死にそうな夜は、業界のニュースを見た。
『インペリアル・ギルド福岡支社、新型VRゲームのグラフィックが世界中で大絶賛』
『リードモデラー・HIKO、キャラのケツのモデリングにこだわりすぎて世界の変態から称賛の嵐』
「何作ってんだよアイツ!!」
画面の向こうで、彦も完全に理性を失って戦っていた。
私への狂気的な執着を、すべて「キャラの肉感」にぶつけているのが手に取るように分かった。ちょっと引いた。だけど負けるわけにはいかない。
会いたい。声を聴きたい。普通に愚痴り合いたい。
そのすべての欲望を、私たちはクリエイティブ(という名のデスマーチ)に変えて、ひたすらキーボードを叩き壊す勢いで進み続けた。
✧*:・゜✧
幕は上がった。7月7日。
都内最高級ホテルの大ホール。
全国から集まった数千人の社員と、業界のVIPたち。
その中心のステージに、私の父親――天帝社長がマイクを持って立っていた。
「今年の我が社の業績は、過去最高を記録した。特に、世界中のオタクの財布を空っぽにした二つのプロジェクトの功労者を、ここで表彰する」
【東京本社・最優秀UIデザイン賞:織花】
【福岡支社・変態的3Dグラフィック賞:彦】
会場が割れんばかりの拍さに包まれる。
私はドレスの裾を盛大に踏んづけそうになりながらステージに上がり、そして――。
1年振りに見る彦が、ステージの反対側から上がってきた。
……いや、誰だお前。
1年前のシュッとしたイケメンはどこへ行った。死線の下をくぐり抜けすぎただろ。目が完全に修羅のそれだし、なんか肩幅が1.5倍くらいになってる。福岡で何があった。明太子食いすぎたのか。
ステージ中央、父の前で私たちは並び立つ。
父は、手元の業績データ(莫大な利益の数字)を見つめたまま、完全にぐうの音も出ない顔をしていた。
「……見事だ」
父が、震える声で呟いた。
「まさか、ここまでやるとはな。私の負けだ、織花。……そして、彦くん」
その瞬間。
感動の再会で涙を流すかと思いきや、彦がいきなり父の手からマイクを強奪した。
「社長。いや、お義父さん(仮)。俺たちは、あんたが用意した『7月7日の1日だけ』の逢瀬なんかで満足するほど、お行儀の良い社畜じゃねえんだよ」
会場が、ざわ……と静まり返る。
「この1年、俺がどんな気持ちで過ごしたか分かるか? 織花に会えない寂しさを紛らわせるために、俺が作った『織花の1分の1スケール可動式3Dモデル』のデータ量、30テラバイトだぞ? サーバーの容量がパンクして、福岡支社の始末書が山積みなんだよ!」
「ストップ!!! ちょっと待って彦くん!? なんか後半のセリフがめちゃくちゃ気持ち悪いんだけど!!」
私はたまらずステージ上でツッコミを入れた。数千人の前でバラす内容じゃない。
「うるせえ織花! 俺の愛の重さをデータ量で測るな! ……とにかく社長! 俺と織花が叩き出したこの数字と、海外投資家とのコネクションがあれば、今ここで会社を辞めて起業することなんて朝飯前なんだよ。俺の画面デザインの知的財産権と彼のアセットの独占契約を引っ提げて、来月から競合他社としてあんたの会社を完膚なきまでに叩き潰すか――選べ、ゴリラ!!」
「誰がゴリラだ貴様ァァァ!!」
父が、ついに社長の仮面を脱ぎ捨てて怒鳴り散らした。
「娘をやるわけがないだろう! お前みたいなデータ量の重い変態モデラーに、私の可愛い織花を渡せるか! だいたいな、福岡支社の始末書の半分は、お前が『織花の夢を見た』とかいう理由で会社の経費で高級明太子を爆買いしたやつだろうが!!」
「あれは開発のモチベーション維持に不可欠な経費だろーが! ケチケチすんなクソ親父!」
ステージ上は、感動の総会から一転、ただの世知辛い家族会議(泥仕合)へと変貌を遂げていた。
会場の社員たちは「え、何これ」「これが天才たちの会話?」「明太子食べたい」と完全に困惑している。
父はしばらく息を切らせて彦を睨みつけていたが、やがて、ガシガシと頭を掻いて吐き捨てた。
「……チッ。勝手にしろ。ただし、来期のノルマは今年の3倍だ。1円でも下回ったら、即座にお前を今度はアマゾンの奥地の支社に飛ばすからな」
「受けて立ってやるよ。その時は織花の3Dモデルを40テラバイトにして連れて行くからな」
「だから私のモデルを勝手に増やすな!!」
こうして、現代の天の川は、圧倒的な実力と、いくつかの気持ち悪い執着によって、力技で破壊されたのだった。
♡⃜ ♡⃜ ♡⃜
総会の喧騒を抜け出し、ホテルの最上階にあるバルコニーへ逃げ込む。
都会の夜空を見上げれば、天の川のベガとアルタイルが輝いている。
「待たせてごめん、織花」
彦が後ろから、今度は優しく私を抱きしめた。
「……本当にね。でも、30テラバイトは後で全部消去してもらうから」
「鬼。UIデザイナーの皮をベガのように被った鬼がいる」
文句を言い合いながらも、私たちは自然と笑い合っていた。
彦は私の顎をクイッと持ち上げると、1年間の空白をすべて埋めるように、深く、少し強引に唇を重ねてきた。
……うん。キスだけは、1年前と変わらず、最高に甘くて熱い。
「もう絶対に離さない。俺の最高にイケてるデザイナーさん」
「私も。私の、ちょっとストーカー気質な世界一のモデラーさん」
権力に引き裂かれた、私たちの恋。
だけど私たちの執着(とギャグ線)は、天の川に新しい橋を架けてみせたのだ。
……あ、お父さんが遠くの陰からハンカチ噛み締めてこっち見てる。明日、またノルマのことで揉めそうだな。
了
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
離れている間に彦くんの愛の方向性が30テラバイトほど斜め上に進化してしまいましたが、最後は(物理的に)ハッピーエンドということで、お義父さんにもしっかり認められて(?)良かったです。
やっぱり、明太子パワーは偉大ですね。
もし「テンポが良かった!」「ちょっとクスッとした」「ゴリラパパ不憫」と思ってくださった方は、ページ下部にある【☆☆☆☆☆】の評価や、ブックマークをポチッと押していただけると、執筆のモチベーションが30テラバイトほど爆上がりします!
皆様の願い事も、どうか叶いますように。
今後も小説投稿を続けますので、また別の物語でお会いしましょう!




