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幸運で不運な灰色賢者  作者: いちた
第一章

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偶然の神業


広大な空洞に、不気味な詠唱が反響している。



一行は息を殺し、物陰から中の光景を覗き見ていた。血の魔法陣、黒ローブの集団、そして祭壇から立ち昇るおぞましいエネルギー。若い魔道士リアンは、その光景に絶望を滲ませていた。


「…魂を喰らい、異界の門を開くための召喚儀式だ…! 完成すれば、王国そのものが未曾有の災厄に見舞われる…!」


「…間に合いますか?」


セラフィナの低い問いに、リアンはか細く首を横に振った。

「儀式は最終段階にあります。我々では、もはや…」


絶望的な状況。


しかし、セラフィナの瞳から光は消えなかった。彼女は、背後で小さく震えている灰色の髪の少年に、全幅の信頼を込めた視線を送る。

(あなたなら、きっと…)



彼女は剣を抜き放ち、騎士たちに命じた。

「儀式を止めます! 私に続け!」


セラフィナの部隊は、嵐のように儀式の場へと突入した。しかし、敵の中核を担う術者たちは冷静に迎撃の魔法を放つ。


リーダー格の術者は、深く被ったフードの奥で、歪んだ笑みを浮かべた。


「愚かな…。自ら贄となり来たか」


セラフィナがそのリーダー格の術者と一対一で切り結ぶ。彼女の渾身の一撃が、術者の杖を弾き飛ばし、同時にそのフードを深く切り裂いた。


舞い散るローブの切れ端の奥から現れたのは、人間のそれではない、禍々しい角と、紅い瞳を持つ**「魔族」**の顔だった。


「角…!? まさか…魔族だと!?」騎士の一人が驚愕の声を上げる。


リアンが震える声で続けた。「馬鹿な…! 古代に封印されたはずの、知性ある魔族が、なぜここに…! しかも、人間の教団員たちと!」


世界の常識を覆す光景に、騎士たちの間に動揺が走る。


正体を現した魔族のリーダーは、人間を装っていた時とは比べ物にならない、圧倒的な魔力を解放した。「遊びは終わりだ」と、彼はセラフィナを絶体絶命のピンチに追い込んでいく。



フィンは、その地獄絵図を、荷物の陰から震えながら見ていることしかできなかった。



彼の脳裏に、セラフィナが魔族の凶刃に胸を貫かれる、鮮明な「妄想」が浮かび上がる。



(だめだ、死ぬ。セラフィナが死んだら、あの魔族は真っ先に僕を殺す。彼女は僕の『盾』なんだ。彼女がいなくなったら、僕は!)



彼の思考は、ただ一点、**「自分の命を守るための盾を、失うわけにはいかない」**という、極限状態の利己的な生存本能に支配されていた。



フィンは、ポケットの中で偶然拾って以来、お守りのように持っていたあの特殊な魔鉱石を握りしめた。



魔族のリーダーが、セラフィナの剣を弾き飛ばし、無防備な彼女にとどめの一撃を振り下ろそうとしていた。


「終わりだ、騎士!」


その瞬間、フィンは腰を抜かしたまま、震える腕で、力任せに石を放り投げた。



生き延びたい一心で。腕が勝手に動き、手から離れた石ころは、自分でも呆れるほど頼りない放物線を描いて、闇の中へと消えていく。

(だめだ、届かない…!)



フィンが絶望した、その瞬間。石は、まるで見えない糸に引かれるかのように、ありえない角度で軌道を変えた。



――その奇跡を、魔族のリーダーだけが正確に感知した。

ただの石ではない。世界のことわりそのものを捻じ曲げる、ありえない力の奔流。


彼はとどめの一撃を放つのを忘れ、力の発生源である、隅で震えているフィンを驚愕の表情で振り返った。


そして、信じられないものを見たかのように、叫んだ。

「なぜ…なぜ今、その力がここに…。滅んだはずではなかったのか…!」


しかし、彼がその言葉を言い終える前に、



カツン。



軽い音を立てて、祭壇の上の黒い宝玉に、石が直撃した。

次の瞬間、音も光も、全てが世界から消えた。


儀式の場に、絶対的な「無」が訪れる。そして、一拍の後。


―――!!!


儀式の中枢で、溜め込まれた魂のエネルギーが、制御を失って暴走。声なき光の爆縮が起こった。



魔族のリーダーと教団員たちは、その光に包まれた瞬間、肉体が塵や塩のように内側から崩壊し、霧散していく。


断末魔の叫びさえも、光の中に吸い込まれて消えた。


やがて、嵐が過ぎ去り、静寂が戻る。


残されたのは、傷つきながらも生き延びたセラフィナたちと、祭壇のあった場所にぽっかりと空いた巨大なクレーター。そして、爆風で壁際に吹き飛ばされ、埃まみれで腰を抜かしている、一人の臆病な少年だけだった。



「……終わった、のか…?」


リアンが、震える声でその光景を解説した。

「信じられない…。彼は、儀式の唯一の弱点を正確に撃ち抜いた…。あれは、運命さえも捻じ曲げる、神の御業そのものだ…」



セラフィナの瞳には、もはやフィンを「天才軍師」と見る色はなかった。

そこにあるのは、人智を超えた、絶対的な存在に対する**「信仰」**に近い感情だった。



創作初期の励みになりますのでブックマークお願いいたします。。


レビュー等も大歓迎です!

なにかしらあると頑張れそう。。( '-' )

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