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幸運で不運な灰色賢者  作者: いちた
第一章

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幕間:王都の深謀


フィンとセラフィナが慌ただしく部屋を去った後、アストリア王宮の一室には重苦しい沈黙が漂っていた。

暖炉の炎が、居並ぶ重臣たちの硬い表情を不気味に照らし出している。



やがて、年老いた宰相が、枯れた声で口を開いた。


「団長…あの灰色の髪の少年に、本当に王国の命運を託してしまってよろしいのですかな…? 見るからに、戦士とも思えませんでしたが…」



その不安げな問いを受けたのは、部屋の主座に座る男――王国騎士団長、ヴァレリウス。彼は、部下たちが畏敬の念を込めて「王国の壁」と呼ぶ、絶対的なカリスマを持つ指揮官だ。


ヴァレリウスは、表情一つ変えずに答える。


「セラフィナ殿が、あれほどの確信をもって推薦されたのだ。信じるしかあるまい。それに…」



彼は、フィンが先ほどまで立っていた空間を思い出すように、目を細めた。


「…あの少年、確かに異質だった。最後の瞬間、彼の気配が完全に消えたのを、あなた方も感じましたかな? あれが、セラフィナ殿の言う『賢者』の力の一端か…」


その言葉に、文官たちはただ困惑した表情で顔を見合わせるだけだった。ヴァレリウスの言葉の真意を、誰も測りかねていた。



やがて、重臣たちが一人、また一人と部屋を辞去していく。

ついに一人きりになったヴァレリウスは、ゆっくりと立ち上がると、窓辺から王都の壮麗な街並みを見下ろした。その瞳から、先ほどまでの忠臣としての光が消え、底知れないほど冷徹で、静かな光が宿る。



彼は、偽りのダンジョンの地図が広げられたテーブルに視線を落とした。


「(灰色の賢者…か。盤上に現れた、予測不能な駒。…面白い)」


その口元に、微かな笑みが浮かぶ。それは、喜びでも嘲笑でもない、ただ純粋な興味と、そして冷酷な計算の色だった。



「(セラフィナの期待通り、この絶望的な状況を覆す『英雄』となるか。それとも、あのダンジョンに潜む『真実』の前に、ただ喰われるだけの『駒』で終わるか…)」



彼は懐から、古びたロケットペンダントを取り出した。


蓋を開くと、そこには若き日の彼と、寄り添う妻子の肖像画が収められている。

その絵を親指で優しくなぞりながら、彼は誰にともなく呟いた。



「いずれにせよ、せいぜい盤上をかき乱してもらおう。…すべては、我が悲願のために」


その声は、冬の夜のように静かで、そして揺るぎない決意に満ちていた。



王国の、そしてフィンの運命が、この男の掌の上で静かに動き始めていることを、まだ誰も知らない。

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