第18話:裏切りの刻──鉄砲の火、松尾山を照らす
慶長5年9月15日──関ヶ原
戦いは、すでに数時間におよんでいた。
西軍は数において勝っていながらも、南宮山の諸将が動かず、戦場は膠着状態にあった。
東軍本陣の家康は、霧の向こう、松尾山に目をやっていた。
そこには、かつて秀吉の養子として将来を託された若武者、小早川秀秋が布陣していた。
「いまだ……動かぬか」
家康は、重く沈んだ声で呟いた。
EDOが進言し、入念に計画した裏切り。
秀秋にはすでに密書が届き、報酬と見返りを確約されていた。
だが、松尾山の兵は沈黙を保ち、動こうとしなかった。
(せがれめ……計られたか……!)
家康の眉間に深い皺が刻まれる。
苛立ちが募るなか、彼はついに決断した。
「松尾山へ、鉄砲を撃ち込め──」
本多忠勝の号令で、山頂へ向けて火蓋が切られた。
銃声が山に響き、白煙が立ち上る。
問鉄砲──
東軍からの最終通告である。
その刹那、松尾山が動いた。
「……やるしか、ないか……!」
小早川秀秋の顔には、決断の苦悩が浮かんでいた。
家康からの圧力。秀吉の遺志。
武家としての誇り。そして、自らの保身。
幾重にも絡み合う葛藤の末、ついに彼は、刀を抜いた。
「全軍、突撃──!!」
松尾山の草をかき分け、小早川軍一万五千が突如として山を駆け下る。
その眼下には──味方であるはずの大谷吉継の陣が広がっていた。
「秀秋、貴様……!」
裏切りに気づいた大谷は、即座に迎撃の命を下すが、
背後を衝かれた形となった西軍の布陣は一気に乱れた。
追い打ちをかけるように、脇坂安治、小川祐忠、赤座直保、朽木元綱らが、
いずれも裏切り、東軍側として攻めかかった。
「まさか、そなたらまで……!」
大谷の声が、戦場にかき消されていく。
忠義を貫くその姿は壮絶だったが、数の前に敗れ、やがて討たれた。
西軍の要、智将・大谷吉継の陣の崩壊は、まさに“死線”を決める瞬間であった。
松尾山から崩れ落ちた裏切りの鉄槌は、瞬く間に関ヶ原を制し、西軍全体を呑み込んでいく。
EDO『松尾山、攻略完了。三成勢、士気低下70%。敗走ルート:南西方面──崩壊開始。』
家康はEDOの報告を受けると、静かに、しかし確かな確信を込めて呟いた。
「これで……勝ったな」
その目の奥には、ただ戦の勝利だけでなく、
徳川による“新たな世”の始まりが、確かに映っていた。




