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3 赤色の肩

ん、うぉ?

おはようございます…?

まだ少ししか寝てない気がするんだけど。


ぱらぱらと埃が舞う。

頑丈な鉄コンのビルが揺れているのを見るに、ただの歩兵の戦闘じゃない。

近くで、RIA(リア)達の戦闘が起こってる。

頬をひっぱたいて弛んだ意識を引き戻す。

外に出て確認したいけど、まだ爆発音がするしリスクか。

屋内の階段を上がる。

ある程度の高さまで登ったら、バルコニーに出てしゃがむ。

腐っても私は軍所属の整備士。

こういう最低限のステルスはできるのだよ。

誰でもできるとか言うな!

まぁでも、こういう小さな行動が命を救うわけですよ。

身を屈めてれば爆風とかの影響も減るしね。


直後、左頬に鋭い痛みが。

ガラスの破片かなにかがぶつかったんだろうけど、それ以上に私は目の前の事象に釘付けになっていた。

青い肩部のRIA(リア)が、胸部を撃ち抜かれて。

赤く見えた何かは、血?

搭乗者を失ったRIA(リア)が、膝から崩れ落ちる。

派手な爆発なんてない。

最期の叫びも、奇跡も在りはしない。

ただ、鉄くずに成り下がったロボットがあるだけ。


そして、その犯人がこちらに向かって来る。

赤い肩の、RIA(リア)

私は軍服なんて持ってない。

人手が足りないから、急遽呼ばれた見習いの整備士だ。

だから、かもしれない。

私の目の前で、赤肩のRIA(リア)が止まった。

胸部ハッチが開く。

銃を持った中年の男が、私をじっと見ていた。


「動くな」


言われなくたってそうする。

というか、身体が動かない。


「膝をついて、両手を後頭部で組め」


言われる通りに従う。

直後、男がバルコニーに飛び乗った。

思わず顔を伏せる。

カツカツと硬い音がして、見下ろしていた視界に影が映る。


「所属は」


重い、重い声。

答えようとなんとか顔を上げると、額に銃口を添えられた。

声を上げて、喚かなかった私を褒めて欲しい。

その代わりに、私の口は木偶の棒になってしまったけど。


「所属は」


喉がひりついて、呼吸がうまくいかない。

ざらついた舌が意味も無く踊るけど、声は出てこない。

ぐい、と銃口が額を押す。

バカみたいに動く唇をよそに、目からは涙が勝手にあふれていた。


「嫌…」


やっと出てきた声は、命乞いですらない何か。


「死にたくない…」


見習いとはいえ、軍の威厳も何もない、ただの醜い命乞い。

それでも、男からすれば及第点ではあったらしい。


鈍い衝撃をお腹に感じてうずくまる。

痛みに呻いている間に、両手両足を綺麗に包帯で縛られた。

そのまま担がれてコックピットの中へ。

丸まった姿勢で押し込められて、男が入った後にハッチが閉じる。

男が手足を操作用器具に通していくのを見て、思い出したように呼吸をしだした。


「…」


まだパニックで息の荒い私を見て、男が何かを思い出したかのように手を伸ばす。

胸ポケットにしまっていたタバコの箱を奪い、その場で吹かし始める。

RIA(リア)が動き出す。

吹かれたタバコの煙を吸い込んで、また咳き込む。

どうやら私はタバコが苦手みたいだ。

そんなことはお構いなしに、男がまた息を吐く。

ため息のようにも聞こえるそれを堪えて、男をじっと見る。

無精髭にぼろぼろの作業着、それに左肩の赤い布。

タバコを咥えた姿は、正直ちょっとかっこいいと思ってしまった。

私の視線に気づいてかは知らないけど、男がもう一度こちらに手を伸ばす。

着古したシャツを掴み、左腕の名前付きの腕章を手に取った。

…気のせいか、渋い表情をしたように見えた。


「…いつの時代でも、学徒出陣とはなァ」


歴史の教育が足りなかったか、と乾いた笑いと共に煙を吹く。


「安心しろよ、お前さんだって立派な労働力だ」


腰の整備用道具を見て、またさっきの表情にもどる男。

すぐに殺す気はないとの意思を聞いて、ようやく少し落ち着きを取り戻せた。

ふ、ひゅっ、ふぃー。

そうだ、そうだよね。

前世も今世もなんだかんだで人手が必要。

というかこの世界じゃまともな整備士なんてあんまり居ないし。

そこにいかにもな道具をひっさげたか弱い乙女がいたら、捕虜にして上手く使うよね。

あれ?

私って捕虜?

所属はバレたっぽいしこれ捕虜ってやつだよね?

私このままだと敵さんのとこで働かされる?


…まぁ、それでもいっか…

優先すべきは私の命。

私が働くことでそれが守られるなら、私はそうする。

裏切り者?

いや、それはそうなんですけど。

うっかり同僚を射出する奴と働くよりマシだと思います!

なんだようっかり同僚を出撃中に投げ飛ばすとか!

カス上司にもほどがあるわ!

落ち着いて考えてみたら腹が立ってきたぞ!?


「それから」


ビクリと肩が跳ねる。

幾分落ち着いたとはいえ、銃を持ってる戦闘員が相手じゃ。


「どうしてお前さんはこんなところにいるんだ?」


前方のモニターを見て、こちらに視線は向けていないけれど。

先程よりは少しだけ柔らかい声、というか好奇心での質問に聞こえた。

…そりゃあ、普通は来ないよこんなとこ。

私だって来たくて来たんじゃない。

どう見ても正規の整備士じゃない、覚悟も決まってないような奴が来るところじゃない。

それに、私は何の武装もしてないし。

考えれば考えるほど意味が分からんでしょうね。


「…不慮の事故、と言いますか…」

「事故?」

「…出撃に巻き込まれて…艦から…」


一応、殺す気のない男に安心を覚えたからだろうか。

少しだけ柔らかい雰囲気になったコックピットを、どこかで聞きなれたアラートが切り裂いた。


「クソッ」


RIA(リア)が旋回する。

おかげで私は逆方向の壁に叩きつけられた。

衝撃。

恐らく右からの攻撃で、コックピットの中でもわかる程度には大きく傾いた。

また叩きつけられる。

間隔の短いアラートの意味。

それは、高熱源や高速の物体に対しての警告。

例えば…歩兵用のバズーカとか。


「どれだけ居るんだよ…」


もう一度叩きつけられて、悪態をつく男の歪んだ顔が見えた。

どうやら街跡に誰かが住んでいたらしい。

それも、どうやら武装した組織が。

先程のアラートが止んだ代わりに、別の警報が鳴り始める。


『平均装甲損傷率、50%以上』

『電力系一部破損、右腕部の動作不良を確認』


私が整備したRIA(リア)では音声機能はなかった。

そんなどうでもいいことに少し驚いて、固まっていた私を男が抱きかかえる。

コックピットのハッチが開く。

銃と驚いた私を抱えて、男が勢いよく飛び出していく。

ただ、流石に少し重すぎたんだろう。

本日二度目の浮遊感。

両手両足を縛られた私には、受け身なんて取れない。

パニックの私が受け身なんて取れたかどうかは分からないけど。

男の腕から滑り落ちた私は、コンクリートに思いっきり叩きつけられた。

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