010:狂気の中で燃える男
「……よし」
翌日となり、アナザーワールドの専用ガレージ内。
目の前には愛機であるエースが鎮座しており。
俺は目の前に表示したディスプレイを操作していた。
機体のメンテナンスであり。
ゴリ先輩に言われて、日課としてやっていた。
こういう事は他人任せではダメであり。
俺自身がちゃんとしなければならない……ならない、のだけども……はぁぁ。
「難しいなぁ。オイル交換とか燃料の補充は簡単だけど……パーツとかコアのチェックに武装の状態……うへぇぇ」
ハッキリ言って、俺にはパーツなどは分からない。
情報としてパラメーターらしきももが表示されているものの。
素人から見れば、ただの数字の羅列でしかない。
もっと簡単に、痛んでるとか交換した方がいいとか出れば助かるが……こういうとこもリアルだよなぁ。
「……手っ取り早く、修理に出しちまったらいいけど。そうしたら、いらん出費が掛かるってゴリ先輩たちが言ってたし……難しいなぁ。本当に」
チケットがあればタダで機体を修理してもらえる。
その時間もほとんど一瞬であり、ストレスは無い。
が、チケットだって無限にある訳じゃない。
デイリーミッションのような課題を熟す事によって一日に一枚から五枚ほど枚獲得できるだけだ。
それに、デイリーのチケットでは最低限の修理しか出来ず。
現状のエースであればほぼタダだが、もっといいパーツやら武装に変えて行けば。
デイリーのチケットだけでは賄え切れないほどの出費がかさむ。
おにぎり先輩に教えてもらって、それからちゃんと熟しているけど……足りねぇよなぁ。
スカーレットに貰った銀のチケットは上等なものらしい。
おにぎり先輩に見せれば、一度の使用で大抵のレインの修復は完全に出来てしまうと言っていた。
更に上の金のチケットに至っては、レインだけでなく“バトルシップ”などと呼ばれる大型の艦も……まぁどうでもいいか。
「……はぁ」
これから多くの戦いに身を投じて行くことになる。
その度に、機体を破壊されてばっかりではチケット何て幾らあっても足りない。
もっと腕を上げて、なるべく機体を壊されないように立ち回る。
もしくは、名を上げて企業からの支援を受けるかだ。
「……まぁ先輩も言ってたよな。企業のサポートがあれば、専属のメカニックもつくって……良いよなぁ」
メカ・バトにもメカニックが存在する。
機体の修理を担う貴重な人材であり。
専属のメカニックの手に掛れば、修理に必要なコストも半減するらしい。
チケット要らずであり、ベテランのプレイヤーたちの中にはチケットを使わないなんてのも聞いた。
それほどまでの知識量と技術力がある。
故に、腕のあるメカニックなんかは多くの企業から声が掛かるらしい。
ぶっちゃけ、パイロットよりもメカニックの方が貴重なんじゃねぇかと思う……いや、マジでな。
「……ま、うちにだって坂崎さんがいるからいいけどな!」
坂崎さんもメカニックとしての作業は出来るらしい。
本人は腕はそれほど無いと言っていたが。
今もゴリ先輩たちの機体を見に行っていると聞いている。
もし、時間が空いたらこっちにも来てくれるらしいが……まぁ当てにしたら悪いよな。
「……うし! ぱぱっとやったら、いっちょシミュ行ってみるかな!」
俺はパンと手を叩く。
そうして、やる気を出して残りのチェックに取り掛かった――
◇
「うああぁぁぁぁ!!?」
敵のレインから放たれるミサイル。
それらを走って避ける。
走って、走って――飛んだ。
空を舞いながら、背中のスラスター勢いよく噴かせる。
視界が一気に流れていき、俺は何とか後ろを振り返る。
すると、眼前にミサイルが迫って来て――爆発した。
「ガアアァァァァ――ッ!!!」
機体がバラバラになり、全身を焼かれる感覚が走り――死んだ。
「これで、合計――五十回ッ!!」
五十回レインと戦い――死んだ。
どんなタイプのレインであっても勝てなかった。
たった一度の勝利も無い。
難易度はそこまで高く設定していないのに勝てなかった。
……大凧先輩の時は、どのステージで戦うかとか戦略を立てていたからギリギリ勝てただけなんだ。
もしも、普通に大凧先輩と戦っていたら絶対に負けていただろう。
そうだと断言できるほどに――俺は弱い。
初心者だから、まだそれほど経験を積んでいないから――違う。
そんなのはただの言い訳だ。
才能が無いからであり、努力が足りていないからだ。
弱いなら弱いなりに、強くなる工夫や努力をしないといけない。
が、俺はそんな初歩的な事すら出来ていなかった。
ただ闇雲に、シミュに登録されているNPCと戦い。
負ける事を繰り返して、馬鹿の一つ覚えのように策も無く挑む。
それだけであり、そればっかりであり――だけど、それがいいんだッ!!
俺は馬鹿だ。
底なしのアホであり、策略家にはなれねぇ。
だけど、馬鹿なら馬鹿なりに――狂気の中で成長したらいい。
俺はゆっくりと目の前のディスプレイを設定する。
無限復活モードであり、対戦相手のレインは備わっているデータの中で最強のものにする。
高機動型であり、武装も洗練されたものだ。
そんな奴にほぼ初期装備のような俺が挑む。
馬鹿だろうさ、狂っているだろうさ。
だけど、それでも――俺はやってやるッ!!
「さぁ――やろうやッ!!!」
戦場が設定された。
戦場であり、灰色の空の下では多くのレインや戦闘兵器が跋扈していた。
そんな中で、目の前に降り立ったのは灰色の機体であった。
中量級……いや、軽量か?
両手には長大なライフルを持ち、背中にはランチャーなどをマウントさせている。
一見すれば特徴の無いフォルムの機体だが。
心無きNPCとは思えないほどの圧をアレから感じる。
その中にいたであろうパイロットの視線は――殺意に満ちていた。
俺は笑う。
笑ってカウントダウンの終わりを待ち――ゼロになる。
「――は?」
一瞬だ。
瞬きも無い一瞬に爆発音のようなものが響き――視界が暗闇に染まった。
次の瞬間には、同じステージに機体と共に立っていた。
周りを見れば、あの灰色の機体が静かに立っていた。
何が起きた、何をされた――まるで理解できなかった。
ドクリと心臓が鼓動し、汗が流れる。
見えなった。移動の瞬間も、攻撃の動作も――何もだ。
そんな中でも、カウントダウンは進んでいく。
ゆっくり、ゆっくりと進み――ゼロになる。
「――ッ!!」
俺はすかさずスラスターを噴かせて横に飛ぶ。
瞬間、またしても爆発音が響き――背後を見る。
そこには敵がいた。
俺にライフルの銃口を向けて――機体が爆ぜた。
「…………は?」
死んだ。また、死んだ。
何故、何故、何故何故何故何故何故何故何故――どういう事だ?
戦場へと戻り、呼吸を乱しながら敵を見る。
見えない、分からない、理解できない。
速いとかそんな次元じゃない。
まるで、蜃気楼のようであり、実体の掴めない雲のようだった。
確かにそこにいた。
いたからこそ銃口を向けて――“背中からランチャーの弾を受けた”。
それはつまり、アレは実態ではなく幻となる。
そこにいたと俺の目が間違ったのか、はたまたシステムのエラーか。
分からないが、そうなるほどの機動力を有しているのだろう。
意味不明であり、出鱈目であり……あの漫画と同じだ。
子供の頃に見た漫画の主人公。
傭兵であり、恐ろしく強いパイロットだった。
規格外のスピードで敵を翻弄し、あっと言う間に何十機ものロボットを沈める。
誰しもが恐れる傭兵であり、理不尽そのものの人物だった。
「自由で、理不尽で……そうか。アンタが……はは」
そんな事はあり得ない。
そんな人間が存在しない。
が、俺は勝手に目の前のNPCを漫画の主人公であると認識した。
世界を救った英雄。
恐れられながらも、ヒーローに至った存在――光栄だぁ!!
「俺は戦うッ!! アンタを倒して、俺はアンタ以上の――ヒーローになるぜッ!!!」
「……」
敵は何も言わない。
ただ静かに銃口を俺へと構えて来た。
カウントダウンは進み――戦いが始まる。
「――ッ!!!」
俺は歯を食いしばる。
そうして、スラスターを限界まで噴かせた。
規格外のスピードなんだ。
だったら、こっちも常にトップスピードで動かなければ――殺されるッ!!
俺は翔ける。
空を翔け、全身に重い風を受けた。
ガタガタと機体が揺れて。
俺は何とか姿勢を制御し――殺気を感じる。
「グゥゥゥゥ――ッ!!!」
殺気に反応し、機体は無理な動きで横に飛ぶ。
瞬間、火薬の爆ぜる音が小さく聞こえた。
機体が軋む音が、骨が悲鳴を上げているように聞こえる。
俺は歯が砕けそうなほどに噛みながら、
敵の位置を探し――下へと垂直降下する。
「グアァァァ――ッ!!!」
殺気を感じた。
体が勝手に反応し軌道を変える。
一気に地面へと接近し――更に軌道を変える。
が、プロのようにはいかない。
脚部が地面に触れて、一気に機体のバランスを崩す。
激しく機体が揺れて、全身を地面に打ち付けた。
何かを巻き込んでいきながら、硬い何かにぶつかり機体が停止する。
「う、うぅぅ……く、そぉぉ」
「……」
機体が動かない。
そんな俺の前に敵は静かに着地し。
その銃口を俺へと向けて――死んだ。
機体をライフルで蜂の巣にされた。
焼けるような痛みの次はブラックアウトで。
その次は復活して戦場へと舞い戻る。
灰の空で、遠くでレインや戦闘兵器が戦って……はは!
「――トライ&エラーはゲームの醍醐味だよなァァ!!!」
俺は強く笑う。
そうして、邪魔なだけに感じた武装の類を全てパージする。
拳同士をぶつけ合い、俺は歯をむき出しにして笑った。
こっからだ。
こっからが本当の戦いであり――今日は徹夜だなッ!!!
カウントダウンがゼロになり――俺は空を翔ける。
武装を脱ぎ捨てた事によって機体が軽い。
スピードも上がり、より強い負荷が全身に掛る。
が、俺は根性で意識を保ちながら。
どうすれば敵に一撃を与えられるかを考える。
考えて、考えて、考えて――あぁ、わっかんねぇなッ!!!
「考えるな――感じろッ!!!!」
これが俺だ。
これが五十嵐仁の――戦い方だッ!!!
そう魅せつけるように。
俺は激しく機体を回転させながら出鱈目な軌道で空を舞う。
視界がぐるぐりと回り強い吐き気を覚える。
が、堪えて機体を回して――見つけたァ!!!
一瞬、視界の端で敵の機影を捉えた。
俺はすぐさまそれを追う様に動く。
残像であっても、それを辿れば――いるなァ!!!
背後から殺気を感じた。
瞬間、速度を上げる。
爆発的な一瞬の加速であり、大凧先輩の真似だ。
敵の攻撃は空を切り、俺はそのまま逆噴射をし――突撃する。
体から嫌な音が鳴り響き。
コックピッドの中で血反吐を吐きながら、機体の拳を固めて――放つ。
「いねぇッ!!?」
が、空を切る――残像だ。
瞬間、殺気を感じて――コックピッドを貫かれる。
◇
負けた、負けた、負けた――
負けた、負けた、負けた、負けた、負けた、負けた――――
死んだ、殺された、死んだ、殺された、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ――――
「ハハハハハハハ!!!!! おもしれぇぇ!!!!」
俺は戦場の真ん中で――笑った。
面白い、面白い面白い面白い――楽しい。
かつてないほどの緊張感。
かつてないほどの強敵で。
これほどまでに理不尽な存在に遭った事はない。
絶対に勝てないと思えるほどの敵。
逆立ちしたって傷一つつける事は出来ないと思わされるほどの技量。
強くて、おっかなくて、恐ろしくて――燃えて来る。
「こんなにつぇぇ奴でも――勝てるんだよなァァ!! えぇ!?」
「……」
俺は敵を見据えながら叫ぶ。
絶対に勝てない奴なんていない。
勝てる可能性があるからこそ、NPCとして存在する。
ギリギリでも勝てるからゲームであり、勝てると思えるのなら――勝てるんだよなァ!!
「何度でも、そう、何度だって――やってやるぜッ!!!」
俺は闘志をむき出しにした。
既に百を超えて死んでいる。
百から先は数えていない。
負けを数えるのはやめであり、全力でたった一度の勝利を――掴み取る。
考えなくていい。
考えたって意味はねぇ。
既に多くの死を経験して、体が覚えている。
どうすればいいか、どうすればい長く生き残れるか。
それだけを頼りに、俺は動き続ける。
たった一度のチャンスを活かすために――学んでいけやッ!!
「さぁ――リベンジだッ!!!」
俺は笑う。
そうして、ゼロのタイミングで機体を加速させる。
限界を超えて、更に向こうへ――たった一度の勝利をッ!!!




