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第5話:加賀の火種──決断の刃、研がれる時
加賀征伐の計画が幕府中枢から洩れるや、 前田利長は青ざめた。
「父の忠義を……我が家が裏切ったというのか……」
前田家が豊臣と深く結びついてきたことは事実。
だが、家康を敵に回すことの恐ろしさもまた、 利長は誰よりも理解していた。
彼は、決断した。
「母・芳春院を……江戸へ差し出します」
それは、命よりも重い人質の差出であった。
この報を受けた家康は、 無言のまま、ひとつ深く頷いた。
EDO『加賀征伐、回避。対象:前田家、人質受け入れにより降伏扱い。』
一方、浅野長政も身の処し方を決める。
息子に家督を譲り、自らは徳川が支配する武蔵国・府中へと隠居した。
大野治長も罰せられ、下総国の結城秀康──家康の次男に預けられることとなった。
時を同じくして、かつての豊臣恩顧大名であった加藤清正、細川忠興、藤堂高虎らが、
次々と家康への臣従を表明。
武断派の潮流が、静かに徳川に集まり始めていた。
「戦をせずして、天下を制す」
家康の眼差しは、すでに遥か先を見据えていた。