心のままに決断を下す(完)
ユウキは、胸の奥にずっと重く沈んでいた答えをゆっくりと整理していく。
甘い未来を想像しても、どれも本物には届かなかったのだ。
心はもう、最初から決めていたのかもしれない。
「誰も選べないや」
選べば、誰かが傷ついてしまう。
選ばなくても、やはり傷つけてしまう。
それでも、正直な心から逃げたくはなかった。
「ごめん、そういうふうには……見れないんだ」
それだけが、真実であったのだ。
そしてユウキは、それぞれのもとへ返事をしにいくこととなる。
あの日と同じベンチで、ユウキはケイタと並んで座っていた。
「それで……返事、聞かせてくれよ」
その声に、少しだけ震えがあった。
ユウキは深く息を吸い、強く拳を握りしめていた。
「……ごめん。俺、ケイタのこと、友達としか考えられない」
ケイタの表情が、ほんの一瞬だけ固まった。
しかし次の瞬間、いつものように大げさに笑って見せた。
「そっか……。そうだよな、ごめん。なんかそんなが気してた」
それが強がりであることは、はすぐにわかった。
笑顔の奥で、瞳が少し濡れていたのだ。
「……でもさ。これからも、友達でいてくれるんだろ?」
その言葉に、ユウキは素直に頷いてみせた。
「もちろん。ケイタと一緒にいるの、楽しいし」
「なら、それでいい。困らせて悪かったな、ユウキ」
「ううん。好きになってくれて、ありがと……」
ケイタは静かに、空を見上げた。
「また一緒に、バカやろうな」
その言葉は、ユウキの胸に温かく残った。
それでも、わずかに胸が痛む。
別れ際、ケイタは振り返らなかった。
しかし、力強く手を振っていた。
その日のバイト終わり、誰もいない厨房でユウキはシュンと向き合っていた。
「……返事、聞くよ。覚悟はできてる」
大きな手が震えていることに気づいて、思わず言葉がつまってしまう。
それでも、逃げずに向き合った。
「ごめんなさい。俺、シュンさんのこと……。恋愛としては見られないんです」
シュンは、静かに目を閉じた。
長い沈黙が落ちた。
やがて、頭を下げていた。
「……ちゃんと言ってくれて、ありがとう」
声は低く、少しだけかすれていた。
「でも、シュンさんのことは……。尊敬する先輩です」
その声に、シュンは顔を上げていた。
そこには、いつもの頼れる笑みが浮かんでいた。
「そうかよ……ありがとな。お前が困る顔は、もう見たくなかった。だから言ってくれて、助かったよ」
そして、静かに息を吐く。
「俺、お前のことまだ好きだけどさ。それでもいいか?遠くから、元気でいろよって……思わせてくれよな」
「はい……」
「なんでお前が、泣くんだよ」
泣いてはいなかったはずであったというのに、思わずユウキの目の奥が熱くなる。
シュンは背中を強く叩き、一歩だけ離れた。
「じゃあな、ユウキ。ちゃんと帰れよ?」
大きな背が、扉の向こうに消えていった。
その後、自転車を押しながらユウキはサトシに遭遇することを祈っていた。
「お帰り、ユウキ」
サトシはやはり、あの曲がり角で待っていた。
「サトシ……。あの時の返事、してもいいか?」
サトシはまっすぐにユウキを見つめ、ゆっくりと頷いた。
「いいよ、聞かせて」
ユウキは唇を噛み締め、小さく首を横に振った。
「……ごめん。サトシは……大切すぎる存在なんだ。恋とかじゃなくて、家族みたいな……。だから、その気持ちには応えられない」
サトシはほんの少しだけ、目を閉じた。
しかし目を開け、いつものように美しく微笑んだ。
「……そっか、」
たった一言、そう告げた。
しかしその声には、積み重ねた何年分もの想いがにじんでいた。
「ユウキが選んだ答えなら、俺はそれを受け入れるよ」
サトシは優しく、笑っていた。
その笑顔が、ユウキには一番つらくも思えた。
「俺は、まだユウキのことが好きだ。でも……押しつける気はない。これからも隣にいるよ。恋じゃなくてもいい。家族みたいに、見守るから」
「ありがとう……本当に、ごめん」
サトシはゆっくりと、ユウキの頭を撫でる。
それは幼い頃と同じ動作であり、しかし今は涙がにじんだ。
「泣くなよ。……じゃあな」
そう言って、サトシは歩き出した。
決して、こちらを振り返るようなことはなかった。
「これで、よかったんだ……」
ユウキは一人、静かに家に帰った。
***
部屋の扉を開け、ベッドに倒れこむ。
胸が、苦しくて仕方がない。
「俺は、ちゃんとできたのか……?」
選ばなかった、その未来。
壊れてしまったかもしれない、その関係。
しかしそれは、偽りで繋ぎ止めるよりかはずっとまっすぐな道であったのだ。
世界のどこかで、見えない文字が静かに浮かび上がる。
『BAD END:好感度不足』
もちろんユウキが知ることのない文字であった。
この世界が、平凡な攻略対象を落としていくBLゲームの世界であるということを。
そしてその攻略対象のうちのひとりが、ユウキであることも。
ただ一つだけ、確かなことがある。
自らの心で選んだ結末は、偽りのない本物であったのだ。
そして物語は、静かに幕を下ろすのであった。
終




