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幸運で不運な灰色賢者  作者: いちた
第三章 北の国境と、賢者の初陣

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第三章-10:大きすぎた代償




フィンが自らの力の行使を行い謝罪を決意したその後



視点は、壁の向こう側。


エリアスとセラの二人だけが、目の前の存在への対処を考えていた。



その姿は大きくひしゃげ、鍾乳石の破片を吸収し、人間だった何かへと変貌した『魂の集合体』。



背後には、天井の崩落により形成された絶望的な岩壁。



そして........後ろには魂が抜けたように立ち尽くし、ただ「すまない」と呟き続ける、頼れるパーティーのリーダーだった男の、抜け殻。



エリアスは、自分の足を見る。

それは折れているなどと思えない、医療の知識がなくとも再起不能であると判断できる砕かれた右足。


ズキンっ!ズキンっ!とその痛みは留まることを知らずエリアスの思考を奪う。


セラもまた、全身のキズに落石で大きく切り裂かれた足の怪我により自慢のスピードを活かした行動は難しい。



状況は、ただの「絶望」から、「確定した死」へと、静かに変貌していた。



だが、彼らはプロだった。

どんな絶望的なシチュエーションであっても生き残ってきた。


その自信とプライドをかけてエリアスは状況を整理する。


ふと、ガルムを見やる。



........お前がいればなんでも出来そうなのにな


エリアスは自嘲気味に笑うと首だけ動かしセラを見た。



「…セラ、立てるか」




「もうとっくに限界に決まってるでしょ」




セラが、笑いながらまるで自分たちのいつもの日常だとも思えるような雰囲気で返す。



彼らは、勝つための作戦など立てなかった。

ただ、自分たちの頼れるリーダーを生かす。


言葉を交わさずともお互いの考えていることはわかる。

ーー最後の仕事に取り掛かった。



エリアスは、自らの魔術師としての知識を総動員し、怪物の核を見抜いていた。


無数の魂を繋ぎとめている、胸部でひときわ禍々しい光を放つ魔力反応が高い中心部。


鍾乳石が胸元を大きくつらぬき、その中心部はあらわとなっている。



「…あそこだ。あそこを叩けば、たとえ倒せなくとも、再生を大幅に遅らせられるはずだ」



「簡単な仕事じゃない。ガルムさんにいい報告ができそう」



エリアスはセラのその態度と反応におおきく救われている。

ああ。と返すとそれはもう叶わない光景なのだとどこかせつなくなる。



「――『陽炎(ミラージュ)』!」


セラは覚悟を持って立ち上がり最後の力を振り絞り、スキルを発動する。


彼女の姿が揺らめき、数体の幻影となって四方八方に散開した。



足の怪我を感じさせない、それはもはや強い意思を感じさせる魂の動き。



倒すのではない。

怪物の注意を惹きつけるためだけの、あまりにも儚い舞だった。



『魂の集合体』の、無数にある人面が、一斉にセラの幻影へと向き直る。



その、ほんの一瞬の隙。



エリアスが、負傷した足をずるずると引きずりながら、怪物の懐へと飛び込んだ。



「...ぬっ.....っ!!」



魔法は繊細である。

定められた術式に魔力という燃料を加えることで奇跡を行使する。



では燃料を再現なく加えるとどうなるか。



エリアスの両腕に、魔術師の命とも言える回路の文様が浮かび上がる。

浮かび上がった箇所は皮膚が裂け血がほとばしる。



ーー答えは簡単だ。魔力暴走を起こし燃料に引火して大爆発する。



「さぁ、俺の奢りだ。たんと食ってくれ――『終焉の(エンド・オブ・ライト)』!」

エリアスの最後の魔法が、至近距離で炸裂した。




凄まじい閃光が、ダンジョン全体を白く染め上げる。



『魂の集合体』は大きく悲鳴をあげる。

様々な顔から思い思いの叫び声をあげる。



胸部は巨大な風穴が開き、ぐらぐらと大きく揺れる。



だが、その代償として。



エリアスは、全ての光を失い、炭化したように、その場に崩れ落ちた。



友を最後まで守ろうと足掻いた英雄は自らを犠牲にしてこの世を去った。



ーー彼の幻影が消え、怪物に隠れたった一人残されたセラ。


彼女もまたどうにかして残っている短刀に自分の持てる力の全てを込めて



悲しい怪物の大きくあらわになった風穴に残っている、友が示した希望に大きく突き刺しねじり込む。


(ガルムさん........あとでいっぱい食べますから。エリアス待ってて)



『魂の集合体』は反射するかのように大きく叫び声をあげる。

原因を取り除くために獲物を切り裂くための爪で自分の胸元にいる異物を薙ぎ払う。



セラは方から斜めに切り裂かれ、最後に見たのは自分の体と

震えるガルムと横たわるエリアスだったもの。




『それら』は意味がわからなかった。


なぜ向かってくる?


なぜ逃げない


なぜだ?なぜなの?なぜか?どうして?


数々の自分が言っている。逃げて泣き叫ぶのが当たり前だと。


たった2人が立ち向かってきて、決死の覚悟で向かってくる。


ーーああ、綺麗だな


『それら』は人が命をかけるその姿に感動した。





壁のこちら側。



フィンとセラフィナは、壁の向こうから聞こえていた苦悶の叫びと、世界が白く染まるほどの最後の爆発音が、ぷつりと途絶えたことに気づいた。



後に残されたのは、耳が痛くなるほどの「静寂」だった。



ついさっきまで聞こえていたはずの、仲間の叫び声、爆発音、怪物の咆哮。その全てが消え去った後の静けさは、どんな轟音よりも、フィンの鼓膜を揺さぶった。



彼は、自らが救ったセラフィナの横顔と、静まり返った絶望の壁を、ただ、交互に見つめる。何かを言おうと口を開きかけたが、そこから漏れたのは、意味をなさない、かすかな呼気だけだった。


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