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幸運で不運な灰色賢者  作者: いちた
第二章 王宮の影と、最初の“神託”

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23/44

逃れられぬ喝采


事件は解決した。


フィンは、王宮内で「王国を救った名探偵」としての新たな伝説を、本人の意思とは全く無関係に打ち立ててしまった。彼の「最高顧問」としての地位は、もはや誰も疑わないものとなった。



フィンは、自室に届けられる食事が日に日に豪華になっていくことに、ただ怯えるばかりだった。



そして、事件解決から数日後。王宮の大広間では、緊急の王宮会議が開かれていた。


フィンも、最高顧問として末席に座らされている。


(なんで僕がここにいるんだ…。かえりたーい…)


議題は、辺境から届いた、あの凶報だった。

「――以上が、グレイロック砦からの報告です。謎のダンジョンから溢れ出す魔物の攻勢により、砦の陥落は時間の問題かと」


騎士団長ヴァレリウスの重々しい報告に、広間は沈黙に包まれた。


「騎士団の増派を!」「いや、まずは補給部隊を…」

貴族たちの議論が紛糾する。誰もが、有効な打開策を見出せずにいた。


その時、一人の老宰相が、意を決したように口を開いた。


「…一つ、手がございます。この国難を乗り越えるための、唯一の希望が」


全ての視線が、宰相の指し示した先――部屋の隅で、ひたすら気配を消しているフィンへと集まった。


「オルドリン公爵暗殺事件を見事に解決された、我らが最高顧問、『灰色の賢者』殿に、この任務を託してはいかがでしょうかな?」


(やっぱりこうなったああああ!)


フィンは心の中で絶叫した。

暗殺事件を解決してしまったことで、次の厄介事が自分に回ってくる。彼が最も恐れていた展開だった。


「しかし、賢者殿は戦士ではない!」「危険すぎる!」

いくつかの反対意見も出た。しかし、その声はかき消されていく。


「いや、彼ほどの知謀があれば、正面から戦う必要などないはずだ」


「そうだ。彼ならば、我々が思いつきもしない方法で、この危機を解決してくださるに違いない」


フィンは、必死に助けを求めるように、隣に座るセラフィナを見た。しかし、彼女は、その青い瞳に絶対的な信頼を宿らせ、フィンに向かって力強く頷くだけだった。


(この人も、行く気満々だ…!)


最後に、玉座に座る国王が、静かに口を開いた。


「…うむ。賢者殿、引き受けてくれるな?」

もはや、フィンに拒否権はなかった。


彼は、蒼白な顔で、ただこくこくと頷くことしかできなかった。


こうして、フィンが次に挑むべき、新たな、そしてこれまでで最も危険な舞台が、決定された。



会議が終わった後、フィンはセラフィナと共に廊下を歩いていた。

すると、向かいから先ほどまで会議でフィンの手腕を賞賛していたはずの宰相たちがやってくる。彼らはセラフィナには丁寧にお辞儀をするが、その隣にいるフィンには、まるで存在しないかのように一瞥もくれない。



「セラフィナ様、先ほどの手腕、見事でしたぞ。あの難事件を、幸運を味方につけて解決に導くとは」


「いえ、すべては最高顧問である、賢者殿のお力です」


セラフィナが隣のフィンを示す。しかし、宰相たちは困惑したように顔を見合わせた。


「…賢者殿? ああ、セラフィナ様が連れてこられたという…。しかし、あの方は評議会の途中で卒倒されただけでは…? 事件を解決に導いたのは、あなたの指揮と幸運だと…」



「……え?」



その瞬間、セラフィナの脳裏で、全てのピースが繋がった。

ギルドの受付嬢。豹変した侍従長。そして、今目の前にいる宰相たち。



彼らは嘘をついているのではない。彼らの記憶から、フィンの功績だけが、綺麗に消え去っているのだ。



まるで、物語の登場人物が、都合よく書き換えられてしまったかのように。



セラフィナは、隣に立つフィンを見た。


彼は、何も言わない。ただ、いつものように、寂しそうに、そして全てを諦めきった顔で、小さく微笑んでいるだけだった。



(…そうか。これが、あなたの宿命。これが、あなたの孤独の正体…)


(奇跡を起こすたびに、あなたの存在は、世界から消えていくのか…)


そのあまりに過酷な真実に、セラフィナは息を飲んだ。



宰相たちが去った後、彼女は、こみ上げてくる感情を抑え、フィンの手を固く握りしめた。



フィンは、その突然の行動に驚いて顔を上げる。



そこにあったのは、もはや「賢者」を崇める盲信的な瞳ではなかった。



彼の背負う、計り知れないほどの孤独と痛みを、どうしようもなく理解してしまった、一人の人間としての、悲痛な、そして決意に満ちた瞳だった。



彼女の役割は、変わった。



フィンを「英雄」として祭り上げる、ただの「推薦者」 ではない。


世界から忘れられていく彼の存在を、自分だけが記憶し、守り続ける、たった一人の「証人」に。



「…行きましょう、フィン」



彼女は初めて、彼を「賢者」ではなく、名前で呼んだ。



「どんな絶望的な任務であろうと。…今度は、私があなたの『盾』になります」



その言葉の意味を、フィンはまだ、正確には理解できなかった。


しかし、その固く握られた手の温かさだけが、彼の孤独な世界で、唯一の確かな現実だった。

2章が終わりました。。。



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