009:公式戦とフライドチキン
「なるほど……そんな事があったのか」
「某ならともかく。まさか貴様が銀翼に勝負を挑まれるとは……くくく、運が無いな」
「大変だったねぇ。でも、ある意味、いい経験になったんじゃないかな?」
「ぎぎぎぎ銀翼って!? それも、赤薔薇のスカーレット!?」
「凄いです!! テレビで何度か見た事があります!! 赤薔薇のスカーレットと愛機のクリムゾン・レイ!!」
夕暮れになり、何とか皆と合流した。
スカーレットとの事を話せば、色々な反応が見れた。
……それにしても、桜間たちのこの反応……やっぱり、有名人だったのかぁ。
「……芸能人って感じはしなかったけどなぁ?」
「……まぁいい。負けは負けだが、それは仕方のない事だ。相手は三属帯の銀翼であり、メディアにも顔が出ているほどの実力者だったんだからな。メカ・バトを始めたてのお前では逆立ちしても勝てんよ」
「そ、そんなにっすか……いや、まぁ舐めプされて完敗だったっすから分かるっすけど……スカーレットについて詳しいんですか?」
「そりゃ、まぁな。俺たちと同じ高校生だしな」
「――はぁぁ!!? こ、高校生!? 嘘だろ!?」
「……声が大きいぞ。全く」
ゴリ先輩に睨まれる。
俺はハッとして周りの人間に謝ってからゆっくりと席につく。
現在は場所を移動して、アナザーワールド内のファミレスにいる。
客は疎らでも、いるのだからあまり騒いではいけない。
俺は小声でその話は本当なのかとゴリ先輩に確認する。
すると、ゴリ先輩は静かに頷いていた……マジか。
「プレイヤー名、スカーレット。本名は不明だが、年齢は十六歳。シノビと同じ二年であり、去年の高校選抜では、一年でありながら個人の部に出場し準優勝していた。その実力は本物で、火星でメカ・バトの元プロ選手の講師が所属するメカ・バト専門のスクール・アケビにも小学三年の時点で所属していたとメディアに語っていた」
「因みに! 彼女の愛機である深紅の機体クリムゾン・レイはレインの開発の最大手であるダイヤモンド・ウッズが製作したオーダーメイド品ですよ! そう、あのダイヤモンド・ウッズがですよ!?」
「お、おぉぉ……それにしても、銀翼ってのはそんなにすげぇんすかねぇ?」
「「「……はぁ」」」
「え?」
先輩方がため息をつき首を左右に振る。
どういう事なのか思っていれば、桜間が説明してくれた。
「えっとね。実はメカ・バトにも公式が定めたランクがあるんだ。まぁジン君はまだアナザーワールドに来てから日が浅いから知らなかったと思うけど……因みに、僕は白地っていってね。一番下のランクなんだよ……へへ」
桜間はディスプレイを表示する。
見れば、確かにプレイヤーネームの横に白いプレートの上に白地と書かれている。
俺もあるのかと思って探して……ねぇな。
「俺はランク外って事か?」
「あははは、まぁそういう事だね……あ! でも、すぐになれると思うよ。というのも、白地になる条件は簡単でね。公式非公式を問わずに、五回から十回ほどメカ・バトをしたら勝手になってるらしいからさ……僕は五回とも逃げてただけだし」
「へぇ、そうなのか……じゃ、後、最低でも二回戦えば……ふふ、燃えるぜ」
俺は鼻を指でこすって笑う。
すると、ゴリ先輩は咳払いをした。
「……兎に角だ。普通のプレイヤーであれば、白地から始まり青地まである五色帯のいずれかにいるものだが……その上である三属帯はレベルが違うといっておこう」
ゴリ先輩は説明する。
銅刻という三属帯の中で一番低いランクであっても。
至る為には公式戦において優秀な成績を収めなければならないらしい。
至っている人間も、総プレイヤー数から考えれば極僅からしい。
「因みに、その上の銀翼ともなれば至るには相当な努力が必要だろう。公式戦に出場し、三属帯の人間たちから勝利し続けて。その上、運営から課される“特別な課題”をクリアする必要があるらしい」
「特別な課題……試験みたいなもんっすか?」
「あぁそうだ。まぁ五色帯の中でも、赤地に至るのであれば課題はあるが……まぁこれは“ほとんど”がそれほど難しいものではないがな」
「……課題っすかぁ。うーん、結構シビアなんすねぇ。メカ・バトも」
「まぁな。メカ・バトは地球と火星で大流行しているからな。選別のような事をしないと、大会などを開くときにパンクしてしまうからなぁ」
ゴリ先輩は特大のバナナシェイクを一気に飲む。
その横ではおにぎり先輩が大きな器の味噌汁をこれまら一気に飲んでいた。
服部先輩はさっきまであった筈の大盛りの天ぷらそばを既に完食した様子だった。
……公式戦ってのがやっぱり重要なんだろうけど……もしかして、それに出るにもランクが?
「あ、今、公式戦の事考えなかった?」
「え、顔に出てましたか?」
おにぎり先輩が微笑みながら聞いて来る。
先輩はくすりと笑って説明してくれた。
「公式戦にも大きなものから小さなものまで色々あるんだけどね。実は、誰でも参加できる訳じゃないんだ」
「……って、言うと。やっぱりランクが?」
「うん、そうだね。小さい所でも、最低でも赤地以上じゃないと参加できない所はざらで。大きい所だったら、三属帯じゃないと入れないってところもあるんだよ。因みに、高校選抜だけはランク関係なしに高校生でメカ・バトの活動をしていたら出られるけどね……まぁ、最初にある程度、振るい落とされるけどねぇ」
おにぎり先輩の言葉に頷く。
結局はランク次第であり、一番になるには否が応にもランクを上げなければならない。
弱肉強食であり、これはこれで俺好みであった。
俺はバニラシェイクを飲む。
きんきんに冷えたシェイクは甘く。
色々な説明を聞いて糖分が不足していた頭には丁度いい。
ボトルを机に置き、口元を拭ってからゴリ先輩に尋ねる。
「てことは、俺たちは公式戦に出る為にも、ランクを上げる事を第一にって事っすかね?」
「そうだな。その認識で間違いはない……だが、多くの戦いを経験していればランクは勝手に上がっていくものだ。勝って勝って勝ちまくれ。それがメカ・バトだ」
「オッス!」
ゴリ先輩の言葉にしっかりと答えた。
すると、先輩はチラリと服部先輩を見た。
「……調べは済んであるか?」
「えぇ勿論です……此方に」
服部先輩は指を鳴らす。
すると、机の上に紙が出て来た。
俺たちはゆっくりと紙に書かれている内容を見て……大会?
「隣町の商店街にて行われる公式大会“べすとふれんどマッチ”です……公式戦ではありますが、調べたところランクによる選別はありませんでした。恐らく、この大会での勝敗もランク上げと実績作りに役に立つかと」
服部先輩が見せてくれた紙に俺は興奮する。
「おぉ! 公式戦! 早速だなぁ! 楽しみだなぁ。な! サック!」
「え、えぇっと……で、でも。やっぱり何か決まりがあるんじゃ?」
「……どうなんだ、シノビ」
皆が服部先輩を見つめる。
すると、服部先輩はゆっくりと発言する。
「――未婚、独身。交際経験がゼロ。しかし、結婚願望がある者のみ参加可能なようです」
「「「……え?」」」
「そうか。やはり、これは公式戦とは名ばかりの――婚活大会だったか」
ゴリ先輩は腕を組み何度も頷く……え?
「我々であれば参加は容易です。幸いにも、参加する人間たちは清廉なものたちのみ。世のリア充やヤリチン共は参加する事は出来ない……因みに、某のデータによればこの大会で我々が優勝する確率は――99パーセントです」
「おぉ、流石は調査のプロであるシノビだ。よし、ならば我々が参加し、我が新生メカ・バト部の初の公式戦優勝をこれで飾ろうではないか! ふははははは!!」
「レベルの低い童貞どもを我が愛機“モンキーフライ”の刀の錆にしてやりますよ。くくく!!」
「「ははははははは!!!」」
「「「……」」」
高笑いをしながら、飲み物で乾杯する先輩方。
おにぎり先輩はため息をつき、俺たちは黙っていた。
……まぁ何であれ公式戦なんだ……折角出るなら、やっぱり優勝してぇぜ!
俺は紙を手に取り詳細を見た。
すると、大会の開催は一週間後であり……あれ?
「……そういえば、先輩方。ちょっと聞きたい事があるんすけど」
「ん? 何だ。まさか!! 貴様、既に童貞では」
「――介錯なら任せろ。我が愛刀“弐人河岸”の錆に」
「いや、違うっすよ!! そうじゃなくて……これ、参加希望の用紙ってもう出したんすか?」
「「…………出したよな?(出しましたよね?)」」
服部先輩とゴリ先輩は互いに指を指す。
沈黙が場を支配し、俺はたらりと汗を流して締め切りの日時を伝える。
「えっとですね。落ち着いて聞いてくださいよ。締め切りの日は今日で……後、十分しかねぇっす」
「――解散ッ!!!! 行くぞお前たちッ!!!」
「御意ッ!!! 御意ィィィィ!!!」
「あ、僕はこれから用事があああぁぁぁ!!!!?」
「ぼ、僕も習いごとがぁぁぁぁぁ!!?」
「「…………え?」」
ゴリ先輩はおにぎり先輩の頭を掴んで連れ去り。
服部先輩は桜間の腕を掴んで連れ去ってしまった。
残されたのは俺と坂崎さんだけで……え?
「……えっと、お会計って……ですよね?」
「……絶対に払って無いと思うよ……あぁぁぁまたかよぉぉ!」
俺は両手で顔を覆う。
坂崎さんが建て替えようかと聞いてきたが。
流石に女の子に支払わせるのはダメな気がしたので断った。
俺は指を動かして残金をチェックしておく……まぁ何とかなるか。
「……兎に角、公式戦頑張ろうぜ!」
「はい! 頑張りましょう! ……と言っても、私はサポートとしか出来ませんけどね。ははは」
「サポートでも! 俺たちは仲間だからさ!! 頼りにしてるから!! な!」
「……! そ、そうですか……ありがとうございます」
坂崎さんは頬を赤らめながら笑う。
俺はにしりと笑ってから立ち上がる。
坂崎さんも立ち上がって共に会計に向かった。
そこには肌が緑で頭から光っている触手を生やしている女性の店員さんが立っていた。
俺が席の番号を伝えれば、彼女は笑みを浮かべたままレジを叩き――
「二万四千マニーになります!」
「……えっと、間違って……はは」
「二万四千マニーになります!! 此方、領収書です!!」
「…………て、テイクアウト…………豪華骨付き肉のパーティセット…………う、嘘、だろ?」
「二万四千マニーになります!!」
店員さんが何度も言ってくる。
俺は激しく動揺して――ある事を思い出す。
展示会場へと行く前。
部室での何気ない会話だった。
服部先輩とゴリ先輩の会話であり。
その時は何とも思っていなかった。
が、改めて思い返せば――答えが見えて来る。
『服部よ。肉が食べたいな。それも脂の載った鶏肉がな』
『奇遇ですね。某もです。こう骨付きのフライドチキンを豪快に』
『うぅむ。だが、生憎と金が無い。色々と出費がかさんでなぁ……分かるな?』
『うぅん? 某には何の事やら。某も今月は出費が多く……そうですなぁ』
『『うぅぅん。食べたいなぁぁ。食べたいなぁぁぁぁあああ』』
『……何で俺を見てるんすか?』
「……は、嵌められた!! アイツら、俺を、後輩を……な、何て奴らだ!」
締め切りを知らなかったのは演技。
急いで出て行ったのも持ち帰りを悟られない為。
いや、そもそもオーダーを通していたところを見ていなかった。
つまり、事前に店側に連絡をして注文をしていた可能性がある。
用意周到。
此方側が諦めざるを得ない状況を作りやがった。
ただ骨付き肉が喰いたいが為に、公式戦の締め切りを賭けにして……あ、アホ過ぎる!
何て意地汚い先輩たちなんだ。
俺はそんな事を考えながらも、坂崎さんが財布を出そうとしていたのを見て慌てて会計する。
残金が大きく減っていき……ば、バイト代がぁ。
「……もしかして、この前奢ってくれたのも……あ、あり得る」
奢ったから、今回俺が金を出したとしても。
俺から金を請求するなんて事は出来ない。
それは何か負けたような気がする。
何処までも計算高い人たちであり。
恐ろしく金にがめつい人間たちだった。
俺は涙を流しながら店を出る……うぅぅ!
「そ、その……が、頑張りましょうね! は、はは」
「は、はは。そ、そうだな。頑張ろうな……う、ふぅぅ!」
絶対にあんな先輩のようにはならない。
俺は心の中であの二人を反面教師として認識する。
何故か、空を見上げればあの二人が邪悪な笑みを浮かべているような気がした……うぅ!!




