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Sun of Mars  作者: うどん
第一章:押忍! メカ・バト部!

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18/21

017:謎のフルフェイス

 控室には戻らず。

 ステージが見える客席に座っていた。

 本当はおにぎり先輩を応援するつもりだったが。

 それどころではなく、ずっと先ほどまでの戦いの余韻を噛み締めていた。


 誰の声も聞こえず。

 ただ自分の脳内で戦闘の記録を再生し――にへらと笑う。

 

「ふ、ふふふ……ふふふ!!」

「……勝ったと聞いて来てみれば……よほど、快感だったようだな。えぇ?」

「――っ! ゴリ先輩! 皆さんも! ……あれ、坂崎さんは?」

「彼女は俺たちの機体のメンテをしてもらっている。後でお前のガレージにも行くように言ってあるから安心しろ」


 聞き覚えのある声に正気に戻る。

 見れば、先輩を先頭にして服部先輩や桜間が立っていた。


「……此処にいるって事は、先輩方も第一試合を……」

「あぁ勝ったぞ。初めての連携だったが、中々に様になっていた。なぁ、服部よ?」

「えぇその通りでございます。これも部長殿の機転があったからこそです。まさか、あそこで“人間爆弾”という狂気の発想を思いつくとは」

「……人間、爆弾……お、おい。桜間、大丈夫か?」


 人間爆弾というワードを聞いた瞬間、桜間が全身を震わせた。

 ガチガチと歯を鳴らしながら、目を見開いている。

 顔面蒼白であり、先輩方をジッと見つめていた。

 そんな視線を受けていても、先輩方は素知らぬ顔でステージに上がっているおにぎり先輩を見つめていた。


「し、信じられない……僕を囮にして……知らない間に、爆弾を……あ、悪魔だ……この人たちの、血の色は、真っ黒だ」

「さ、桜間……お、お疲れ!」

「ふぅぅ!! ふぅぅぅ!!!」


 桜間がガチガチと歯を鳴らしながら鼻息を荒くしていた。

 そんな桜間の恐怖の表情を見る事無く。

 ゴリ先輩は顎を摩りながら何かを考えていた。

 

「……次は……人間ミサイルにするかぁ」

「あぁ! いいアイデアですね。某は妙案だと思います! な、お前もそう思うだろ、桜間?」

「ふぅぅぅぅぅ!!!! ふぅぅぅぅぅぅ!!!」


 ゴリ先輩の狂気のアイデア。

 それを笑いながら賞賛する服部先輩。

 最早、桜間の瞳には危険な光が宿っていた……こ、こえぇ。

 

「ははは、そう興奮するなよ。俺たちは仲間じゃないか。はははは」

「そう、仲間だ。某も部長殿も、貴様を信頼しているんだ。次も働いてくれよ。はははは」

「「はははははは」」

「ぐぎぅぅぅぅぅぅ!!!!」

「……やべ」


 桜間は目を光らせながら唸り声を上げている。

 先輩方は感情の籠っていない声で笑っていた……それにしても。


「……全然、始まらないっすね? トラブルっすかねぇ?」

「……分からん。ただ、おにぎりの対戦相手は……まぁ良くある名だと思った……が、公式戦の参加記録は無いらしい。恐らくは、初心者か。それとも、正体を欺いているかだが……服部よ。どう思う?」

「……某の情報網にも残念ながら何も……“アル”というプレイヤーネームならば、恐らくは、少なくとも何千、何万といますので……まぁ部長殿が言われたように公式戦への参加をしていないのであれば、取るに足らない存在でしょう。もしも、相手がトライデントの機体に乗っていれば、万に一つも副部長殿が破れる心配はございませんよ」


 二人の会話を聞きながら、何処でそんな情報を持って来るのかと思った。


「……情報戦ってやつかぁ……俺には真似できねぇなぁ」


 ぼそりと呟き頭を掻き――歓声が上がる。


 視線をステージに向ければ、ようやく対戦相手が現れたようだった。

 見れば、そいつはフルフェイスのメットを被っている。

 体にもすっぽりと覆うような黒いローブを纏っていた。

 身長は低く、恐らくは百四十も無いかもしれない……子供、なのか?


 ステージに上がったのが子供のようだからか。

 少し苛立っていた大人たちも野次を飛ばす事は控えていた。

 司会者の男は時間が押してはいるものの、一言を貰う為にマイクをそいつに向ける。

 が、そいつは一言も喋る事は無かった。


「え、えぇっと。き、緊張しているのでしょうか? ははは……んん!! 兎にも角にも、これでようやく第四試合を始められます!! それでは、お二方ご準備を!!」

「「……」」


 おにぎり先輩と子供が指をIECEに添える。

 それを確認した司会者は手を上げて――声と共に振り下ろす。


 おにぎり先輩は叫び。

 子供の方は無言だったのか小声だったかも分からないほどの声量だった。

 二人はそのまま光となって消えて……ステージ後ろのモニターに二人の機体が出現した。


「……ステージは……灰都市っすかね? ちょっと違うように見えるっすけど」

「毎回毎回、同じようなステージはならんさ……それにしても、あの機体は妙だな」

「妙っすか? 俺にはほそっちいって事くらいしか……桜間は分かるか?」

「……あんまり見た事のないタイプの機体、かな……オーダーメイドにしては、それほど拘りは感じられないけど……」


 俺と桜間はジッと対戦相手の機体を見る。

 灰色の機体であり、軽量級二脚型だろうか。

 細長い手足に、胴体もそれほど厚みは無く。

 頭部はつるつるであり、前面に十字の青い光が走っていた。

 スラスターらしきものは見えず、ゴリ先輩の分析では内部に埋め込まれたタイプのようだった。


「……武装はあの一対の双剣か……近接特化タイプ。それも、内部に埋め込まれたタイプであるのなら、運動性能はかなり高めかもしれんな」

「……何か、俺に近いような」

「そうだな。お前に近いだろう。だからこそ、よく見ておけ」

「え、それってどういう……!」


 ゴリ先輩に質問しようとした。

 が、それを遮るようにブザーが鳴る。

 試合の開始であり、おにぎり先輩は両手で抱えた長大なライフルを構えながら空を舞った。


「おにぎり先輩は狙撃ですか!?」

「あぁ今回はアレで行くらしいな……状況で言えば、距離を取りながら攻撃をするおにぎりに分はあるが……胸騒ぎがする」


 ゴリ先輩がぼそりと呟く。

 俺はジッとモニターを見つめた。

 

 おにぎり先輩の機体はバランスの良い中量級だろうか。

 夜のフィールドを見越してか機体の色は深い青色で。

 丸みを帯びた頭部の二つの双眼センサーの光も暗めの青色だ。

 角ばったフォルムであり、スラスターはアンテナが伸びた黒いバックパックから二つのノズルが伸びている。

 大きなライフルを携帯しており、恐らくは狙撃銃だと分かる。


「上手い!」

「ふん、出来て当然だ」


 おにぎり先輩は背面飛行を披露する。

 後ろが見えているような華麗な操縦テクで。

 一気にビルの隙間に入ってしまい。

 そのまま一定の距離で相手を観察していた……にしても、アイツは。

 

 対戦相手のアルは、試合が始まってもその場から動かない。

 だらりと手を下げたままであり――おにぎり先輩が攻撃を仕掛けた。


 乾いた銃声が響く。

 一発の弾丸が放たれて、ビルの隙間を駆け抜ける。

 放たれた実体弾は一直線に進み――弾かれた。


「え!?」


 俺は思わず声を出す。

 廃都市であり、周りには遮蔽物があった。

 時間帯も夜の設定で、おにぎり先輩は遮蔽物の僅かな隙間から狙撃した。

 弾丸の速度は肉眼では捉えられないような速度の上に、視界が悪い中で――奴は精確に弾丸を刃で斬った。


 あり得ない、不可能だろう――が、やってみせた。


「――動く!」


 俺は奴の放つ殺気を感じ取った。

 奴は顔を上げてセンサーを強く発光させる。

 そうして、地面を足で蹴りつけて大地を走り始めた。

 姿勢は極限まで低くし、両手は後ろに流れて。

 ガスガスと音を立てながら走る。

 その姿はまるでアニメで見た忍者のようで。

 機敏であり、恐ろしく様になっていた。


 そんな敵の挙動に強い警戒心を抱いたのか。

 距離を取るようにスラスターを噴かせて空を舞うおにぎり先輩を奴は追う。


 おにぎり先輩は進行方向を変えていた。

 背面飛行のまま、器用に角度を変えて飛ぶ。

 が、奴は頭部を動かしてそんな先輩の動きを見ていた。

 

 ……見えているのか?


 モニターで見る俺たちは二人の正確な位置は分かる。

 が、あの子供からすれば地面から豆粒ほどの先輩の位置はそう簡単には分からない筈だ。

 おにぎり先輩の背中から噴射されるエネルギーの粒子は抑えられている。

 地上から見えるのは小さな光程度だと俺は考えているが……。

 

「……よほどレーダーが優れているのか……それとも、奴自身のポテンシャルか……侮れんな」


 ゴリ先輩の呟き。が、誰も言葉を返せない。

 俺たちは魅入られていった。

 おにぎり先輩と――謎のプレイヤーとの戦闘に。


 

 ◇

 


「「「オォォォ――!!」」」

「「「……」」」


 

 戦闘が終わった。

 勝者は――“謎のプレイヤー・アル”。


 

 圧倒的だった。

 距離を離そうとするおにぎり先輩だったが。

 奴は凄まじい速度で大地を駆けて。

 おにぎり先輩の狙撃も意に介さなかった。


 暗闇の中で、奴自身はライトもつけず。

 遮蔽物に隠れながら移動するおにぎり先輩を精確に捉えていた。

 障害物をほとんど視界に入れる事無く躱し。

 飛んでくる弾丸を避ける事もせずに断ち。

 そのまま大きく飛び上がったかと思えば。

 腕に仕込んだワイヤーを射出して、変則的な動きにより先輩の狙撃を躱していった。


 凄い、というよりは――異常だ。


 ワイヤーの射出は先輩が弾丸を放つ前に行われている。

 そこからの巻き取りによって躱していたが。

 普通の思考が出来るのであれば、それは絶対にあり得ないと分かる。

 だってそうだろう。発射されてもいない弾丸の前にワイヤーを射出したんだ……どういう仕組みだよ、そりゃ。


「……未来でも、見えてたってのか?」

 

 いや、それだけじゃない。

 アレは弾丸を躱すのだけが目的じゃなく――ショートカットこそが真の目的だったのではないか?


 おにぎり先輩がビルなどの建物を大きく避けて行くのに対し。

 奴はワイヤーによって軌道を変えては。

 機体がギリギリ入るような穴に飛び込み。

 最短の距離だけを翔けて行っていた。

 その結果、ものの数分でおにぎり先輩は追いつかれて……その後はあっという間だった。


 銃口を構えてゼロ距離で弾丸を発射した。

 が、奴はその弾丸をギリギリで回避し。

 おにぎり先輩が逃げる前にワイヤーをおにぎり先輩の機体に撃ち込んで。

 おにぎり先輩が脚部からダガーを取り出す前に。

 機体のバランスを崩させて、奴はそのまま剣を振るって通り過ぎ様にコックピッドを一刀両断した。


 鮮やかだった。

 切れ味云々の話じゃない。

 全てが美しく、全てが計算通りとでも言うようだった。


 速すぎる。

 おにぎり先輩が弱かった訳じゃない。

 相手が強すぎただけであり……奴が何も言う事無く去っていく。


 会場は静まり返る。

 司会者がハッとして、次の試合が始まる時間をアナウンスする。

 休憩時間は15分ほどで、その間にメンテナンスを終わらせなければならない。

 トータルの時間でいうのなら、45分から1時間ほどは余裕があるが……間に合うのか。


「……」


 俺は自分のIECEを見つめる。

 シュウからの連絡はまだだ。

 次の試合はアルとであり……このままじゃ勝てない。


 同じ近接戦特化の機体だ。

 技量で言えば向こうが遥かに上だ。

 勝てる可能性があるとすれば、相手の機体のスペックを上回るしかない。


 ……悔しいぜ。悔しいさ……けど、それはハッキリとしちまっている。


 相手は戦闘のプロだ。

 子供とかそんなのは関係ない。

 あの戦闘だけで、その力量はハッキリとしていた。


 このままじゃ負ける。

 確実であり……肩を叩かれた。


「……ゴリ先輩……俺は……」

「分かっている……俺から言える事は一つだけだ。そう、たった一つだけだ――死ぬ気で勝て」

「……!」


 先輩はそれだけ言って去っていく。

 服部先輩も無言で去り、桜間も俺を心配そうに見てからついていった。

 入れ違いで坂崎さんが走って来る。

 が、俺は彼女に言葉を掛けるでもなくただジッと自らの手を見つめた。


「……ジン君?」

「……死ぬ気で勝てか……へへ、そうだな。死ぬ気でやるっきゃねぇ……うし!!」

「わぁ!?」

「あ、わ、わりぃ! 驚かせちまったな……えっと、メンテだよな? よろしくな!」

「う、うん。あ、それとね……高梨さんがこれをジン君にって」


 坂崎さんがポケットから何かを出す。

 それを見れば……飴か?


 ピンクの袋に包まれた飴らしきもの。

 それを受け取って中を開いてみれば、やはり飴玉だった。


「……食っていいのか?」

「うん、試合の前に食べてって言ってたよ」

「……んじゃ、いただきまーす!」


 俺は飴を指で弾き口の中に放り込む。

 コロコロと舐めて見て……うぉ!


「うぅぅ!! スゥーっとしてきたぁ!」

「ふふ、それね。実は市販のものじゃなくて高梨さんが作ったもので……何でも、緊張を和らげる効果があるらしいよ?」

「緊張を? そうか……ありがてぇ!」


 きっと俺の事を高梨さんが心配していたんだろう。

 俺は此処にはいない未来のスポンサー様に感謝する。

 そうして、手を叩いてから早速機体へと向かおうとして――IECEから音が鳴る。


「……! もしもし!!」

《おぅ!! わりぃわりぃ!! 待たせちまったな!! どうだ? 何とか生き残ってっか?》

「あぁ何とかな!! でも、次の対戦相手がやべぇんだ!! 今のままじゃ勝てねぇ!! それで」

《おぅおぅ!! 分かってるよ!! エースなら――何とかなったからよ!!》

「本当か!? なら、早速」

《――だけど、申し訳ねぇ!! 細かいセッティングまでは間に合いそうにねぇよ!!》


 通話越しにシュウが頭を下げたのが分かった。

 が、俺は責める訳でもなく考えがあるのだろと伝えた。


《……あぁあるさ。こうなったら――試合中に調整すっぞ!》

「……! 試合中にか」

「そ、それは流石に」


 聞いていた坂崎さんも驚いていた。

 が、俺はにやりと笑いそれを承諾する。


「こうなりゃ何でもやってやるさ……ただし、手を抜くんじゃねぇぞ?」

《誰に言ってやがる!! 俺は何時だって全力だ!! テメェこそ調整中にあっさりやられんじゃねぇぞ!!》


 俺たちは互いに鼓舞する。

 そうして、すぐにガレージに落ち合う約束をして通話を切った。


「……行こうぜ。エースとシュウが待ってるからよ」

「う、うん……私も頑張るから。ジン君も頑張ってね!」

「おぅ! 勿論さ!」


 俺は親指を立ててニッと笑う。

 そうして、指をIECEに添えてコマンドを小さく呟き、エースが待つガレージへと向かった。

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