第6話:家康、君臨す──正月の誓いと春の布令
慶長五年(1600年)正月、大坂。
白雪の舞う本丸には、豊臣秀頼を新年の祝賀に訪れる大名たちの列が続いていた。
だがその足は、やがて自然と西の丸へと向かう。
そこには、すでに新たな「主」となりつつある男──徳川家康の姿があった。
「……殿、ご機嫌うるわしゅうございます」
誰もが頭を下げ、膝を折る。
そしてその手には、年始の献上品だけでなく、 未来の忠誠を誓う証文すら添えられていた。
EDO『推定支持率:86%。有力大名より年賀祝賀の意+臣従確認。』
家康は、その一人一人に静かに応じる。
だがその眼差しの奥には、すでに政を掌握せし者の威厳があった。
「今年は、変化の年となる……いや、ならねばならぬ」
そして、二月── ついに家康は、自らの名で諸大名に領知宛行状を発する。
それは、かつては将軍や関白、あるいは秀吉だけに許された行為。
だが今、それを堂々と行っているのは家康であった。
EDO『行動解析:徳川単独宛行状、政権確立フェーズ移行を示唆。影響範囲:全国主要大名網羅。』
与えられた新地、新たなる知行の指示。
そのいずれにも、豊臣の名は添えられていない。
「もはや、豊臣は……名だけのものとなりにけり」
そう囁いたのは、京の老僧であった。
世間の空気はすでに変わり始めていた。
家康は、いまや堂々たる“天下人”として、誰もが扱い始めていたのだ。
だが、その静けさの裏で── 西国の空気は、不穏な火種を秘めていた。