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6 こいつ、動かないぞ

「ちょ、ちょっと借りても良いですか…?」

「お、本職様のお出ましか」

「見習いですけどね…」


ぎちぎちのコックピット内部でなんとかパネルに触れる。

おじさんのどこかにも色々触れてるかもしれないけど気にしない。

気にしたらちょっと私は耐えられない。


「…頭の後ろにでも組んでおいた方がいいか?」


とても申し訳なさそうなおじさん。

申し訳ありません。

私は良いんですけど絵面が、うん。

誰も見てないだろうけどちょっといかがわしく見えても仕方がない感じだからね。


「お、お気になさらず…」


いいんだ、私ってそんなに大きくないし。

触れてるって言ったって、そんなムフフな感じのボディじゃないし。

少し…いやかなり…

…整備士としてなら別に大きくても仕方がなくない?

邪魔なだけでしょう。ええ。

我が職を全うするにはこの身体がベストなのだよ。

バストは小さい?

射出すんぞ?

って射出されたの私やないかーい。

あっはっはっはっはー。

あ、ちょっと出兵してきます。

ここ戦場だけど。





「やっぱり機体自体が壊れてますね」

「システム不具合じゃないか…」


ちょっと弄ってみたけど、システム関連は問題無し。

ただ、やっぱりというか機体のダメージが限界だったみたい。

さっきの音声案内でも言ってた通り、右脚の損耗率が凄い。

装甲が破壊されてるだけじゃなくて、駆動系や電力系までダメージが行ってた。

下手に動かすともっと悪化するし、最悪漏電とかでの二次災害まで出る可能性がある。

やっぱりおじさんの組織優秀では?

ここまでしっかりしたサポートシステム積めるんだから。

私の元組織が思ったより貧乏だった可能性も捨てきれないけどさ。


「ともかく、直してみないことには動けないですね」

「直せそうか?」

「うーん…」


凄く、判断に困る。

可能か不可能で言えば多分可能。

ただ、あんまり自信がない。

整備された保管庫のような場所であれば、ある程度の自信を持って挑めるだろう。

今の手持ちの物資と私の技術だけでどれだけ直せるか…


「…頑張ります」


各種センサー反応確認。

敵探知よし。

私、行きまーす。

胸部ハッチを開けて、すっ転ばないよう慎重に降りる。

脚を伸ばして座ったRIA(リア)をヘッドライトで照らす。

改めて見るとボロボロだね…

裂けた装甲に鉄の錆びた臭い。

右腕まで失くしてもまだ動いてくれることに感謝しつつ、右脚の関節部を調べる。


装甲はこの際いい。

もうおじさん所属組織の領域内だし、そもそも修理できるだけの素材が無い。

駆動部は…特に問題なさそう?

パッと見大丈夫そうだけど、一応中も見てみる。

ここの板を外して、ここも外して…

よいしょ。

ん!?

なんだこの駆動系!?

液体入ってるぞ!?

すぐに掻き出し…いやこれポリマー?

ねちょっとしてるし、なんか活性化してるし。

あー、これ整備学校で習わなかったところだ!

何だっけこれ。


考えること1分。

考えられるのは「駆動系を補助する機構の一環なんだろう」ということくらい。

以上。

下手に触れないよポリマー機構は!

最低野郎でもなきゃ弄れないでしょこれ!

てことで蓋をそっ閉じ。

破損部はきっとここじゃないよね。

きっと別のところにあるはずだ。

そうじゃないと本気で困る。


と、探したらありました。

平たく言うとβ波共鳴型身体同期システムの伝達不良だね。

急に詠唱するな?

正式名称これなんだからいいでしょ。

あれだ、前世で言う所のバーチャルリアリティーでのトラッキング。

あれの発展形みたいなものだね。

この世界の発展は前世のそれとは違うから完全に同じって訳じゃないだろうけど。

パイロットが着けるグローブやヘッドギアで、動きをある程度操縦に反映できる。

完全じゃないし慣れや調整が必要だから、誰でも使えるような便利技術じゃないけどね。

もっと発展すればロボットファイトが出来るかも?

RIA(リア)のあの手が真っ赤に燃えたりはしなさそうだけど。


で、その伝達用のケーブルが外れてた。

ケーブル本体はまだ使えそう。

そんなわけでただ繋げるだけだと思ったんだけど、思ったより面倒くさかった。

結合部が駄目になってたから慎重に切って、繋げる側も動作不良起こしてたからなんとか直して。

やっとの思いで直して蓋を閉める。

あー、疲れた。

あ、まだ電力系見てない。

うがー!




えー、工事完了です。

疲れた…

作業内容的には普通だったんだけどね?

なんか異様にぐっちゃぐちゃの配線だった。

仕様書とかが無い初見の機体だったのもある。

私の知ってるのと違って色々な工夫がされてるし、整備方法も私とは違う。

後はただただ物資不足。

私の手持ちの工具じゃ限界があるよ!

このレベルならなんとかなりますけどね!?

ちゃんと整備士になったらもうちょっとマシな道具を買おう…


作業を開始した時には地平線にいた月も、いつの間にか私の頭の上で見守ってた。

きれいだねぇ。

雲が1つもない夜空に、大きく浮かぶ上弦の月。

つい見惚れて、なんとなくRIA(リア)の右脚に腰を下ろした。


…今日は激動の一日だね。

激動なんてもんじゃない。

なんで生きてるのかが不思議なくらいだ。

…全ての元凶はあのクソババアってことになるけど、考えないことにする。

考えてもどうにもならないことは、あんまり考えても仕方がないし。

もう敵だし。


今の私はおじさんに命を全ベッドしてる。

あんまり考えたくないけど、捕虜としての扱いは酷かもしれない。

出来れば正規の整備士になりたいくらいだけど、どうなるかは正直分かんない。

とにかく、私は私が生き延びる為になんでもする。

少なくとも、銃弾やロボに殺されるなんてごめんだ。


そこまで考えてから、もう一度月を見上げた。

人類はまだ、月とを自由に行き来することも出来ない。

ただ、どんなに難しくても不可能じゃない。

今日みたいな九死に一生な体験だって、なんとかなったし。

頑張ればなんとかなると思って頑張ろう。

軽く伸びをしてからRIA(リア)の脚を伝って、コックピットによじ登る。

ハッチを開ければ、おじさんがタバコを咥えたまま寝ていた。

…意外とかわいい…?

なんだ?ギャップ萌えってやつか?

吊り橋効果的なのもあるんだろうけどね?

どうしても私はこのおじさんが愛らしくてしょうがないよ!

だって命救われてんですよ!?

その上で捕虜の私を手厚く保護してくれたりさぁ!

もう嫁ぐしかなくなっちゃうよ!


1人でハッスルしてたら、急に眠気が。

お腹もすいてるけど、無い物を考えても虚しくなるだけだ。

とりあえず寝よう。

おじさんの膝をお借りして、パネル操作でハッチを閉める。

コンクリートよりもずっと居心地がいい膝に満足しつつ、そのまま目を閉じる。

なんか気持ちよく寝られそう。

スリープモードに移行しまーす。

おやすみなさい。

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