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Sun of Mars  作者: うどん
第一章:押忍! メカ・バト部!

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21/21

020:勝利の宴を皆と一緒に

「ウォォォォォォ勝ったァァァ――ッ!!」

「ちくしょぉぉぉぉぉ何故だぁぁぁ!!!」

「「「――――!!!」」」


 拳を突き上げて勝利を叫ぶ。

 俺の前で膝をつきガンガンとステージの床を叩く男。

 ボロボロと涙を流して鼻水を垂らして……そ、そんなに悔しいのか?


「今回はぁ今回こそはぁ!! 勝てるとおぼっだのにぃぃぃぃ!!! メンタリストの元で修業して相手を騙す方法も学んだのにぃぃぃぃぃ!!! どうしてだよぉぉぉあああああぁぁぁ!!」

「「「…………」」」


 メンタリストの下で修業して相手を騙す……どういう意味だぁ?


 俺は何も騙されていない。

 普通にエースに乗って戦っただけだ。

 やけに遠距離から攻撃してくる上に。

 無数の音を鳴らして俺の五感を狂わせるような戦い方をしていたが。

 あの謎のフルフェイスとの戦闘で、無用な音をシャットアウトする術は分かっていた。

 だからこそ、こそこそと動く敵を見つけて。

 ブーストによって接近し、後は近距離で殴れば――勝っていた!


「くそくそくそぉぉぉ!!! こんな奴にぃぃぃぃ!!! 脳筋野郎なんかにぃぃぃぃ!!! この俺がぁぁぁぁぁ!!!」

「……すげぇ言われようだけど……また、バトルしようぜ!! おっさん!!」

「おっさんじゃねぇぇぇ!! 俺はまだ二十三だクソがぁぁぁ!!! 覚えてろぉぉぉぉぉ!!! ああああぁぁぁ!!」


 おっさんは自らの年齢をカミングアウトして泣きながら去っていった。

 恐らく、負けは負けでも準優勝として何かしらくれたと思うけど……ま、いっか!


 俺は司会者にマイクを向けられる。

 今の気持ちを尋ねられて――


「最高に――気持ち良いっす!!」

「「「ははははは!!!」」」


 観客席から笑いが起きる。

 司会者は笑っていて、俺のプレイヤーネームと共に手を掲げられる。


 

「第25回べすとふれんどマッチ個人の部!! 優勝を手にしたのはぁぁぁ――初出場のジン選手だぁぁぁ!!」

「「「―――!!!」」」

「……へへ」


 

 俺は照れ笑いを浮かべる。

 最高の瞬間を味わいながら、俺はただただ澄み渡る空を見つめていた――


 

 ◇



「――と、いうことで! 我ら天龍寺高校メカ・バト部の個人の部と団体の部、優勝を祝して――乾杯だぁぁ!!」

「「「おぉぉ!!!」」」


 グラスを打ち付ける。

 そうして、俺たちはそれぞれの飲み物を飲み始めた……うめぇぇ!!


 キンキンに冷えたコーラは最高だった。

 喉を通ればほどよい刺激で、目が覚めるようだ。

 桜間もジンジャエールの味にうっとりし、坂崎さんもいちご牛乳に満足そうだった。


 べすとふれんどマッチが終わり。

 俺は優勝賞品として米俵三俵と高級味噌の一年分の引換券を貰った。

 これらはあの商店街で使えるらしいので、今日使わなかった分はまた時間が出来たら取りに行こうと思う。

 ゴリ先輩たちの方も賞品があり……今、俺たちはそれを食うのだ。


 蟹であり、それも何匹とかではない。

 合計で百五十匹だ。それも生きている上に、かなりデカい。

 火星で養殖された蟹であり、品種改良によって一匹の重さは驚異の15㎏だ。

 空はお世辞にも上手そうに見えない紫色で。

 蟹自体の名前も“デビルクィーンクラブ”というらしい。

 クィーンの由来はこの蟹はメスしかおらず。

 子供を作る時にオスを必要としない特徴があって……そんな事を思い出していれば、店長が現れる。


 ガタイの良い褐色の肌の店主で、頭には青い三角巾を巻き。

 小さな黒いグラサンを掛けていた。

 四十後半らしく、皺があるがさわやかな顔であり。

 白髪の混じった団子状にした黒髪も、この人にとってはおしゃれのようだった。

 手には白い軍手をつけていて、腕まくりをする事で立派な腕が見えていた。

 腰には青を基調として、力士の姿が描かれたエプロンをつけている。

 黒い長靴を履き、定食屋の店長というよりは魚屋の人に見えてしまうが。

 本人にそれを伝えれば、笑みを浮かべながら頬を叩かれた。


 店長の貞治さんは、首に掛けたタオルで汗を拭いながら俺たちのテーブルの前に立つ。

 

「いやぁゴリちゃん。今日はあんがとねぇ。まさかこんなに活きの良い蟹をプレゼントしてくれるなんて……久しぶりに腕が鳴ったよぉ」

「いえいえ、大した事はありませんよ。何時も此処を使わせてもらっている礼です」

「はは、そうかい? まぁ、今日は大先生もいたからねぇ。今までで一番の力作だよ!! さ、それでは――オープン!!」

「「「おぉぉぉぉぉ!!!」」」


 店主が俺たちのテーブルの真ん中に置かれた巨大な鍋の蓋を取る。

 すると、むわりと蒸気が噴き出し――香ばしい香りのカニ鍋が姿を現した。


 毒々しいと思っていた紫色の蟹は焼いた事で宝石のような輝きを持ち。

 彩豊かな野菜類は、黄金の色のスープに揺られて瑞々しかった。

 白菜に人参に、豆腐やキノコ。

 カニ鍋としてはオーソドックスであるが、その香りは今まで嗅いだことが無いほどに濃厚な気がした。

 

 定食者サダハルに集まった“人たち”。

 俺たちだけでは食べきれないからとゴリ先輩が多くの人間を集めてくれた。

 その結果、それなりに広い店内は人で溢れて。

 子供も老人も関係なく、誰しもが茶碗を持って涎を垂らしていた。


「さぁ!! 皆さん!! じゃんじゃん食べてください!! そして、どうか!! 我ら天龍寺高校メカ・バト部の事を今後ともよろしくお願いします!!」

「「「おおぉぉぉ!!!」」」


 ゴリ先輩の言葉に大人たちが喝采を上げた。

 先輩はお辞儀をして席につく……一瞬、あくどい笑みが見えた気が……き、気のせいだよな?


 皆が皆、蟹を取って食べて行く。

 俺も取ろうとすれば、ゴリ先輩が俺たちの分をよそってくれた。


「ほら、ジン」

「あ、あざっす……おぉ」


 もりもりに蟹や野菜が盛られている。

 桜間や坂崎さんの椀も同じだ。

 先輩たちを見れば少し控えめだ。


「……? どうした? 食わんのか?」

「え、いや……先輩たちももっと食って下さいよ! なぁ?」

「そ、そうだね。先輩たちも……いや、ほとんど僕が……い、いえ何でも!」

「……まぁいい……俺たちも勿論食うさ。が、祝いの席で俺たちが後輩よりも食う事はせん」

「如何にも」

「まぁそうだよねぇ。ふふふ」

「……? 何でですか?」


 俺は気になって質問してしまった。

 すると、ゴリ先輩は微笑みながら教えてくれた。


「……俺たちもそうだったからだ。一年の時に、先輩たちがこういう席では椀をよそってくれてな。自分たちは二の次で腹いっぱい食わせてくれた……去る人間より、これからの世代にこそってな……それだけだ」

「……良い人だったんすね。はは、マジで会って見てぇな」

「……ふっ、そうだな。何れは会えるだろうな……ほら、そんな事よりさっさと食え! 折角の料理を冷ますなんて俺が許さんぞ?」

「あ、はい!! 頂きます!!」


 俺は頭を下げてから蟹を手に取る。

 熱々であり、何とか持ちながらパキリと割る。

 すると、太く長い脚の殻の中からプリっと鮮やかなピンク色の身が露になる。

 俺は目を輝かせながらその身を先ずは何もつけずに食べて――うぉぉ!!


「んめぇぇぇぇ!!!! 何だこりゃああああ!!!」

「お、おいひぃぃぃぃ!!! 凄いよこれ!!!!」

「んーーーー!!! 口の中で出汁が広がりますぅぅぅぅ!!!」


 俺と桜間は美味しさのあまり目から光を放つ。

 坂崎さんもほっぺを抑えて頬を紅潮させていた。

 先輩たちは満足そうに頷き、静かに食べ始めた。


「うん、確かに美味いな」

「えぇとても美味です」

「美味しいねぇ。けど、やっぱり……ジン君たちがいるから美味しいんだろうねぇ。ふふふ」

「……ふっ」


 先輩たちは余裕の表情で食べている。

 が、俺たちはそんな先輩たちに何かを言う事も出来ず。

 勢いのままに蟹を喰らっていった。

 すると、目の前に山のようにあった蟹が秒で減っていき――


「お、おい!! 流石に食い過ぎだぁ!! お前ら遠慮を知らんのかぁ!?」

「ふぇ!? はんでふか!? はかんえぇっふよ!!」

「うんまぁぁぁ!!!」

「おいひぃぃぃぃ」

「くっ、ダメだ。こいつら食欲が暴走している。お前らすぐに蟹を確保――もう、無い、だと?」


 俺たちはすぐに鍋の中の蟹を平らげた。

 すると、ゴリ先輩は光の無い瞳を服部先輩に向けていた。

 服部先輩は手に持った蟹をさっと後ろに隠す。

 

「……寄越せ」

「部長殿。流石にその命令は呑めません――あぁいけません!! いけません!!」

「うるさい!!! 部長の命令は絶対だぁぁ!!」

「……もう何やってるの? 蟹ならすぐに新しいのを持って来てくれるのに……はぁ」

「「「ぷっ、はははははは!!!」」」


 俺たちは笑う。

 先輩たちが取っ組み合いの喧嘩を始めた。

 蟹の殻をぬんちゃくのように振り回す姿が面白い。

 何時の間にか、食べていた人たちも観戦を始めていて……あぁ、良いな。


 

 楽しい。

 最高に楽しくて……“お前”にも見せてやりてぇな。

 

 

 俺は席から立ち上がる。

 桜間が声を掛けて来たが、妹に電話を掛けるからと言って出る。


 定食屋の扉をガラガラと開けて外に出れば……ちっと寒いな。


 空には星が見えていて、すっかり夜だった。

 鳥や虫の鳴き声が小さく聞こえている。

 

 俺は体を少し震わせながらも。

 以前まで使っていた端末を出す。

 古い型であり、二つ折りだがまだまだ現役だ。

 俺は番号を押してから、耳にそれを当てて……繋がる。


《……どうしたの? こんな時間に掛けて来るなんて……もしかして、ハプニング!?》

「はは、ちげぇよ……今な、学校の先輩や友達……それと沢山の人たちと飯食ってんだ」

《えぇぇ!? 私抜きでそんな楽しい事……ずるいよ!! お兄ちゃん!!》

「はは、悪かったって……俺も、もう高校生だ。メカ・バトを始めたって言ったよな? 俺は絶対に……ヒーローになるからよ。だから……応援してくれよ」


 妹の声が止まる。

 考えているようであり、俺は暫く待ち……くすりと笑う声が聞こえた。


《……分かった! 頑張れお兄ちゃん! 君ならなれる!》

「おぅ! 絶対になる! 可愛い妹の為にも、最高最強のヒーローにな!」

《うん! その時を待ってるよ!! ……あ、ごめんね? そろそろ》

「あ、悪い! じゃ切るな……おやすみ!」

《うん、おやすみなさい》


 妹の声が消える。

 俺はゆっくりと端末を下ろしてぱたりと閉じる……よし。


 アイツは応援してくれている。

 頑張れって言ってくれた。

 なら、死ぬ気で頑張るのが――“俺の務めだ”。


 俺は笑みを浮かべる。

 そうして、ガラガラと扉を開ければ――蟹の甲羅が顔に当たる。


「あっちぃぃぃぃ!!!」

「「あ、悪い」」

「な、何やってんすかぁぁ!!?」


 喧嘩はいつの間にか終わっていた。

 見れば、テーブルをのけて七輪の上で甲羅を焼いている。

 酒瓶を顔の赤い爺さんが持っていて。

 それをとくとくと甲羅の中に注いで何かを作っていた。


「……甚六さんが教えてくれたんだがなぁ。こうやって日本酒を入れて火で焙れば……美味いらしい」

「そうそう、ちょっとばかし七味なんかも入れてな……うぅん、某の食欲が刺激されるぅぅ」


 ゴリ先輩と服部先輩は手を擦りながら今か今かと焼かれる甲羅を見ていた……ぇ。

 

「…………え、いやいや、く、食わないっすよね? それ、がっつり酒ですよ? それは、ちょっとぉ」

「「……? 水だよ?」」

「おいそいつら止めろぉぉぉぉぉぉ!!?」


 先輩方が蟹の甲羅を取って飲もうとする。

 すかさず俺がゴリ先輩の腕を掴み、桜間も服部先輩の腕を掴んでいた……つ、つぇぇ!!?


「ははは、良いではないか良いではないかぁ」

「馬鹿!? 捕まるぞ!? 夢どころじゃなくなるんだぞ!?」

「食いてぇんだよォォ!!!」

「馬鹿野郎ォォォォ!!!」

「某も後に続きますぞぉぉぉ!!」

「頭おかしいですよぉぉぉアンタらぁぁぁ!!?」

「「「はははは!!!」」」


 俺と桜間は先輩に振り回される。

 そんな中でも笑いは絶えず。

 俺自身も小さく微笑み――確かな幸せを感じていた。

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