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Sun of Mars  作者: うどん
第一章:押忍! メカ・バト部!

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2/21

001:怪しげなゴリラからの勧誘

 ゴロゴロと車輪が回る音がする。

 後ろでは汚い野次が飛んでいて、体は燃えるように熱かった。

 全身に力を込めながら、足で地面を蹴っていく。

 一歩一歩、早歩きほどのスピードで進んでいく。

 周りを通る奴らは必死な顔の俺を見ようともせずに先に学校へと行ってしまう。


 パシリ――否、俺は奴隷だった。


「ぐぅ!! ふぅぅ!!!」

「ほらほらぁどうしたぁ? これでは日が暮れてしまうぞぉ?」

「うぅぅ!!! ふぁぁ!!!」


 俺はだらだらと汗を流しながら、必死になって荷車を押す。

 普通の荷車ではない。大柄の男たちが五十人も載った巨大な荷車だ。

 それを必死に引きながら、天龍寺高校へと続く坂を登っていく。

 周りを通る生徒たちは俺たちには見向きもしない。

 これがこの学校の普通であり、弱者は強者に使われるしかない。

 俺は決闘で負けた。だからこそ、この待遇も甘んじて受けなければならなかった。


 歯を食いしばり、必死になって前へと進む。

 足に力を込めれば、荷車はゆっくりではあるが進んでいく。

 が、特等席で座る大凧先輩は遅いと一蹴し鞭を振るった。

 背中に鞭が当たりひりひりと痛みが走る。

 俺はカッと目を見開いて、強く叫びながらスピードを上げて坂を駆けあがっていった――


 

 ◇



「……はぁぁぁぁ、疲れたぁぁぁ」


 入学してから三日が経ったが。

 大凧先輩のパシリとしての生活にも少し慣れた。

 荷車を引いて先輩方を学校に送り届けて。

 昼休みには先輩がオーダーする品を十分以内に届ける。

 車どころかバイクの免許だって取れない俺は、支給されたチャリを爆速で漕いでギリギリで帰って来る。

 隣町に行ってから、戻って来るまでで十分であり。

 流石に五キロも離れた場所に行けと言われた日は大変だった。

 ほぼ車と同じ速度であり、パトカーにも追われたなぁ……はぁ。


 くたくたであり、放課後にはまた荷車を引いて先輩方を家まで送り届けなければならない。

 昼休みの僅かな時間だけが癒しであり。

 偶々見つけた校舎裏の倒木を椅子とテーブル代わりにして座る。

 今日も今日とて、幼馴染が作ってくれた弁当を感謝しながら食う。


 ピンク色の弁当包みを取れば、黒い重箱の弁当が出て来る。

 蓋を開けて行けば、全てが手作りのおかずとほかほかの白飯が出て来る。

 この前、何と無しに聞いてみれば全て市場にて自分の目で見て選んだものらしく。

 米に至っても、釜で炊いていると言っていた。


「ありがてぇな……うめぇ」


 唐揚げを摘まみ口に入れる。

 よく味が染みていて、肉汁もたっぷりだ。

 殻付きのエビも塩加減や火加減が抜群で。

 一緒に食べる米も一粒一粒から甘みを感じるような気がする。


 涙を流しながらがつがつと食べていく。

 すると、ものの数分で完食してしまった。

 名残惜しさを感じながらも手を合わせて終いにする。

 喉が渇いてお茶を飲もうと……あれ?


「……ぁ。そういや、今日は寝坊しそうになって焦ってたな……あぁ家に置き忘れちまったなぁ」


 水筒を忘れてしまった。

 俺は悩んだ末に、ポケットから財布を出す。

 すると、三万円と小銭が入っていてお茶を余裕で買える事が分かった。

 俺は立ち上がり自販機に行こうとして――誰かがお茶の缶を差し出してきた。


「え、あ、ありがとう、ございます?」

「ふ、気にするな……隣、いいか?」


 俺の目の前に立つのは二メートルはある屈強な体つきをした男だった。

 見事な角刈りであり、動物で例えるならゴリラだろう。

 分厚い唇とキラキラとした黒い瞳。

 パツパツの制服のシャツは少しだけはだけていて、もじゃもじゃの胸毛が見えている。

 低い男らしい声であり、威圧的に聞こえるかもしれないが。

 お茶をくれた事と、笑みを浮かべている事から悪い人には見えなかった。

 彼は俺の言葉を待たずに隣に座る。

 すると、倒木からミシミシという音が聞こえた。


「……お前が入学初日に大凧に喧嘩を吹っ掛けた新入生だな?」

「……まぁ、そうっすね、はい……えっと、それが?」

「……ふむ、探り合いは無しと言う事だな。では、単刀直入に言おう――この俺と手を組まないか?」

「……え? 手を組むって、どういう……うぉ!」


 ゴリラの先輩は制服の内側から何かを出す。

 そうして、それを俺の顔に張り付けて来た。

 俺は慌ててその紙を取って……え?


「にゅ、にゅうぶ、とどけ……ぶ、部活の勧誘っすか?」

「ふふ、まぁそういう事になるな。あぁだが、ただの勧誘ではない。もしも、お前が入部を決めてくれるのであれば――お前の奴隷生活を終わらせる事が俺には出来る」

「え? ほ、本当っすか? で、でも、どうやって?」

「決まっている。もう一度大凧に決闘を申し込み――ぶっ殺すだけだ!」

「ぶ、ぶっ殺すって、俺は暴力は」

「分かっているさ。ほれ、部活名をよぉく見て見ろ、ほれほれ」


 ゴリラ先輩は部活の名前の欄を指さす。

 俺はゆっくりと視線を下げてその欄を見て……あぁ!


「先輩の部活ってメカ・バトなんですね!?」

「ふふ、その通りだ。実はお前たちの決闘を我々も見ていたんだが……ハッキリ言ってひどすぎる!!」

「そ、そんなハッキリと」

「あぁ武器の扱いはド素人。空中戦においても周りが見えておらず自滅。褒めるべき点はほとんど無かった……が、一つだけ俺はお前の事が気に入った点がある」

「そ、それは?」


 俺はごくりと喉を鳴らして先輩を見る。

 すると、先輩は俺の肩を叩きにかりと笑う。


「ガッツだ!! 勇気ともいうが、お前はあの大凧を前にして最後まで諦めなかった!! 俺はそれをかったんだ!!」

「せ、先輩!」

「さぁ入部届けにサインをしろ! お前と言う原石を奴隷として潰される訳にはいかん! その才能を我々が花開かせてやる!! さぁ!! さぁ!!」

「そ、そこまで俺を!! わ、分かりました!! 俺はメカ・バト部に――」


 俺が先輩から渡されたペンを持ってサインをしようとして――叫び声が聞こえて来た。

 

 視線を向ければ、俺と同じ新入生っぽい学生が三名立っていた。

 そいつらは先輩を指さして、ずかずかと近寄って来る。

 どうしたのかと見ていれば、そいつらは俺が渡された入部届けを持っていた。


「剛力先輩!! 見つけましたよぉ!! アンタ、話しが違うじゃないっすかぁ!!? メカ・バトのでかい公式大会で優勝経験があるって言ってたのに、でかい大会どころか公式戦に出た記録ゼロでしたよ!?」

「メカ・バト部に入れば天龍寺高校で天下取れるって言ってたのに、部活カースト最下位ってどういう事っすか!? やってる事もメカ・バトの大会に関係ない雑用ばっかって聞きましたよぉ!?」

「それどころじゃねぇよ!!? この人、校内で一番のトラブルメーカーであらゆる勢力に恨み買ってるらしいんだぞ!? こんな部活入ったら、ぜってぇに夜道で殺されるぞ!!?」

「…………ぇ」


 俺は新入生たちの言い分に目を点にする。

 彼らは紙を返して、関わっていない事にしてくれと泣いて叫び――吹き飛ばされる。


 一瞬だった。

 目にも留まらぬ速さで、三人の生徒はほぼ同時に顔面を殴打されていた。

 瞬きの合間に、そこにいた三人は消えていて。

 遠くの方から破壊音が聞こえた気がした。


「…………ぇ」

「ふぅ、今日は風が騒がしいな……さて、それでは書こうか!」

「いやいやいや!! 待ってくれよ!! アレは何だったんだ!? 明らかにやべぇ話してたじゃんか!? 何でその流れで俺を誘えるんだ!? 明らかに現状より悪化するんじゃ」

「――うるさい。書け、これは運命だ。お前は我が部に入ると決まっていたんだ」


 ゴリラ先輩は殺気を放ちながら、目をガン開きして俺を逃がそうとしなかった。

 俺は血の気が失せて行くのを感じながら、だらだらと滝のように汗を流す。

 

「う、嘘だろ。お茶くれたから良い人だと思ったのに、これじゃ詐欺じゃねぇか」

「詐欺? ふふ、違うな。俺は確かに、言うべき事を言っていなかったかもしれない。が、大凧からの呪縛を解く事が出来るといった事に嘘や偽りはない。これだけは我が魂に誓って真実であると約束しよう」

「そ、そんなの……いや、でも、そうだな……このままでいても、良くはならねぇ。俺にもやるべき事があるんだ。だったら、悪魔でも何でも信じて――懸けてやるッ!」

「ふははは!! 流石は俺が見込んだ男だッ!! さぁ書けッ!! そして、共に頂点を目指そうッ!!」

「おぅ!!!」


 俺は先輩に促されてそのままペンで名前を書きなぐる。

 そうして、紙とペンを渡した。

 先輩はそれを確認して静かに頷く。

 それらを懐に仕舞ってから、ゆっくりと手を差し出してきた。


 握手だと思った俺はそれに応じて先輩の手を握る。

 よろしく頼むと伝えて手を離し――平手打ちを喰らった。


「ぐえぇ!? な、なにすんだよ!?」

「誰が握手を求めた……初回の入部費を払え。一万円だ」

「は、はぁ!? そんなの聞いてねぇぞ!? 何だよ初回の入部費って!?」

「聞いていないだと? 此処に書いてあるじゃないか、ほれ」

「え、そんなわけ……ち、ちっせぇぇ! 見えねぇよこんなの!? 砂粒くらいじゃねぇかよ!? 他にも何か……毎月、二万円の徴収、払えない場合は強制労働。毎週土曜日は定例会議の為、定食屋“サダハル”に十一時に集合。会食費としてニ千円を徴収……せ、先輩からの命令は絶対服従。逆らえば、罰金千円……ど、独裁国家じゃねぇんだぞ!?」

「ふぅん。知らんな。ちゃんと読まない貴様が悪いだけだ。ふふふ、ようこそメカ・バト部へ。歓迎するぞ――五十嵐仁(いがらしじん)


 先輩は邪悪な笑みを浮かべる。

 そんな笑みに寒気を覚えて俺は体を震わせた。


「俺は三年で部長の剛力邦正(ごうりきくにまさ)だ。お前が俺の厳しい特訓に耐えて、晴れて奴隷を卒業できた日には……貴様の仲間となるメンバーたちを紹介しよう。それまで、貴様は仮部員だ」

「いや、俺は別に仮とかでなくても」

「――信じているぞ。貴様なら必ず、正式なメンバーになれると! 共に頑張ろう! 五十嵐一年ッ!!」

「え、あ、お、おぅ?」


 先輩にがっしりと肩を掴まれる。

 俺は中々にやばい人に目をつけられたと思った。

 先輩は笑みを浮かべながらゴムのように手を伸ばして、俺が倒木の上に置いていた財布を奪う。

 そうして、流れるように財布から一万を取ってから去っていく。


「では、今日の放課後……は、アイツらの送迎があるな。では、家につき次第、連絡してくれ。それと……これをお前にやる」

「おっとぉ! て、これって……IECEか? いいのか?」

「ふ、仲間となるんだ。必要だろ? ただし、くれぐれも壊さないでくれよ。それは俺にとって憧れの人から貰った大事なものだからな……あと、それ以外は用意できん。壊したら弁償だからな?」

「あ、はい」


 先輩はそれだけ言って去っていく……何だったんだ?


 俺ははからずも手に入れた使い古されたIECEを見つめる。

 手に嵌めて見れば、ちゃんと機能はしているようで安心した。

 ほっと胸をなでおろし……て、あぁ!?


「連絡って何も聞いてねぇぞ!? せ、先輩って何組で――あぁ?」


 頭を抱えて叫んでいれば。

 IECEから音が鳴る。

 見れば、メッセージを受信という文字が出ていた。

 俺が指で画面をタップすれば、メッセージの内容が空中に投影された。


《俺の連絡先はそれに記録されてある。脳波によるコントロールが出来るからな。頭の中で、俺の名前なり顔なりを思い浮かべて、連絡したいと思えば自動でそれがセッティングしてくれる。他にも機能はあるが……まぁ自分なりに試してみろ。ではな》

「……あ、消えた。すげぇ、先輩の声まで聞こえたぞ。それも頭の中で……へぇぇ」


 俺は感心した様にそれを眺めていた。

 今までは、連絡用の端末を使って幼馴染や友人とやり取りをしていたが。

 これさえあれば、それすらも必要ないかもしれない。


 ……まぁ幼馴染はとっくに使っていて、俺にも勧めていたけど。


 これより、端末の方が安かったからな。

 暫くは我慢しようと思っていたけど。

 使ってみれば、やっぱりこっちの方が断然いい。

 そんな事を思いながら、俺は笑みを浮かべて頬を叩く……うし!


「まぁ何はともあれだ……やってやるぜ!! リベンジ!!」


 約束は死んでも守る。

 もしも、リベンジしてもダメだったら腹を括るさ。

 奴隷の次は、いよいよ地獄行きかもしれねぇけど。

 それでも、俺にはやるべきことがあるんだ。


 なりたい自分に、憧れたヒーローに。

 出会ってしまった本物のメカ・バトで俺はなってやるんだ。


「やるぜぇぇぇ!! 気合いだぁぁぁ!!!」


 両手を上げて気合いを高めた。

 すると、校舎にチャイムの音が鳴り響く――やべぇ!!


 貴重な休み時間が終わってしまった。

 授業に遅れてしまえば、また厄介な存在に目をつけられてしまう。

 俺は弁当箱を持って、ダッシュで教室を目指して走る。

 手には先輩から貰ったお茶があり、走りながらプルタブを開けて口に含んで――っ!!?


「ぶぅぅぅぅぅ!!!!」


 盛大に口から吐き出す。

 妙な味がして体が勝手に吐き出していた。

 呼吸を乱しながら、俺はお茶の期限を確認し……さ、三年前って?


「あ、あの野郎……ふ、不安だ。本当に、俺の選択は、あってたのか?」


 俺は恐怖で体が震えていくのを感じた。

 こんな時にしっかりしている幼馴染がいてくれれば。

 きっと俺が間違えないようにアドバイスしてくれていただろう。

 が、俺とアイツでは住む世界が違う。

 こんなフィジカルだけの学校でアイツはやっていけないし。

 俺だってアイツのように名門校には入れない。


 ……いや、考えたって仕方ねぇ!! 腹を括れやッ!!


 俺は缶を投げ捨て――る事はせずゴミ箱に入れる。


 再び走り出し、俺は恐怖を気合いで振り払う。

 やるぞ、やるぞ、やってやるぞぉぉぉぉ!!!!

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