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Sun of Mars  作者: うどん
第一章:押忍! メカ・バト部!

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6/21

005:約束されたリベンジ

「――もう一度ッ!!! お願いしますッ!!!」

「馬鹿やめろ!!! 限度を知らんのか!?」


 俺は――負けた。


 何十何百とゴリ先輩に勝負を挑み。

 その度に機体をバラバラにされてリアルな痛みを体感した。

 体に弾丸が突き抜けていく感覚。

 頭を砕かれる感覚に、足が砕ける感覚。

 あらゆる痛みと、その先の――死だ。


 痛みは熱く焼け焦げるようだが。

 死は冷たく、無に近づく感覚だった。

 人は痛みを恐れ、死に恐怖するもの。

 が、俺はそれを何度経験しようともまるで恐れる気持ちが湧かない。

 寧ろ、心が前へと進み、更なる成長を遂げているようだった。


 

 戦いたい。

 戦って戦って戦って戦って――もっと強くなりてぇ!!


 

 何処までも強く、誰よりも強靭で。

 天よりも高い場所へと駆け上っていきたかった。

 その先にはきっと俺の理想が、夢がある筈だからだ。


 だからこそ、引きつった顔をするゴリ先輩に対して何度も頭を下げる。

 先輩はそんな俺に対して険しい表情を向けて来た。


「……ジン。体に不調は無いのか」

「え? 無いっすよ! 元気バリバリっす! こう見えても、頑丈な事と健康な事が自慢ですからね!」

「……そうか。だが、それは明らかな――異常だ」

「はぇ?」


 ゴリ先輩はゆっくりと説明する。

 痛みは誰にとっても怖いもので。

 死というものは想像すら出来ないからこそ恐怖でしかない。

 そんなものを何十回も経験すれば、確実に肉体よりも先に精神に異常を来す。

 が、俺は寧ろ元気になっている事がおかしいと先輩は言う。


「……いや、でも、ゴリ先輩がこれを俺に」

「それはそうだ。だが、それは一日に数度。多くても十回を限度に使うものと考えていたからだ……だが、お前と今日だけで戦った回数は103回だ。103回だぞ? お前が死んだ回数だ」

「ほぇぇぇ、それはすげぇっすね……でも、俺は大丈夫っす!」


 俺は胸を叩き元気だとアピールする。

 すると、先輩は目を細めながら俺を見つめて……小さくため息を零す。


「……俺は逸材以上の人間を部に引き込んだようだな……それでもだ。今日は終いにする」

「えぇぇぇぇぇ!? そんなぁ」

「……俺としてはお前が音を上げるまでに待つつもりだったがな……まぁデータは十分に集まった。だからこそ、この際、ハッキリと分析した結果をお前に伝える。よぉく聞くんだぞ?」

「お、オッス!」


 俺は拳を腰で構えて返答する。

 先輩はゆっくりと目を閉じてためを作る。

 無音のガレージの中で、俺はごくりと喉を鳴らし――先輩がカッと目を見開く。


 

「お前にメカ・バトの才能は――無いッ!!」

「ええぇぇぇぇぇ!!!?」


 

 先輩は人差し指を俺に向けてハッキリと宣言した。

 俺は目を見開き口を大きく開けて驚く。


 確かに、先輩には手も足も出なかった。

 しかし、俺としてはかなり戦えたと思っていたが……。


「……いや、驚く事か? 客観的に見れば明らかだろう」

「な、何が?」

「――何もかもだよ、アホがッ!!」

「あ、アホって!?」


 先輩は説明する。

 銃の扱いは水鉄砲で遊ぶ幼稚園児以下であり、狙いがまるで定まっていない。

 近接武器の扱いに関しても、ただ振り回しているだけで隙だらけ。

 攻撃の回避などに関しても、動きが派手過ぎてセンスが無い。


「ド素人丸出しのガチャ押しタイプがお前だ。ジンよ」

「う、うぅぅ、ガチャ押しは悪くねぇだろ! う、うぅぅ!」


 俺は膝をつき、がっくりと項垂れる。

 折角、自分の体のように機体を動かせるようになったのに。

 これではまるで意味が無い。

 俺は少しだけ凹みながらこれからどうするかを考えて――先輩が俺の肩に手をおく。


「……だが、そんなお前にも他より優れた点がある……それは根性だ」

「こ、根性?」

「そうだ。お前は百回以上負けても、絶対に諦めて逃げなかった。音を上げるように仕向けて、気持ちよさの欠片も与えてやらなかったこの俺に対して、お前は何度も立ち上がり挑んできた……そして、そんな根性だけの戦いで、お前は確実に学んでいたぞ」


 先輩はそう言って目の前にディスプレイを投影する。

 それは時間が掛かれていて、俺とゴリ先輩の勝負が決するまでの時間が掛かれていた。


「……これって……すげぇ微妙だけど……時間が、伸びてる?」

「そうだ。お前はこの俺を相手にして、少しずつだが、生き延びる事が出来ていた。たった数秒、トータルでいえば数分だろう。が、確実にお前は戦いの中で学び自分の力に変えていた……そんなお前だからこそ、相応しい戦い方がある」

「俺に、相応しい……戦い方?」

「そうだ……が、これはたった一度だけのものだ。何度も使う事は出来ない上に、お世辞にも格好の良い戦い方ではないだろう……それでも、やってみるか?」


 先輩は真剣な顔で問いかけて来た。

 俺はそんな先輩の目を見つめて――にかりと笑う。


「やります!!! 俺にそれを教えてください!!!」

「――分かった!! お前ならそう言うと思っていたぞ!! ならば、明日からそれだけをお前に教え込む。大凧との決戦の日は――三日後だッ!!」

「三日ッ!! いや、分かりました!!」


 俺は立ち上がる。

 すると、先輩はすっと手を差し出して来る。

 俺はその手を見つめて、がっしりと握り返した。


「今度は、これであってますよね」

「あぁ、勿論だ――ジン。俺はお前を信じているぞ。だから、この信頼を裏切ってくれるなよ?」

「ありがとうございます!! 俺は絶対に大凧先輩に勝って見せます!!」


 先輩との熱い握手。

 先輩はそんな俺を見つめて微笑んで……ん?


「ふふふ、あぁ、勝ってくれ。勝ってくれなければ困る。もし負ければ……“アーナス”だ」

「あ、アーナスって……あの、極寒地帯の? え、あそこが何か……せ、先輩」

「ふふふ、お前は気にしなくていい。ただ、負ければ、アーナスなんだ。お前も、俺も……ふ、ふふふふ」

「せ、先輩ぃ手ぇぇ手がぁぁ!!?」


 先輩は俺の手を握りつぶす勢いで握って来る。

 俺は歯を食いしばりながらそれに耐えた。

 先輩はただただ不気味な笑みを浮かべながら、光の無い瞳で遠くを見つめていた――



 ◇



 先輩との特訓を開始して――約束の日を迎えた。


 今度は校庭には集まらず。

 そのままアナザーワルドへと出向き。

 先輩がセッティングしてくれた決戦の場へと飛んだ。


 ジャンプと呼ばれる機能で、決戦の場に向かえば――大勢の人間がいた。


「「「――ウオォォォォォォ!!!」」」

「……っ! すげぇ!」


 会場から上がる歓声。

 色々なアバターが一か所に集まっている。

 その数はざっと数えて千人は超えている気がした。


 ドーム状になった建物内。

 その中でスポットライトを浴びながら、俺は反対側に立つ男――大凧先輩を見つめる。


 そのアバターはタコのようで。

 無数の赤い触手がうねうねと動き。

 二つの太い触手が腰らへんと顎のような場所に添えられていた。

 先輩はニヤニヤと笑いながら、俺を見つめる。


「ジン。まさか、奴隷となって僅かな間に、この俺様に対して謀反を起こすとはな……これはよほど強い教育が必要なようだなぁ」

「……約束を破ったように見えるかもしれねぇがな。別に、俺自身の事は正直どうでもいいよ。勝っても負けても、俺はアンタにとってのパシリだ。この先、アンタの足として使われたって文句は言わねぇよ……けどな、それでも譲れねぇもんはあるんだ」

「……例の件か……ふぅ、分からんな。まるで、お前の考えが理解できない……調べたさ。お前の事もそいつらの事もな。だが、お前たちにはまるで繋がりが無かった。血縁者でも無ければ、友人でもない。そんなお前が何故、赤の他人の事で人生を懸けられる?」


 大凧先輩は触手を向けて質問して来た。

 俺は何を聞くのかと思って――笑う。


「関係ねぇよ。赤の他人でも、吐き気を催すクソ野郎でも。そいつが俺に手を伸ばして、助けてくれって言うのなら――俺は死んでもそいつを救ってやりてぇんだよ!!」

「…………ふっ、くだらんな。少しでも、利のある事を言うかと期待したが……もういい。もう十分だ……テメェはこの俺様が此処でぶち殺すッ!!! ちんけな正義感で動く偽善者がッ!! テメェのような奴が俺は心底嫌いなんだよッ!!! テメェの願いは理解したッ!!! そして、テメェとの奴隷契約も勝てたなら白紙にしてやるよッ!!! ただしッ!!! テメェが負けたら――俺の前で腹を切れッ!!!」

「「「……!!」」」


 大凧先輩の言葉に会場に緊張が走る。

 ざわざわとざわめきが聞こえていた。

 俺は狂気じみた笑みを浮かべる先輩を見つめながら――親指を立てる。


 

「――あぁ!! 分かった!! 俺は承諾するぜ!!」

「……っ!」


 

 大凧先輩は大きく目を見開く。

 俺はそんな先輩を見ながら、準備運動を始める。


「さぁやろうぜ! 後悔しねぇように、全力でだ!!」

「……ふ、ふふふ……面白い。見栄で出た言葉だろうとも、お前は確かに承諾した……逃がしはしない。この契りは必ず果たさせる。そう、必ずだァ!!!」


 大凧先輩は天に腕を掲げる。

 瞬間、奴の体は光の粒子となっていく。

 俺の体も光の粒子となり――――コックピッドの中に転送された。


「……うし。メンテは……問題ねぇな」


 ゴリ先輩の指示通り、先輩の言っていた店で簡単なチューンナップをさせた。

 エースの装甲は増設されて、俺の手にはライフルが一丁と長方形型の盾が握られていた。

 背中には特殊弾を発射できるランチャーとミニガン――完全武装状態だった。

 

 ステージは以前戦った場所と同じ“廃都市”だ。

 半壊したビルや、罅だらけの巨大なオブジェ。

 車の残骸が地面に転がり、炎を上げている場所もある。

 

 ――ゴリ先輩の言っていた通りだ!


『恐らく、お前たちが戦う事になるステージは廃都市だろう』

『何で分かるんすか?』

『アイツはあのステージでの戦いを好む。特に、お前のような世間知らずの相手ならば、あそこを狩り場に指定するだろう……今回はそれを逆手に取る』

「……ふっ」


 俺は笑う。

 先ずは第一段階クリアだ。

 そんな事を考えていれば、空から何かが勢いよく降り立った。


 土煙を上げながら、大地に立ったのはレインであり――青い六つ眼のセンサーが光る。


 

《――何がおかしい? 発狂するにはまだ早いぞ? くくく》


 

 煙が晴れる。

 そこには、多脚型と呼ばれる特殊なレインが立っていた。


 足は全部で四本であり、それはタコというよりは蜘蛛に近い。

 頭部らしきものは半円状になり、センサーが等間隔に並んでいた。

 目に見える範囲では、両手には射撃武器のようなものを持っている。

 が、少々形状が特殊であり……アレはタンクか?


 銃の下部に円筒状のタンクがつけられている。

 それから推測するに、恐らくアレは――火炎放射器か!


 スラスターは背中から伸びるノズルがメインだろう。

 後は脚部にサブのスラスターが複数あり、機動力も高そうに見えた。

 後気になる点は、背中のノズルの周りで盛り上がっているアレだろう。


 一見すれば羽に見えなくもない。

 が、明らかに羽にしては重そうだ。

 とぐろを巻いた蛇のようであり、中に何かが仕込まれているような気がする。

 アレは武装なのか。それとも……あぁ、クソ!


 分からねぇ。まるで、分析できていねぇ。

 ゴリ先輩は馬鹿な俺の為に大凧先輩の情報を与えようとしてくれていた。

 が、俺はそれをきっぱりと断った。

 何故ならば、これは男と男の勝負だからだ。


 もしも、此処で俺が大凧先輩の機体の情報を持っていればどうなる。

 バリバリに対策をして、勝率を上げる事が出来るかもしれない。

 が、それは卑怯であり、俺の理想とするヒーローとはほど遠い。


 本物のヒーローならば、例え情報が無くとも。

 全力で戦い、必ず勝利を手にするんだ。

 故に、俺はステージ以外の情報はゴリ先輩から貰わなかった。


「……正々堂々と……ぜってぇに勝つ!」

《……ふっ、やってみろ……この俺に勝てたのなら――認めてやろうッ!!》


 カウントダウンが始まる。

 俺たちは、互いに武器を構える。


 カウントダウンはどんどん進んでいく。

 俺はたらりと汗を流しながら大凧先輩の機体を見つめる。


 

 カウントダウンは1となり――0になった。


 

「――オラァ!!」

《――!?》



 俺は銃口を大凧先輩――ではなく、地面に向けた。


 ランチャーが起動し特殊弾である――スモークグレネードを放つ。


 瞬間、火薬の爆ぜる音と共に白い煙が辺り一帯に広がる。

 大凧先輩の機体の微かな駆動音を聞き、俺はすぐに地面を蹴り横に飛ぶ。

 瞬間、ものすごい勢いで何かが俺がいた場所を通過していった。


 俺は走っていき、半壊したビルの中に入る。

 そうして、そのままビルの中を走っていき――飛ぶ。


「――っ!」


 飛んだ――そう、ジャンプだ。


 大きく跳躍し、別の建物の中に空いた穴から入る。

 そうして、そのまま身を屈めながら壁に背を預ける。

 周りを警戒しながら、俺はゆっくりと外を見る……よし。


 上手く、大凧先輩を撒けたようだ。

 今頃、先輩は必死になって俺を探しているだろう。


 廃都市の戦闘において有利な戦い方。

 それは、相手の視界から外れて、そのまま死角から攻撃をする事だ。

 レインにはレーダーの機能はあるが。

 その性能にもピンからキリまである。


 先輩の言葉を聞いて、俺は空いた時間で少しは勉強した。

 レインの世代や、それぞれの機体が持つ特徴なんかをな。

 相手が灰都市を選ぶのなら、勿論、死角からの攻撃を行うが。

 初めて先輩の機体を見て、ピンときた。


 多脚型は、タンク型と同じで重量のある武装を積み込む事が出来る。

 その上、スラスターなんかを増設すれば、小回りの利いた動きも出来るらしい。

 だからこそ、頭部のセンサーも所謂複眼タイプであり――相手の追跡には弱い。


 アレは周りの状況を把握する事には適しているが。

 潜伏する敵を見つけ出す事に関してはそれほど高い性能ではない。

 全方位からの隙をついた攻撃に対処する事に特化したものであり。

 こうやって身を隠している分には、建物などが多くあるせいで探し出す事は不可能だ。


「……第二段階クリア……よし、やるぜ」


 通信は既に切れている。

 俺の位置はバレていない。

 俺はライフルを折りたたみ。

 それを腰の裏のアームでマウントさせる。

 空いた手で盾の裏にある“小さな円状”のそれを一つ掴んだ。

 

「……動くなよ……ビビるな。ビビったら、負けだ!」


 俺は気を引き締める。

 そうして、もう一度周囲の状況をレーダーにて確認する。

 レーダーには反応が無い。

 恐らく、あの場から動いていないのか。

 それか、最小限の動きで俺を見つけ出そうとしているのか……どっちでもいいさ。


 俺は俺のやれる事をする。

 俺は壁から離れて、そのまま別の穴のに向かって走り出した。

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