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一日に三回も告白された嘘みたいな俺の話、聞く?  作者: 陽花紫


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3/4

シュンとの未来

 ユウキが選んだのは、シュンであった。


 ケイタの優しさも、サトシの長い想いも、全部本物であった。

 だからこそ、苦しくもあったのだ。

 三人からの告白から三日、ほとんど眠ることなく考え続けていた。


 胸の奥で最後に残ったのは、あの日の厨房でシュンが見せた、必死に絞り出したような声であった。

 その声が、何度忘れようとしても離れなかった。


 逃げずに向き合うと、そう何度も言い聞かせて電話をかける。

「今日、会えますか?」

 すぐに返ってきた声は、いつもより低く、少し震えていた。

『いいよ。駅前で会おう』


 その言葉だけで、涙がこぼれそうになった。


 夜の駅前は、店の灯りと車のライトによって明るく照らされていた。

 交差点の向こう側では、私服姿のシュンが立っていた。

 ユウキとは三歳しか違わないはずであるというのに、その姿は相変わらず年上の落ち着きで溢れていた。


 腕を組んで空を見上げていたが、ユウキに気づくと目を丸くして近づいてくる。

「……どうした?電話、少し暗かったから」

 いつもの軽さは控えめに、シュンは不安を隠すように微笑んでいた。

 ユウキは深く、息を吸う。

「その……。返事を、しにきました」

 その瞬間、シュンの表情がわずかに強張る。

「言わなくていい。……無理だったら、言わなくていいんだ。それじゃ」

「そんな、聞いてください!」

 逃げようとする腕を、ユウキは強く掴んでいた。

「好きなんです。……俺もシュンさんのこと、ずっと……」


 街の騒音が、どこか遠くへと消えていくような気がしていた。

 シュンは息を止めて、目を瞬かせていた。

 何秒か、固まってしまう。


「……本当か?」

「本当です」

 ユウキはたまらず、声を絞り出す。

 胸が苦しくなるものの、その気持ちを正直に打ち明けた。


「俺、シュンさんのことが好きなんです……」


 その瞬間、ぐいと腕を掴まれた。

 強く静かに、ユウキの身はシュンの手によって抱きしめられていたのだ。

「……っ……よかった……!……俺……」

 シュンの声は、涙に濡れていた。

「……絶対振られると、思ってた……」

「どうしてですか……?」

「バイトでしか、接点ないだろ?……それにお前、モテそうだし……」

 ユウキの背中に触れる手が、わずかに震えていた。

 そのような弱さを知った瞬間に、思わずユウキの胸は熱くなる。

「そんなこと、ないですよ。俺、モテないですし。……それに、シュンさんだって……」

「お前ぐらいだぞ、そう言ってくれるの」

 ユウキはそっと、静かに笑うシュンの背に腕を回した。

「かっこいいと思いますよ、シュンさんのこと……」


 シュンは、ゆっくり顔を上げた。

 目元がわずかに赤くなり、その笑みは少し幼くも見えていた。

「ありがとう。ユウキ、本当にありがとう……。大事にする」


 夜風が優しく、二人の身を包み込んでいた。


***


 それからの日々は、どこか特別であるかのように感じられていた。

「お疲れ。今日の仕事、すっげー助かった!」

「当たり前ですよ。なんてったって、シュンさんの後輩ですからね!」

「おい、後輩以上になっただろ?」

「……へへ、そうでした」

 誰もいない厨房で、二人だけの会話が交わされる。

 忙しい日は言葉を交わせないまま時間が過ぎていたが、目が合えばそれだけで充分であったのだ。


 閉店後。

 店外に出ると夜風が冷たく、シュンがさりげなくユウキに向けて上着を肩にかけていく。

「ほら、寒いだろ」

「えっ、シュンさんのほうが薄着になっちゃいますよ?」

「俺は平気。少しは鍛えてるからな」

「そんな、強がらないでくださいよ……」

 ユウキがそう笑えば、シュンはわずかに照れたような顔になる。

「お前の前じゃ、強がれねーよ」

 その言葉だけで、ユウキの心臓が跳ねるようでもあった。


 ユウキは自転車を押し、シュンは歩きで。

 帰り道は、二人で並ぶことも多くなった。

 赤信号で止まるたびに、ぎこちなく笑い合う。


 途中にある公園に寄り、シュンはぽつりとこぼしていた。

「……手、繋いでもいいか?」

「はい、どうぞ」

 大きく温かく、シュンの全てを包み込むような手であった。

 握られたその瞬間に、自らの心がどれほどシュンのことを求めていたのかをユウキは初めて理解した。

「もう、離さねーからな?」

「はい、離れません」



 ある夜、二人は閉店作業を終えて一息ついていた。

 周囲は早々に帰ってしまい、店に残るのはユウキとシュンだけであった。


 念入りに戸締りを確認してから、シュンが言った。

「その、キスしてもいいか?」

「……はい」

 触れた唇は、信じられないほど優しくもあった。

 短く触れて離れて、また触れた。

 触れるたびに、胸の奥が満たされていくようでもあったのだ。

「ユウキ、好きだ」

「俺も、……」

 誰もいないバイト先で、こんなことをしてもいいのだろうかという背徳感が湧き上がる。

 シュンもまた、そのような顔をするユウキに気が付いたのかそっと唇を離してみせた。

「悪い、とばしすぎた」

「いえ……ぜんぜん……」

 そして、静かに抱きしめる。

「お前のことは、大事にしたい。男と付き合うの、初めてだろ?」

「そうですけど……。シュンさんと、その……キスするのは嫌じゃなかったですよ?」

 その言葉に、シュンは笑みを浮かべて頬に唇を押しあてた。


「……送ってく。準備しろよ?」

「……はい!」


 それからも、二人は甘く幸せな日々を送っていた。


***


 しかし、転機は突然訪れる。

 シュンが社員として昇格した頃から、二人はすれ違うことが増えてしまったのだ。


「シュンさん、手伝いましょうか?」

「いや、大丈夫だ。送れなくて悪いな、気を付けて帰れよ」

「はい。お先です……」


 残業が増え、責任のある仕事も増えていったのだ。


「あれっ、今日シュンさんは?」

「急な応援で、よその店舗に行ってるんだって」

「せっかく社員になれても、大変だよな」

「……そうなんですね……」


 せめてメッセージでも送ってみるものの、返事がこないこともあったのだ。


『最近、無理してませんか?』

『大丈夫。ありがとう』

『明日、会えませんか?』

『明日も応援入った、ごめん』


 短いメッセージばかりがならび、顔を合わせる時間も減っていた。


 やがてユウキの胸には、不安が積もっていく。


「忙しいのは、わかってます。でも、少しだけ話したいんです……」


 やっと会えたその時には、シュンの顔には疲労が色濃く刻まれていた。

「悪い、少しだけ……寝てもいいか?」

 そうユウキの肩を借りて、シュンは寝てしまう始末でもあったのだ。

「シュンさん……」

 弱気になる自らを、情けなく思った。

 しかしユウキは、寂しくもあったのだ。


 やっと休みが重なったその日、ユウキはシュンの家に呼ばれていた。

「本当に、ごめん!ずっと、構ってやれなくて……」

 シュンは強く、ユウキの身を抱きしめていた。

 その震える腕を、ユウキは笑みを浮かべて撫でていた。

「いいんですよ、忙しいの……わかってますから……」

 その言葉に、シュンは勢いよく顔を上げてみせた。


「あの店、辞めることにしたんだ」

「……えっ?」


 シュンは、密かに転職活動をしていたのだと語っていた。

「どんなに仕事頑張っても、ユウキに会えなきゃ意味がないんだ」

 そしてめでたく、このたび次の勤め先が決まったのだとも。

「昼間の時間だから、これからはユウキのことを迎えに行ける。休みもちゃんとあるし、これからはしっかりデートもできる!」

 その言葉に、ユウキは目に涙を浮かべて喜んだ。

「ごめんなさい……。俺、そんなこと知らなくて……」

「いや、言わなかった俺が悪かった。心配かけて、ごめん。でもこれからは、ユウキとの時間も大切にしたいんだ」

 そう強く口づけられ、ユウキは精一杯の笑顔をつくってみせた。


***


 あれから数年後。


 ふたりで借りた小さな部屋で、ユウキとシュンは暮らしていた。

 ぐったりとソファに倒れ込んだシュンに向けて、ユウキは静かにタオルを差し出す。


「お疲れさまでした」

「ただいま……。あー、腹減った」

「今日は、コロッケですよ」

 その言葉に、シュンはがばりと起き上がりユウキの身を強く抱きしめる。

「まじか、俺の大好物じゃないか!」

「はい!頑張って作ったので、早くお風呂に入ってください」

「ありがとう、ユウキ」


 二人はともに食卓を囲み、笑い合う。

 ふと、シュンがユウキの手を取る。


「なあ……。これからも、俺と一緒に生きてくれるか?」

「もちろんですよ、シュンさん」

 静かに指を絡めて、微笑んだ。


 二人の未来は、明るく続いていくのであった。


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