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幸運で不運な灰色賢者  作者: いちた
第一章

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逃れられぬ宿命



王都への帰路、馬車の中の空気は奇妙な熱気に満ちていた。



「しかし、凄まじい爆発だったな!」

「ああ。リアンの魔法が、あの邪悪な魔力と反発して暴走したのだろう」

「いや、私はセラフィナ様が投げた閃光弾が、祭壇の宝玉に誘爆したのだと思うが…」



死地から生還した騎士たちが、興奮冷めやらぬ様子で自分たちの武勇伝を語り合っている。

しかし、その内容はどこか奇妙に食い違っていた。

儀式を破壊した決定的な一撃。

その記憶は、彼らの中で、それぞれが理解できる範囲の「幸運な偶然」へと、徐々にすり替わっていった。



(…あれ? みんな、ちょっとずつ話が違うな…)



馬車の隅で息を潜めていたフィンは、その会話を聞きながら首を傾げた。


(リアンさんの魔法じゃなかったし、セラフィナ様が何かを投げたわけでも…。僕が、石を投げたら、偶然、爆発が…? いや、そんな馬鹿な。石ころ一つで、あんなことになるはずがない。きっと、何か別の要因が重なっただけだ。よく分からないけど、とにかく助かったんだから、それでいいや。うんうん)



フィンは、騎士たちの記憶違いを指摘することもなく、ただ自分が生きているという事実だけを噛み締め、小さく頷いていた。彼にとって重要なのは、それだけだった。


王宮に戻り、騎士団長ヴァレリウスや宰相たちが待つ謁見の間で、帰還報告が行われた。



騎士たちの報告は、やはり要領を得ないものだった。「幸運が重なった」「セラフィナ様の指揮が見事だった」と繰り返すばかり。



ヴァレリウスが、沈黙しているセラフィナに問う。

「セラフィナ殿、真実を。一体、何があったのだ?」


全員の視線がセラフィナに集まる。フィンもまた、祈るような気持ちで彼女を見つめた。



(どうか、僕のことは何も言わないでくれますように…)


セラフィナは、何かを思い出そうとするかのように、わずかに眉をひそめ、口を開きかけるが、言葉に詰まる。


(ああ…だめだ。セラフィナさんまで…僕のことなんて、覚えていないんだ…)


フィンは、完全な絶望に包まれ、俯いた。


謁見の間の誰もが「やはり、混乱しているだけか」と諦めかけた、その瞬間。



セラフィナは、俯くフィンの姿を一瞥すると、迷いを振り払うように顔を上げ、凛とした声で言い放った。




「いいえ。幸運などではありません」




彼女は、その場にいる全員に、そしてフィン本人に聞かせるように、語り始めた。

罠の看破、奇襲の無力化、隠し通路の発見、そして、絶望的な状況を覆した、あの「神の御業」の全てを、一言一句、鮮明に。


(え…?)


フィンは、信じられないという表情で顔を上げた。

(覚えている…? どうして…?)



彼の人生で初めて、彼の起こした奇跡を、何一つ間違えることなく記憶し、語る人間が、そこにいた。


彼の孤独な世界に、初めて差し込んだ一筋の光だった。


フィンは、こみ上げてくる熱い感情を、抑えることができなかった。


セラフィナのあまりに熱烈で、しかし具体的すぎる報告に、ヴァレリウスたちは彼女一人が正気ではない、と判断することもできない。


セラフィナは、その場の空気を決定づけるように、フィンを「最高顧問」に推薦した。


「父上! これより、フィン殿をルミナス公爵家預かりとし、アストリア王国最高顧問として推薦いたします!」



(最高顧問? なんだそれは。王様の隣に立つような偉い人のことか? 僕が? なぜ?)



感動と混乱、そして絶対的な恐怖の中で、フィンの思考は完全に停止した。彼はもはや、それを拒絶するという正常な判断さえできなかった。



ルミナス公爵は、娘のただならぬ気迫と、その隣で金縛りにあったように魂が抜けた顔で震えている少年を見比べ、やて、深く長いため息をついた。



「……よかろう。セラフィナ、お前に一任する」



こうして、フィンの運命は、彼自身の意思とは全く無関係に決定された。

その夜、フィンは、王宮の一室に与えられた、天蓋付きの豪奢なベッドの上で、一人呆然と座り込んでいた。


ぼろぼろの冒険者服は脱がされ、肌触りの良いシルクの寝間着に着替えさせられている。

部屋には、彼の人生で見たこともないような、高価な調度品が並んでいた。



彼は、平穏な日常を望んだはずだった。誰からも忘れられ、静かに消えていくはずだった。


なのに、どうして。


心の中に灯った、生まれて初めての「覚えていてもらえた」という温かい光。しかし、その光が彼を照らせば照らすほど、彼の周りの闇は、より一層濃くなっていくようだった。

フィンの口から、か細い、諦めきった声が漏れた。



「……かえりたーい……」



それは、彼の心の奥底からの、悲痛な叫びだった。

彼の孤独は、形を変えただけだった。



誰からも忘れられる孤独から、たった一人に神だと誤解され、その神の役を演じ続けることを強いられる、新たな孤独へ。

彼の逃れられぬ宿命が、今、静かに幕を開けた。

1章終わりです!

ここまで読んでくれた方ありがとうございました。。

エピローグで締めくくりですᐕ)ノ


面白いと少しでも思って頂けた方はぜひブックマークよろしくお願いいたします!

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