2人の賢者
その夜、王宮の一室。
騎士団長ヴァレリウスは、静かに盤上の駒を動かしていた。
黒と白の石が、複雑な模様を織りなす、東方の盤上遊戯「囲碁」。
彼が、思考を整理するために好んで用いる孤独な趣味だった。
彼の前に、影が音もなく滑り出た。ヴァレリウスの腹心であり、王宮内に張り巡らされた諜報網「影」を束ねる男だ。
「…報告を」
ヴァレリウスは、盤上から目を離さずに言った。
「はっ。本日午後、セラフィナ様が最高顧問の『神託』に基づき、王宮書庫へ。現在、オルドリン公爵の関連資料を調査中です」
「…そうか。私が『助言』した通りの動きだな」
「はっ。すべては閣下のお考えの通りに」
ヴァレリウスは、黒い石を一つ、盤上に置いた。パチリ、と硬質な音が静寂に響く。
「して、肝心の『神託』とやらは。最高顧問は、何と言っていた?」
「はっ。医務室にて、ひどくうなされた後、『古い、木の匂い』『蜘蛛の糸』とだけ…。その後、激しい頭痛を訴え、再び意識が混濁した模様です」
その報告に、ヴァレリウスは初めて盤上から顔を上げた。その瞳には、興味と、そしてわずかな警戒の色が浮かんでいる。
(古い木の匂い…書庫。蜘蛛の糸…陰謀。あまりに直接的すぎる比喩だ。子供の遊びのようだな)
彼は内心で嘲笑する。だが、同時に、底知れない不気味さも感じていた。
(しかし、結果として、セラフィナは書庫へとたどり着いた。私の誘導があったとはいえ、あの少年は、確かに真相への『道筋』を指し示した…)
ヴァレリウスは、自らが「世界から愛された存在」として持つ、世界の理への微かな干渉力を自覚している。
それは、鍛え抜かれた直感や、圧倒的な観察眼として彼の内に顕現していた。
彼は、その力と、自らの知謀のすべてを使って、この巨大な陰謀の盤面をコントロールしてきた自負がある。
しかし、あの少年、フィンは違う。
ヴァレリウスの腹心「影」からの報告を統合すると、ひとつの異常な結論が浮かび上がる。
• 彼の力は、完全に制御されていない。
• 彼の力は、本人の意思とは無関係に、生存本能に直結して発動する。
• そして、彼の力は、未来か過去か、あるいはその両方か、何らかの「情報」を直接読み取っているフシがある。
(私のように、盤面を読み、二手三手先を計算して『最適解』を導き出すのではない。奴は、盤面の外側から、直接『答え』そのものを盗み見ているのか…?)
もしそうだとしたら、それはヴァレリウスが信奉する「知謀」や「戦略」とは、全く異質の力。ルール無用の、反則技だ。
ヴァレリウスは、白い石を手に取り、先ほど自分が打った黒石のすぐ隣に置いた。
それは、相手の勢力を封じ込め、殺しにいく、厳しい一手だった。
「(偶然を操り、未来を盗み見る…か。面白い)」
彼の口元に、初めて、獲物を見つけた捕食者のような、獰猛な笑みが浮かんだ。
「(私と同質の力を持ちながら、その使い方を知らん、赤子同然の存在。あるいは、私とは全く違うルールの下で戦う、未知のプレイヤー…)」
彼は、フィンを「セラフィナに担がれただけの少年」という評価から、**「自分と同じ盤上で戦う資格のある、もう一人の『賢者』」**として、明確にライバル認定した。
それは、この世界でただ一人、ヴァレリウスだけがたどり着いた、最も正しく、そして最も歪んだフィンへの評価だった。
「引き続き、監視を続けろ。あの少年が次に何を『視る』のか…興味深い」
「はっ」
影が闇に消える。
影が闇に消える。
一人残された部屋で、ヴァレリウスは、盤上で始まったばかりの、黒と白の石の殺し合いを、静かに見つめていた。
彼は再び、懐のロケットペンダントを握りしめる。
(見ていてくれ、リリア。お前たちを奪ったこの理不尽な世界を、私は必ず…)
その誓いだけが、彼の心を、復讐という名の闇の中で、燃え上がらせ続けていた。
イケおじが動いてまいりました。。
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