012:燃える闘魂
カチャカチャという音が聞こえる。
よく分からない工具を使って、シュウが機体の内部を調べていた。
先ほどまでは会話もしていたが、今のシュウはすごく集中していた。
だからこそ、邪魔をしないように俺はガレージの床に座って待っていた。
待って、待って、待って……シュウが息を吐くのが分かった。
ゆっくりとシュウがコックピッドから出て来る。
そうして、ケーブルのコントローラーを動かして降りて来た。
俺が降りて来たシュウに近づけば、奴はにかりと笑う。
「お前の機体は――良い機体だな!!」
「おぉ! 分かるか!? エースはスゲェんだよ!! すごく頑丈で、すごく根性があってな!」
「あぁ、分かるよ。アイツはすげぇな。パイロットの望みを叶える為に――無理してやがった」
「……え?」
シュウはディスプレイを投影して説明する。
機体の各部に、素人では分からないような損傷があったと。
特に関節部やスラスター周りに関しては、かなり無理な動きをした事で消耗が激しいらしい。
「……本来、シミュでは機体のダメージは無い筈なんだが……きっとお前の精神とリンクしている事で影響がほんの少しずつ出てたのかもな……こういう細かいのはチケットなんかじゃ直せねぇし……それかまぁ、実戦でのダメージが蓄積していたのかもだが」
「……俺がいけねぇよな。俺馬鹿だから、こいつの痛みとかこいつが出来る事とか……まだ理解してやれてねぇ……けど!! 俺はこいつじゃなきゃダメなんだ!! こいつと一緒に俺は!!」
「あぁ分かってるって……別に、機体を変えろなんて言ってねぇ。寧ろ、こんな事で機体を乗り換えるような奴だったら俺がぶん殴ってたぜ……安心しろ。俺がきっちり整えてやるよ! お前の動きについていけて、尚且つ、多くの戦場でも渡り歩けるような最高のレインにな!」
シュウは俺の肩を強く叩き、二ッと笑った。
俺はシュウの言葉が嬉しく深くお辞儀をした。
「お願いします!!!」
「おぅ! 任せとけ……と、まぁ友人としての言葉は此処までだ……多分だけど、お前は近接戦……それも格闘戦主体のプレイヤーだよな?」
「え、分かるのかよ!?」
「当然だ。あのユニットに加えて、関節部とかの消耗具合……人間と同じ動きをしながら、喧嘩をするみてぇに拳や足を使ってやがるからな……ま、それが分かったのなら話ははえぇ……これ、格闘戦用にするぞ?」
シュウは補足として説明してくれた。
一度、格闘戦用に変えてしまえば後から戻すのはかなりの手間になると。
もしも、後で嫌だと言っても簡単に変更は出来ないと言われた。
が、俺は考える事も無く、それでいいからと伝える。
「……うし。なら、最高イカしたカスタムにしてやるよ……あ、因みにこれ見積りな」
「はや!? …………腹、括るしかねぇな!!」
何時の間に見積もりを作ったのかと驚く。
そうして、書かれた金額を見て俺は涙を流しながら笑う。
見積もりの金額は最新のVRゲーム機が五台は買えるような値段だった。
現在の所持金では払えないが、バイトを十日連続ですれば何とか払える。
まさか、カスタムだけでも軽く十万を超えるとはな……はは。
「あぁ、それとだけどさ。カスタムを始めたら、完成するまでエースは実戦では使えねぇからな?」
「……因みにだけどよ……どれくらい掛かる?」
「あぁ? まぁそうだなぁ……早くても一週間だなぁ。最終調整とか、お前の使用感とかも聞かねぇとならねぇし。あぁ勿論、最初の段階でこういう出来栄えになるっていう確認図は送るけどよ……どうしたぁ?」
シュウの言葉に俺は冷汗を掻く。
言うべきかどうかを迷ったが。
話さないままにカスタムの依頼を出す訳にはいかない。
俺は殴られる覚悟で、シュウに大会の事を話した。
「…………は? 出る予定の公式戦が開かれるまで一週間も無い、だと? いや、いやいやいや……どうすんだよ? え、大会が終わった後にって事か?」
「うーん、まぁ、俺としてはカスタムした万全の状態で出たかったけど……無理だよなぁぁ」
俺は申し訳ないと謝る。
が、シュウは冷静に何かを考えていた。
暫く互いに黙っていた。
何か策があるのかとシュウを見つめて……彼が頷く。
「うし!! なら、大会までに間に合わせる!!」
「え? 良いのかよ。別に無理しなくたって」
「いいや!! もう決めたからな!! まぁ使用感のフィードバックは出来ねぇが。それでも、最高の状態で届けてやるよ!! どうせ、お前の精神は機体と自動的にリンクするんだ!! だったら、操作方法なんかは説明し無くたっていいしな!! はははは!! 腕が鳴るぜぇぇ!! そんじゃ、早速帰ってから頭の中で出来てるイメージを形にしていくからよぉ当日まで機体は預からして貰うぜ!! あ、シミュでなら機体が無くても出来っからな!! ほい、これ契約書な?」
口で説明しながら、シュウは手を動かす。
片手間でデータ上の契約書を作り、それを俺に渡してきた。
俺はこんなにあっさりと決めていいのかと一応聞く。
すると、見積もりの段階で大まかな設計は頭の中で出来ていて。
後はそれを形にするだけだから、値段の変動も一切しないと言ってきた……すげぇ。
「こう見えても俺、頭いいからよぉ。全部のデータが入ってる訳? だから――失敗しねぇんだよ!」
「……だったら、信じるぜ! よろしくな!」
「おぅ!! 任せとけや……んじゃま、エースは持って行くからなぁ。大会当日までは大人しくシミュで戦っておけよぉ」
俺がサインした契約書を確認してから。
シュウは機体を何処かへと転送し去っていく。
彼の背中を見つめて、消えたのを確認してから俺は小さく息を吐く。
「……まぁ完成図はくれるって言うし……それまで、特訓だな!!」
「――ほぉ、特訓か」
「ほぁ!? ゴリ先輩!? 何時からいたんすか!?」
「完成図はくれるって言うし、からだな……まぁ上手く話が纏まったのなら良い。特訓と言うのなら、お前に相応しい特訓を俺が教えてやろう」
「ほ、本当っすか? そりゃありがたいっすけど……因みに、どんな?」
「ふふ、それは秘密だな。まぁ楽しみにしておけ。お前が望むのなら今日から始めるが? どうする?」
「いや、どうするって……んーそうっすねぇ」
「――よし、だったら今日から始めるぞ!」
「えぇぇぇ!?」
俺の意見など最初から聞いていなかった。
ゴリ先輩からメッセージが届き、見てみれば《???》を装着するかど聞かれていた……何だこれ?
「……先輩、これって」
「――承諾しろ」
「え、いやでも」
「――押せ。早く」
「……はい」
俺はため息を零しながら承諾のボタンを押す。
瞬間、ゴリ先輩がにやりと笑い――ガチャリと俺の肌に密着するように何かが装着された。
「え、これ――うぎゃああああぁぁぁ!!!?」
これは何かと聞こうとした瞬間。
体が反対の方向へと強制的に曲げられて言った。
海老反りとかそんな次元ではなく。
力を抜けば、一瞬で体が本のように閉じられそうだった。
俺は必死に歯を食いしばり耐える。
耐えて、耐えて……何とか体を元に戻す。
「ごれはぁぁなんですかぁぁぁ!!?」
「天龍寺高校メカ・バト部に伝わる超特訓装置――トップ・プレイヤー育成ギプスだ」
「い、いくせい、ぎ、ぎぷ――うあああぁぁぁ!!?」
言葉が真面に喋れない。
俺はだらだらと汗を掻きながら何とか踏ん張る。
先輩は笑みを浮かべながら「お前の為に昨日作っておいた」と言う……え?
「伝わるって、元々、あったんじゃ!?」
「――そんな訳ないだろう? そんな馬鹿なメニューは存在しない。アホか」
「は、はぁぁあああああぁぁ!!?」
「まぁ取り敢えず、大会が始まるまでそれをつけておけ。あ、体を洗っても錆びないから気にするな。それじゃあな」
「ま、待ってぇぇぇえええあああああぁぁ!!?」
手を伸ばそうとしたが。
強力な力によって体が反りそうになる。
先輩は笑い声を上げながら去っていく……む、無茶苦茶だぁ!!
出鱈目も良いところであり、こんなイカれた方法で強くなれるのか。
俺は心の底から疑問を抱く。
が、これを勝手に外そうにも外し方は分からない。
それに勝手に外したら何をされるかも分からないんだ……や、やるしかねぇ!!
「こ、根性だぁぁぁああああああ!!?」
腕を上にあげようとすれば。
またしても海老反りのようになる。
体からミシミシという音をさせながら。
俺は激しい痛みに抗い、何とか体勢を戻す。
そうして、一歩ずつゆっくりと歩いて行った。
「こ、根性ぅぅぅ……き、きちぃぃ!」
俺は耐えられるのか。
体がぶっ壊れるのが先か。
それとも、精神の崩壊が先か。
或いは、全てを超えて更なるステージへと上がるのか。
俺は歯を食いしばり無理矢理に笑みを作る。
どんな苦難も、どんな逆境も跳ね返す。
ゴリ先輩はきっと俺の事を考えてくれている筈だ。
最高最強のヒーローに至るのならば、この程度で音を上げてはいけない。
鋼のような精神力に、鋼鉄の体で。
目指すは地上最強なのかもしれない……おもしれぇ!
「やってやる。やってやるぜぇ……ゴリ先輩、俺はアンタの期待以上の男になってやるッ!!」
闘志を燃やす。
そうして、硬く拳を握った。
空で真っ赤に輝く太陽のように――俺の心は熱く燃え滾っていた。




