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幸運で不運な灰色賢者  作者: いちた
第二章 王宮の影と、最初の“神託”

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蜘蛛の糸が示す先


翌朝。


フィンは、医務室のベッドの上で、ぼんやりと天井を見つめていた。


昨夜、セラフィナが部屋を飛び出していった後、彼は再び深い眠りに落ちていたらしい。度重なる精神的負荷に、彼の心身は限界を迎えつつあった。


(…昨日の夜、何があったんだっけ)


記憶が曖昧だ。セラフィナが何かを持ってきて、自分が何かを口走り、彼女が喜んで出ていったような気がする。


(まあ、いいや…。今日の晩御飯、なんだろう…)


思考を放棄した彼の頭に浮かぶのは、そんな現実逃避にも似た、どうでもいいことだけだった。



その頃、セラフィナは既に行動を開始していた。

彼女は、ヴァレリウスからの「助言」と、フィンの「神託」という、二つの強力な羅針盤を手に、王宮書庫へと乗り込んでいた。


「――というわけで、オルドリン公爵が最後に閲覧していた資料を、すべて確認させてください」



セラフィナの有無を言わせぬ気迫に、書庫の司書は青ざめながらも頷き、分厚い閲覧記録の台帳を広げた。


「…これだ」


セラフィナの指が、ある一点で止まる。

ヴァレリウスが示唆した「古代の紋章」に関する項目。そして、その閲覧記録が集中しているのは、書庫の中でも特に古い書物だけを集めた「禁書」の区画だった。



(古い木の匂い…。間違いない、賢者殿の神託はこの場所を示していた…!)



セラフィナは、魔道士リアンと数人の騎士を伴い、埃っぽい禁書庫へと足を踏み入れた。

そこは、まさにフィンの「神託」が示した通り、古い紙と木の匂いが満ちる、静寂の空間だった。



「手分けして探します。オルドリン公爵が調べていた紋章に関する記述を、片っ端から!」



しかし、捜索は難航した。禁書庫の蔵書は膨大で、公爵がどの本を狙っていたのか、見当もつかない。


リアンが、途方に暮れたように呟く。


「ダメです、セラフィナ様…。これでは、何日あっても…」

その時、セラフィナの脳裏に、フィンのもう一つの言葉が蘇った。



『蜘蛛の糸』



(蜘蛛の糸…。張り巡らされた陰謀の比喩…。だが、それだけ…?)


セラフィナは、書庫全体を見渡した。高い天井、壁一面に並ぶ書棚、そして、その間を繋ぐように、いくつもの梯子や渡り廊下が複雑に配置されている。


(…まるで、蜘蛛の巣だ)


その瞬間、彼女の中で何かが繋がった。


(賢者殿は、書庫そのものを『蜘蛛の巣』と表現した。そして、公爵が調べていたのは『紋章』…。だとしたら、探すべきは、本の中ではない…!)


彼女は、書庫の中央に立ち、天井を見上げた。

そこには、王家の歴史を描いた巨大なステンドグラスが嵌め込まれていた。色とりどりの光が、床に幻想的な模様を描いている。



「リアン。あのステンドグラスを調べてください。公爵が調べていた紋章と、同じものはありませんか?」

「えっ? しかし、あれはただの装飾で…」

「いいから、早く!」



リアンは戸惑いながらも、鑑定の魔法を詠唱する。


すると、ステンドグラスに描かれた無数の紋章のうち、たった一つだけが、微かな魔力反応を示した。


それは、公爵が調べていた古代の紋章と、完全に一致していた。


「…見つけた」


セラフィナは、その紋章が示す書棚へと向かう。それは、他の誰もが見向きもしない、ごくありふれた歴史書の棚だった。



彼女は、紋章のちょうど真下に位置する一冊の本を、ゆっくりと引き抜いた。


――カチリ。



小さな音と共に、本が置かれていた棚の奥が沈み込み、隠し金庫が出現した。


中には、一通の羊皮紙が収められている。それは、オルドリン公爵が、自らの命が狙われていることを予期し、最後の切り札として隠した、研究資料のオリジナルだった。



羊皮紙には、誰も知らないはずの、古代の魔族の文字で、こう記されていた。


『観測者は、我らと同じ血…』

「…これは…!」


セラフィナは、まだその文字の意味を理解できなかった。


しかし、これこそが、犯人が命を懸けてでも奪おうとした、「事件の核心」であることを、彼女は確信した。

彼女は、羊皮紙を固く握りしめる。


フィンの「神託」が、再び、真実への扉を開いたのだ。

何卒!何卒。。! 応援いただける方はブックマークさんを!!


それはさておき読んでくれてる方本当にありがとうございます。。頭が上がりません。。

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