9 大勝利!
『周囲熱源反応クリア、及び各脅威対象反応オールクリア』
『電力供給を低供給モードへ変更』
『各戦闘用システムをスリープモードに移行します』
『各種レーダーの稼働率を最大へ変更。以後反応をアラートでお伝えします』
『休息にお入りください。お疲れさまでした』
終わ、った?
ノイズまみれのディスプレイに映るのは、両断されたMUSASI。
私達のRIAに握られたプラズマブレードは、電源が落ちて光を失っていた。
…勝った。
勝った。
ふらっと力が抜けて、後頭部を突起にぶつけてしゃがみ込んだ。
…いっづぅ…
「…おじさん!?」
うずくまっていて、さっきから反応のないおじさんに慌てて飛びつく。
シートに腰かけたまま、目を閉じていた。
…嘘?
震える手で、そっとおじさんの胸に触れる。
…どくん、どくんと力強い鼓動が伝わってきた。
…よかったぁ…
もう一度力が抜けて、今度はおじさんの膝に頭を乗せる。
ちゃんと顔を見ればしっかり息をしてる。
気絶しただけみたいだ。
驚かせないでよホントに…
無事でホントによかった…
同じことを何度も何度も呟いて、しばらくそのままぐすぐす泣いていたのだけど。
流石に気を取り直して立ち上がる。
…これからのことを考えなきゃいけない。
ハッチを開ける。
おじさんを起こさないように気を付けつつ、ゆっくりとRIAを降りる。
…両手で、ライフルを抱えて。
ハッチを閉め直して、動かなくなったMUSASIへ向かう。
胸部のコックピットごとぶち抜いたんだし、多分大丈夫。
大丈夫だとは思うんだけど、念のため。
私だって死にたくない。
ぎこちない手つきでライフルを構えて、ゆっくり近づく。
恐る恐る近づいて、異臭に顔が歪む。
鉄の焼き切れた臭いに、バッテリーの液漏れとかの影響だろうか。
…それと、人の血肉とか。
…覚悟を決めて機体を覗き込む。
意外にというか、想像していたような凄惨な死体はなかった。
あるのは焼け焦げたコックピットと、こびりついた赤色の染みだけ。
それだけ。
「…おぇぇッ」
吐いた。
大丈夫だと思ったんだけど。
鉄錆びた空気が肺いっぱいに広がる。
むせこんで息を吐いても、また地獄のような空気が入ってくる。
気持ち悪い。
…早く、帰ろう。
もう一度吐いて、口を拭ってからRIAによじ登る。
まだおじさんは気絶してた。
過度なストレスによる気絶というか防衛反応なんだろうけど、気持ちよさそうに寝息を立てている。
…このおじさんも、兵士だ。
私が整備してたRIAも、目の前でこの人に倒された。
そして、私が捕まった時も一人で全員を倒した。
…倒した。
ううん、違う。
殺したんだ。
人の命を奪った。
それ自体は、人として忌避すべきことだと思う。
でも私は、おじさんを責めようという気にはならない。
相手が殺しに来るのだから。
正当防衛でしょ?
相手が殺しに来るのに、相手を殺しちゃいけないなんて道理が通るの?
ハッチを閉じる。
シートの後ろに座ろうとして、思い直しておじさんの膝にそっと腰かけた。
さっきの戦い。
消えた頭部センサーの代わりにサブセンサーで視界を確保して。
奪い取ったプラズマブレードを、私が接続して決着した。
そして、その指示をしたのは私。
私も、人を殺したと言える。
あんなに惨たらしく、まともな死体すら残さずに。
どれくらい痛かったのか。
どれだけの恐怖があの瞬間にあったのか。
分からない。
想像したくない。
もう一度せり上がる胃の中身を、なんとか堪える。
私は人殺しだ。
言い逃れもできない、立派な殺人。
…でも、仕方ないじゃないか。
悪いことだとは思わない。
私が悪いなんて、思わない。
私もおじさんも死にに戦場に来たんじゃない。
ここは戦場だから。
相手が殺しに来るから。
やらなきゃ殺されるから。
私は、悪くない。
仕方なかった。
仕方ないんだ。
振り向いて、もう一度おじさんを見る。
シートに体を預けて、まだ起きそうにない。
…もしかしたら、もう私は狂ったのかもしれない。
昨日戦場に落とされてから、とっくに戦場に慣れてしまったのかもしれない。
おじさんの左腕を抱き寄せる。
ごつごつとした、硬く強く、太い腕。
RIAを駆け、誰かを傷つけて、殺してきただろう腕。
…そして、私を助けてくれた腕だ。
その事実は、変わらない。
抱いた腕の温度を感じて、ふわふわとした幸福感すら感じる。
幻影のようなその感覚に身を預けて、私は目を閉じた。




