8 戦闘Log:01「MUSASI」
さて、どうしたもんか。
教養も無い脳ミソ使って考える。
嬢ちゃんにカッコつけたはいいが、まず分が悪いのは俺の方だ。
相手の武装はブレード一本だけみたいだが、どう見たってありゃ軽量機体。
全高こそあるが、機動力的にはあっちが格段に上だろう。
対してこっちは満身創痍。
肩武装は全部使い切っちまってる。
残るは平凡なライフル一丁。
一撃で仕留められるような武装はない。
アラート。
甲高い音は辛いなどとくだらないことを考えつつ、反射的に低く後方へ跳躍。
ほぼ同時に敵さんも突っ込んできやがった。
思ったより素早い。
15メートル越えの巨体でどこにそんな俊敏性があるのやら。
旋回しつつ着地しそのまま後退。
見た目の割に、というか見た目通りの機動力特化のタイプか。
このまま速度で勝負したら負けるのはこっちだ。
ただ、機動力の代償は装甲と相場が決まってる。
トリガーを引く。
ARIAでも、数発当たれば撃破が見えるはずだ。
…当たれば。
「クソッ」
足止めのつもりでばら撒いた弾丸が全て避けられる。
流石に何発かは当たってるとは思いたいんだが、見た所損傷は無さそうだ。
流線形のフォルムに上手いこと受け流されたか。
どころか、そのままブレードを振るう歩兵装甲。
下段構えからのブースター跳躍斬り。
切り上げをこっちもブースターを吹かして避ける。
単純な推力ならともかく、瞬間的な速度なら拮抗できる。
空気を焼く派手な音を聞きながら、ガラ空きになった胴にライフルを構えた。
取った。
間一髪で、鼻先を掠る火花を避ける。
持ち替えられたブレードの振り下ろし。
直撃は避けた。
代償になったのは、ARIA。
弾倉に着火する前に投げ捨てる。
爆ぜるARIA。
あわよくばと思って敵さんに投げたが、もちろん回避された。
二度の大振りに味を占めたか、ブレードをもう一度大きく振りかぶる。
「舐める、なぁ!」
ブースターを吹かす。
まだ無事な左肩を構えての、突進。
体格差が絶妙に噛み合い、当たったのは胸部のド真ん中。
鉄の巨人がタックルかましたんだ。
流石に怯んだか、大きくよろけた敵さんがブレードを落とす。
ブースターを吹かしたまま右脚蹴り。
景気良く吹っ飛ぶ敵さんを目で追いつつ、ブレードを奪う。
『武装再接続……エラー。電力系の不一致』
「黙ってろ!」
さっきまでのプラズマが消え、ただの鈍重な鉄の棒きれに成り下がった。
それに、デカすぎる。
RIAの全高ほどの大きさ。
ただ振るにしても難しいぐらいだ。
「私がやり、ッ!?」
大きく傾いたコックピットの横から、嬢ちゃんの悲鳴が聞こえる。
蹴り飛ばしたはずの敵さんが、RIAの頭を鷲掴みにしていた。
復帰も早いな、クソ。
反射的にブレードを振り上げる。
自分でも訳の分からない気合いを上げて、もう一度ブースターを吹かして立ち上がる。
金属の潰れる音と、何かがひしゃげて砕け散る音。
視覚センサーがぶっ壊れたのと同時に、とんでもない轟音が耳を襲う。
「もう一撃!」
思わず耳を塞ぎかけて、嬢ちゃんの激が飛ぶ。
「何!?」
「まだ目の前で、まだ居ます!」
ふと見れば、嬢ちゃんは計測器か何かを操作していた。
瞬きをして、目を開ければディスプレイが復旧した。
ノイズ混じりのそれに映ったのは、胸部にブレードが食い込んだ半壊の鉄くず。
さっきの攻撃で吹っ飛ばされたのか、数十メートルは距離が開いている。
まだ生きているのか、頭部センサーは俺たちを睨んでいる。
「ありゃまだ動くのか!?」
「あと一撃入れれば破壊出来ます!」
「一撃入れりゃいいんだな!?」
なんとかRIAを起こす。
立ち上がって、一斉にアラートが鳴りやがった。
『頭部消失、各種基礎センサー類停止』
『推進剤、残量21% 安全性考慮の観点から』
「黙っててッ!」
アラートが止む。
代わりに大声で嬢ちゃんの激がまた飛んだ。
「ブースター使わずに!ブレード取ってもう一撃!」
走り出す。
こっちを見て、敵さんが立ちあがる。
自分に刺さったブレードを、なんとか抜こうとしていた。
「させっかッ!」
10メートル越えの鉄くずに刺さったブレードに手をかける。
押し込もうとして、思い切り振り抜かれた左ストレートで吹っ飛ばされる。
コックピットが潰されなかったのは僥倖。
ブレードごと飛ばされ、なんとか体勢は崩さず着地。
もう一撃を入れようと駆ける鉄くず。
覚悟を決めて左手のブレードを構える。
『接続完了』
空気を焼く派手な音が鳴る。
左手のブレードから迸るプラズマ。
「あ、あああああぁぁぁぁッッ!!」
掬い上げるような下段からの一閃。
振られた左腕ごと、コックピットを一撃で切り裂いた。




