第2話:沈黙の牙──前田利家、最期の覚悟
家康が政局の主導権を握った、そのわずか二カ月後──
もう一人の大老、前田利家が重い病に伏せった。
豊臣家の重鎮であり、秀吉の遺志をもっとも強く受け継いでいた男。
その容態悪化は、政権内の力の均衡を根底から揺るがす事態だった。
家康は見舞いに金沢屋敷を訪れた。
病床に横たわる利家の傍らには、息子・利長が静かに控えている。
「利家殿、見舞いに参った」
「……参られたか、家康殿」
EDO『前田利家ー何か仕掛けてくる可能性アリ。危険・要注意‼︎』
虚ろな目を見開き、利家は枕元に置いていた懐刀に手を伸ばす。
その動きは、病人のものとは思えぬ鋭さだった。
「貴殿が、政を壟断するなど……秀吉公への裏切りだ……!」
「父上! おやめくださいますよう!!」
利長が飛び込み、父の手を押さえ込む。
刀の刃先はわずかに家康の袖をかすめたが、家康は動じなかった。
「利家殿、わしが何をなしたというのだ。泰平のため、政の乱れを正すがため──」
「口先だけの平和を語るな……! この目で見てきたのだ……
あの男がどれほどの苦労を背負っていたかを……」
利家の目に涙が浮かび、やがて体が力なく崩れる。
EDO『心拍数急上昇──停止。死亡確認──前田利家、逝去。』
家康は黙って立ち上がり、一礼して部屋を去った。
「泰平の道とは、かくも険しいものか……」
その背に、利長の複雑な視線が注がれていた。
こうして、家康の前に立ちふさがる最後の大老も消え、 豊臣政権の命運は、風前の灯火となっていく──。