表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

第6話 遺跡アゲイン

 俺がスライムになっていたあの話、俺の書いていた小説が舞台だったと知らされ軽い目眩と羞恥心に体が震える。


 まさか、あの体験の全てが擬似体験だったと?

 それにしては遥かに当時の俺の設定を超えていた気がするんだけど。


 実は俺がオーガに殺られてロストしたことであの駄女神が責任を取らされ、弁償として俺をここに連れ戻したってストーリーの方が現実味を感じるのだ。


「ここではお前の頭の中は筒抜けだ。

 下手に詮索して神の機嫌を損なうのはやめた方が良いとアドバイスをしておこうか」


 それ、アドバイスじゃなくて脅しだよ。


「人間のくせに平気な顔して神に悪態付けるとはな。近年お前の国のやつらの質がかなり変わったのは知っている。

 何がお・も・て・な・しだ?

 それって裏しかねえって意味だろ。しかも最後に合掌してんのはどう言う意味だ?

 残念でしたね、神に祈れって意思表示か?」


 あのさ……それももう何年も昔のことで知らない人も増えてきてるから、ネタとしてどうなんだ?

 今でも動画で見られるけど、背景を知らない若い人には理解出来ないかも。


「知らんなら調べりゃ出てくる。何も問題は無い。ネットに上げれば完全消滅なんてありえないしな」

「開き直りか。さすがヤクザの神様、地球の文化に詳し過ぎる。

 ……で、まぁこうして転生の間に呼び戻したってのは?

 まだ本題があるんだろ?」


 ここで胸ポケットから葉巻を、と思えば電子タバコを取り出したヤクザーノ神。

 どう突っ込んだら正解なんだ?


「転生させた人間がそう簡単に死なれては困る。

 そもそもスライムになって喜ぶとか、お前の頭の造りはどうなっている?

 俺は今すぐお前を解剖してやりたい気分だと理解してから発言するように」


 むせることなく水蒸気を吐き出し、味が薄いと文句を付けるヤクザの神様。

 見た目ややってることはこんなのでも、確かにその気になれば俺の命なんて指一本でどうとでも出来るんだろう、腹立つなぁ。


「いまいち危機感が足りていないがするが、そんなんだから上も保護に動いたのかもな。

 普通なら神を敬うことを知らぬ者には不敬罪を適用するくせして、ネタを提供出来るタマには甘いんだ」

「そちらの事情はともかく、物騒なのはお腹いっぱいなんで、そろそろあの世に行かせてもらえます?」


 あの駄女神が担当でないなら、次はちゃんとした異世界転生が出来るのかも知れないが。

 またおかしな転生をさせられそうな気配があるので、それなら転生しなくても良いと思う。


 それにネタって何だよ?

 俺は神様相手の芸人とは違うんだって。


「ところで、ミッシルと再会したいとは思わんか」


 俺の理想の彼女を妄想して書いたのがミッシルさんだ。だからあんなに俺を好きでいてくれたわけだな。


「自分がそんなに痛い子のつもりはない。

 自分の作ったキャラと一度会えたのは嬉しいけど、何と言うか、最終的にはコレジャナイ感出てきて別れる未来が予想出来るから、もう会わない方が良いと思う。

 遠くからたまに元気な姿を見ることが出来ればってぐらいでちょうど良いだろうな」

「ふん、つまらんな。こっちとしてはその別れるシナリオの先を見たかったのだがな」


 神様、めっちゃ趣味が悪いですよ。


「お前がエタらせた世界があるようにな、どうも最近の若い神々にもそう言う傾向があってな、少々世界問題になってんだが」

「社会をあっさり通り越すとは、スケールのデカイ問題だな」

「そう言うチャチャチャは入れんで良い」

「茶々の間違いだ、と言わせたいんだろ?

 案外神様も暇なんだな」

「二階級降格のお陰で随分暇な時間が出来てな……………………」


 ヤクザ神のくせに何か突っ込み期待してる?


「あん? てめぇ、マジで一回バラしてやるか?」

「あ、それはさすがにノーサンキューで。

 神様にも、そう言うランクがあって大変なんですね。降格の理由は、あの駄女神の不始末?」


 仕方なく付き合うと、意外と分かりやすい表情で喜んだようだがそれも一瞬。

 すぐにキリリ……まだ目元が完璧ではないが、元のヤクザ顔に戻るヤクザーノ。そのうちこの人の担当課長にでも任命されそう。


「そんな役職はねぇよ。何なら試し蹴りにも使える担当砂袋ってポジなら作ってやらんでもない」

「サンドバッグなら謹んで却下の方向で是非」

「なら余計なことは言うな、考えるな。ゴホン。

 で、だな、中途半端に造られた世界と言えど、エタッてもその世界は続いているのは理解出来るな?」


 単に投稿小説で済めば良いのに、それを元にした世界を作るってことを先に禁止しろよ、ってのは今考えることじゃないのかな?


「良く解らないけど、世界を作ればそこに暮らす人間が住み続けるってことだね」

「お前のミッシルさんとやらがあの後どうなったか、あの馬車に乗っていた親子は何だったのだ?ってところは読者の想像にお任せってのがお前の気持ちだったんだろうが、中にはそれじゃ納得出来ん馬鹿な神も居る。

 勿論星の数より多いエタり作品の全てが対象になる訳じゃないが、作者は責任を持つべきとは思わぬか?」


 たかだか素人投稿に何求めてんだよ?

 商用小説のプロ作家が投稿してたってんならまだしも、アマチュア嘗めんなってんだ。


「嘗めてはいないが、そう言う訳で行ってくれ」


 それで納得出来るとか思うなよ。


「お前が納得する必要は無い。行くか、喜んだ行くか、の違いだけだ。

 ところであの遺跡をお前は何故探索しなかった?

 普通なら外に出る前に探索して、何かキーアイテムを見つけたり古代文明に触れるのがお約束だ。


 実際、あの奥にお前に人の体を与えるギミックをだな、ローンまで組んで結構な神力を消費して作ったって言うのに、出番が無かったので丸々大損だ」


 ププッ、そうかそうか、損した分の回収にどうしてもスライムな俺をあの遺跡に潜らせたいから俺をここに呼び寄せたってことなんだ。

 ホント、せっこい神様だな。だから葉巻から電子加熱式に乗り換えたのか。


「あん? 俺の神生を歪めといて何笑ってやがる?」

「歪めたのは駄女神だろ!

 てか、元凶のアイツなんで居ないんだ?」

「反省文を書かせたら、途中から俺らの悪口書いてやがったから堕天させたんだが何か文句あんのか?」

「いえ、パーフェクトな対応に存じますです!」


 短刀ちらつかせる神様なんて反則っ!


 それにしても、どうしてあんなのが転生担当の女神やってたんだか。

 神材不足? それはないか、神様はたくさん居るって感じのことを言ってたし。


「単に見た目と受け狙いだ。

 能力ならどんなポンコツ神にもあるから誰がやってもそう変わらん……筈なんだが……最近の若い連中は勉強もせず配信動画ばっかり見てやがるからな。

 中には背信動画を流す専門チャンネルを開くアホまで出る始末だ」


 なんだかなぁ……上手いこと言ってニヤリで済めば笑い話だけど、神様の世界も荒れてるって訳だ。

 確かに神話でも神様同士でドンパチやってるもんね、きっと今からそう言う時期に入るんだろう。


「こっちの事情に気遣いせんで良い。

 納得したら、お前はサッサとあの世界の続きの物語を作りに行ってくれば良い」

「なら納得できてないんで無理」

「なら、とは何だ? 鹿の公園のある地域か?

 俺はキョート派だ。ちなみに鹿は何でも食うが、安易に人間の食い物の味を教えちゃいかん」


 熊とかも、人里に降りてきて残飯あさって味を覚えたら、何度でも降りてくるようになるって話だから……てさ、鹿とか熊とか今は関係無いけど。


「てな訳で。ホイ、ちょっくら行ってこい」

「お使いじゃないからそんな気軽に言うなーっ!」


 そう抗議した時には俺の足元には何もなく、真っ逆さまに落ち始めていた。


「まぁな、ある意味これも神の遣いだな」


 柄にもなく下らないことを言ったもんだと気に入らない様子で、ヤクザーノは旨くもない煙を吸い込むのだった。



 気が付くと全方位を視界に納めるハイパースペックな体だった……あのヤクザめ、マジでスライムに転生させて遺跡に飛ばしやがったな。


 ここが俺の考えた設定を踏襲しているなら、推定約三千年、この遺跡は地下マグマから上がってくる魔粒子をエネルギーとして最低限の機能を維持しつつ俺の帰りを待っているのだ。


 そして、この奥には滅びた筈の超科学文明時代のヤバいヤツがゴロゴロしている。

 例えて言うなら、ロボットアニメで最終回近くに主人公機が大破して、代わりに新しい機体がロールアウトされて無双するって感じのね。


 けど、そこは俺だってホイホイ気軽にその機体に辿り着けるような設定なんて用意していなくて、俺が何度か死線を潜り抜けてやっとの思いで到着するってハラハラドキドキを用意してる……誰だょ、今鼻で笑ったの?


 取り敢えず、転生仕立ての俺がそこまで行ける仕様じゃないからね。

 なんかヤクザ神が借金して怪しい装置を置いたとか何とか言ってた気がするが、この世界では俺はスライムとして生きていくって羊羮並みの固さの決意を持ってるからね。


 単にミッシルさんとお風呂に入りたいだけだろうって?

 失敬な。そんなつもりがたくさんある訳ないだろ?

 そりゃ、男に生まれてたから興味があって当然なんだし。


「アンタ、やっぱりキモイわね」


 またまた失敬な。

 そんなハッキリ聞こえるように言わなくてもいいだろうが!


 ……はい? さっきのはクッキリ聞こえるタイプの幻聴ですかね?

 おかしい。耳元スピーカーなんて持ってないんだけど。


 すうっと何かが隠形の業を使っていたのを解除したかのように、前方に小さな人間が姿を現した。


「あーーっ! 元駄女神じゃん、とか言ったらソッコーでバラすからね!」


 残念でした、クチには出せない仕様ですよ~っだ。


「馬鹿なスライムネタは時代遅れって知ってる?

 それにどう足掻いても大人気作家の足元にも及ばないって自覚してんでしょ」


 嫌な精神攻撃してくるヤツだな。見た目は超美少女なのに最悪だぜ。


「アンタのせいで天界から堕とされたんだから責任取ってくれるわよね?」


 それはお前が反省文にヤクザ神の悪口書いたのが原因だから、俺は無罪なんだけど。

 それにそもそも間違って俺を殺したのが一番の原因ってこと、完璧に置き去りにしてどうすんだ。三歩進んだら全部忘れるほどのロースペックか?


「事実を書いて断罪されるなんておかしいでしょうがっ!

 パパに全部揉み消して貰おうと思ったら、先回りして諜報部を動員してたって性格悪過ぎなんだから!」


 あ、コイツ完全にアウトだわ。

 あのヤクザ神がこれを見過ごす訳が無い。


 ドスン、ドスン……


 遺跡の奥から何か巨体がゆっくりとやってくる。


「スラキチっ! アイツを倒しなさい!

 今ならアンタも主人公補正で何とかなるから!」


 さすがに無理だし、出来たとしてもやる気にもならん。


 大きなコドモドラゴンのような……コモドドラゴンのような魔物が俺達の前に姿を現すと突然魔力を纏った咆哮を放つ。

 ボリューム調整のされていない破壊音波が俺の聴覚センサーを完全に機能不全に陥れると、俺は完全に目を回す。


「ちっ! やれるもんならやってみなさいっ!」


 そう啖呵を切るが元駄女神の膝はガクガク。

 あっという間にヤクザ神のシモベドラゴンにパクり、悲鳴をあげながらバキバキと無残な音を残して腹の中へと消えていった。


 そのシモベドラゴンはスライムには用は無いとばかりに元来た道を進みだし、すぐにキラキラと光ながら消えていったのだが、その時の俺は気を失っていたので一切記憶に無い。

 少々後になってから、駄女神は恐らく神の世界の流儀で始末されたのだろうと勝手に結論を付けておく。


 そんなことはぶっちゃけどうでも良い。

 問題はだな、死んだ筈の俺がまたライムグリーンのスライムとなって復活させられたことだ。

 オーガ襲撃事件からどれだけの時間が過ぎた現場に落とされたのか全く分からない。


 これが親切な神様なら、画面の隅にでも時刻なんかも表示してくれるんだろうが……ここはステータス画面なんて無い世界。

 ましてやヤクザ神に親切心を求めるのは大間違いだ。


 ここで俺が採用できる選択肢は大きく二つ。遺跡の奥に進むか、それとも森に出るか、だ。

 最深部に眠るチート級のアレコレはさすがに取りに行けないが、その手前にもそれなりに役立つ物はあると思う。

 でもヤクザ神の用意したギミックがいつどこで発動するか解らないから、奥に行く選択肢は無いか。


 いや、待てよ。そう言う情報を与えておけば俺の性格からして奥には行かないと知ってて、わざと情報を流したのかも知れないな。

 いやいや、そのギミックの話自体が嘘って可能性もあるじゃないか。


 感じてる場合じゃない、考えろ!


 ポクポクポク……プシュー……


 駄目だ、判断材料が何も無いんだからどう考えても無駄に過ぎない。

 下手したらこんなことまであろうかと、何て言いながら平気な顔して追加対策を取られるかも知れないし。


 結局はお釈迦様の掌の上で転がされている半猿半人と同じなんだ。

 違うのは、有難いお経だってネットにアップされてんだから遠くまで歩いて取りに行く必要も無い世界から来てるっことだけか。 


 どうせ転がされるなら結局のところ猿人間と同じだろうって?

 そんな訳が無い、余計な知識がある分、精神的負担が限りなくデカクなってんだからねっ!


 はぁ、なんかスマン。少々取り乱していたみたいだな。


 けど、あの駄女神を排除してくれたのは助かるわ。

 これから先もずっとアイツの声を聞くしかない、って想像するだけで鳥肌立つとこだったしさ。


 やり方はもう少し穏便にして欲しかった、と思わせないところがヤクザ神のしょうもないこだわりであるのだが、意識を失くしたせいで現場を見ていなかった俺だからそのことを気が付く訳も無い。


 それで、最終解答はどっちにしよう。


 未だ決めきれない俺の耳に、

「あー、可愛かったーっ!」

と楽しそうな女性の声が聞こえて来たのは遺跡の奥の方向からであった。


 誰か来てたのか?

 探索隊にしては遊びに来ていそうな雰囲気だし、俺は混乱度合いを深めて眉を寄せる訓練をするのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ