エピローグ 新たなチェス盤
その夜、王都が静寂に包まれる頃。
騎士団長ヴァレリウスの私室の灯りは、まだ煌々と灯っていた。
「――以上です。最高顧問フィンは、セラフィナ様と共に、明日、辺境のグレイロック砦へ向かうとのこと」
闇の中から滑り出た腹心「影」の報告に、ヴァレリウスは盤上の駒から目を離さずに頷いた。
「ご苦労」
影が闇に消えると、ヴァレリウスは一人、指で駒を弄びながら、昼間の評議会を反芻していた。
(面白い…実に、面白い)
彼の口元に、冷徹な笑みが浮かぶ。
侍従長の証言が、満座の中で霧散していく、あの異常な光景。他の者たちは混乱し、セラフィナは絶望していたが、ヴァレリウスだけが、その現象の本質を正確に理解していた。
(『幸運』の代償による、記憶への干渉。あるいは、存在そのものの希薄化か。思った以上に、厄介で、そして…使える力だ)
彼は、オルドリン公爵暗殺事件を「テスト」と位置付けていた。
結果として、邪魔な研究者を排除し、その研究資料の大半を回収できた。そして何より、フィンという駒の性能データを、大量に得ることができた。
予測不能な「神託」による、情報収集能力。
偶然を装い、因果律を捻じ曲げる、状況操作能力。
そして、自らの功績さえも、人々の記憶から消し去る、完璧な隠蔽能力。
ヴァレリウスは、自らが動かした駒(暗殺者)が、フィンの手によって(間接的に)排除されたことに、怒りも失望も感じていなかった。
むしろ、彼の心は、自分とよく似た、しかし全く異なる「プレイヤー」を見つけた喜びに打ち震えていた。
「(セラフィナは、彼を『英雄』だの『希望』だのと言うが、違うな)」
彼は、盤上の白のキングの隣に、黒のクイーンを置いた。
「(あれは、混沌そのものだ。盤面のルールを根底から覆しかねない、あまりに危険で、あまりに魅力的な…ジョーカーだ)」
彼は立ち上がり、窓の外に広がる王都の夜景を見下ろす。その視線は、遥か北、フィンたちが次に向かうべき辺境の地を捉えていた。
辺境のダンジョン。そこは、彼の「同志」である魔族の過激派が、意図的に活性化させた場所。彼らの目的は、観測者のシステムにさらなる負荷をかけ、その綻びを広げること。
そこへ、フィンを送り込む。
(お前のその理不尽な力が、どれほどのものか)
(この絶望的な戦場で、どう生き延び、何を世界に見せるのか)
(そして、その代償は、次は何を奪う?)
ヴァレリウスにとって、辺境の危機は、もはや国難ではなかった。
それは、フィンという最高に面白い駒の性能を、極限まで試すための、**絶好の「チェス盤」**でしかなかった。
「さて、始めようか。…第二ラウンドを」
不敵な笑みを浮かべ、ヴァレリウスは、夜の闇に静かに溶けていった。
これにて2章完全終了です。。!
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