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第14話 ラストアタックは乙女の拳

「ふん、死んでしまうとは情けないな」


 うるせぇって!

 それにまたヤクザ神に呼ばれたのかよ。


「アンタってマジ暇神?」

「二階級降格のお陰でな、と前に言ったが忘れたか?」

「勿論! てか、さっきの知ってるセリフだぞ」

「多少のアレンジはしたつもりだがな。

 神界の一度言ってみたいセリフランキングの常連だからな」


 確か神様達もアニメとかゲームに精通してんですよね~。ちゃんと金払ってんだろうな?


「……………………勿論」

「嘘つくなっ! お巡りサーン! この人、違法コピーで楽しんでますよっ!」

「知るかボケッ!

 つうかよ、お前なぁ、さっさと人間になれや。

 いつまでスライムで遊ぶつもりだ?」


 そんなこと言われても。スライムのままでもなかなか面白い生活を送れてるし、しがらみの多い人間になる必要性って無くない?


「人の魂を持つスライムなんて、異世界のバランスブレーカーで迷惑してんだよ!

 そりゃ最初にスライムにしやがったのはダメーノだが、俺が自腹切って救済措置用のギミックを仕掛けてやったってのに、どうして遺跡の奥に行かないんだよ?」


 あの駄女神、名前までダメだったのか。酷いに程がある名前だな。

 

「んな訳あるか。堕天させた時に付け替えてやったんだ。

 元の神名を残したままで堕とす訳が無いだろ」


 そんな神様の世界の設定なんて知らないって。


「んでだ……。さっきは死んだと言ったが、それは嘘だ。

 ……お前はまだ死んでいない」


 声色まで変えて、一子相伝の暗殺拳の使い手みたいな言い方するなよ。

 さっきまでそこのモニターでアタタタタッ!のアニメを見てたんだろ?

 契約してるのはネタフリか? それとも……あ、神様がまともに契約してる訳がないよね。


「お巡りさーんっ! この人っ」

「そのネタはもうやめろっ! しつこいぞ!」

「さーせん」

「……ゴホン。

 だが、あのまま時間を進めれば確実に死ぬ。

 そうなると俺でも復活させることは出来ん」


 ヤクザ神の顔が微妙に引き攣っているがスルーしよう。

 それより勿体振った言い方をしてせるってことは、何か俺が生き延びる方法があるってことだよな?


「その通りだ。だがお前の替わりにダッシュが死ぬ。

 核の中身をすり替えるからだ」


 サイズが同じで能力が違うだけ、しかも簡単な構造の存在だから、そう言うことが可能なのか?


「そうだ。こればっかりはお前がスライムだからこそ可能な抜け道だ。

 まさか、こうなることを予想してスライムを続けていたってことはないだろうが」


 いいえ、そのまさかですょ。俺の予知能力がそうしろと……


「生きるか死ぬか、三秒で決めろ。今ので一気に機嫌が悪くなった」


 ひでぇ!コイツ、やっぱり横暴だーっ!

 あ……三秒過ぎた!


「答えなかったので俺の裁量で送り返す。

 異論は認めん。

 もうここに来ることはないと思うが、次来る時は手土産の一つでも用意しろ」


 それってまた呼ぶってのと同じじゃないですか?

 それに手土産ってどうやったら持って来れるんだよ。


 俺の疑問には答えずヤクザ神は気取って指パッチンをしたが、スカって鳴らなかったと足元から落ちながら確認したからな。


「ちっ! 次は見られないように頭から消してやる!」


 だから、もうここには呼ぶなって!



 気が付いた時にはミッシルさんの膝の上だった。

 俺が特務機関で必死こいでた間、ダッシュはずっと撫でて貰ってたのか? 羨ましい!


 おっと、そんなことを言っている場合じゃない。急いで研究室に向かわなきゃ。

 今から行って何が出来るか分からないけど、俺の半身をくれてやるんだから……だから何だろ?


 あのまま赤服狂の好きにさせたままで良いとは思えないが、俺が行っても解決には繋らないと思うが。

 いや、あの叔母さんが殺されるって言ってたから、それを阻止するだけでも価値がある!

 叔母さん自体に価値は無いと思うけど。


 よし、そうと決まれば移動開始!


「ダッシュ? ん? ラグ……あれ?」


 戸惑いを見せるミッシルさんを残して窓から飛び降りる。二階から降りても平気なこの体に感謝だよ。


「スライムがまた逃げたぞ!」


 独身寮の周りを見張っていた悪の手先の一人が俺を見付けたが、たかがスライムだと鼻で笑って見逃してくれた。


 それから全力で特務機関の建物に向かい、前より強化されていた警備員の警戒網を強硬突破して壁を飛び越え敷地内に潜入する。


 独身寮の警備員と違って俺を殺そうと剣を向けるのは、中で起きたことが伝わっているからか?

 だが悪いが今の俺は手加減するつもりはない。恨むなら金属鎧を支給しなかった上司を恨め。


 過去一番と言っても良い反応速度で剣の攻撃を掻い潜り、反則を取られても構わないと下腹部辺りに頭突きを咬ます。これで一人抜き。

 だが、門の外に居た連中がわらわらと駆け付けて来るし、敷地内にも抜剣した連中が居るようだ。

 このまま見つからずにミッシルさんの研究室に辿り着くのは不可能ぽい。


 ならばやはり叔母さんの方を優先しよう。

 偉い人の部屋の位置だって、いつも散歩していたから把握している。

 情けはスラの為ならずってことになりそうだな。


 さっと階段を飛び越え、単発で出てくる警備員を問答無用でボコり倒す。

 三人組とか、強そうな奴だと勝ち目は無いと思うので、少々処理能力に負担が掛かるがセンサー機能をマックスにして体から色を無くしてやり過ごす。

 完全に見えなくなるわけではないが、目立つライムグリーンだと思い込んでいる奴等は簡単に俺を見落とし通りすぎて行った。


 そして一番上の叔母さんの部屋だ。

 臭覚情報で化粧の匂いを判断しているので間違っていないと断言出来る。


 だが扉を開けようとしても開かない。鍵を掛けていきやがったか。

 ドアの隙間から何か燃える匂いがしてきて、実はもう手遅れかもと思ったのだが、諦めたらここで作戦終了だ。


 ドアにぶつかれば物音で警備員がやって来る。それなら……スライムには木材なんて食料です!

 俺がドアを食い破って中に入るのが先か、それとも叔母さんが……余計なことは考えたら駄目!

 旨いドッグフードの味を連想して涎ならぬスライム溶解液を分泌してドアに穴を開けていく。

 修理代はミッシルさん宛で!


 間に合え!間に合え!


 そう、願いながら開いた穴から中に入ると、散らかった羊皮紙やらなにやらに火を付けて行ったらしい。


 幸い火力が弱かったのか、それとも耐火性の強い素材だったのか分からないが、叔母さんの体はまだそれ程燃えてはいなかった。

 意識が無いのは殴られて気絶したか、毒を飲まされたか。


 石造りの建物では中の物は燃えるだろうが、建物全体に延焼することは無いと思う。窓は閉めてあって救出が遅れれば蒸し焼きになったか酸欠になるか。


 少々熱いが可燃物を叔母さんから遠ざける。

 水分の多いこの体は燃えにくいのだと思いだし、ジャンプ一番、火を消しに掛かる。

 ついでに窓から煙が出るように可燃物は窓の方に押しやっておこう。

 とりあえず、これで叔母さんの命は救えたかな。


 あと俺に出来ることは何がある?

 赤服狂のおやじの息の根を止めてやりたいが、恐らく治療に連れて行かれただろう。


 お、窓から煙が出ているのを見付けて、別の所から警備員以外の人が駆け付けて来たみたい。

 何やら通せ、通さない、と警備員達と押し問答があったみたいだが、権力的に上なのか敷地内に入ってきた。

 一人はやたら光を反射している金属鎧を着ているようだ。きっと隊長格なのだろう。


 それから暫くして、

「ウェメトリー長官殿! ご無事ですか!」

とドアを叩きながら声がした。


「残念ながら、長官殿は責任を取って自害すると申しておりました」


 ここに来る途中でやり過ごした、ちょっと強そうな人が救助に来た人にそう説明する。

 下手人は居なくて、自害したってことにしたい訳か。


「内側から鍵を掛けているのか。仕方ない、壊すか」


 そう言うとガンガンと何かをドアにぶつける音が響く。そしてバキッと剣先がドアから生えてびびった。だってまだ俺は部屋の中、叔母さんの側に居たからね。


 ニュッと手が入ってきて、内鍵を外して中に入ってくる救助隊員。くっそ、無駄にイケメンだった。


「一つ確認しておくが、ここに連れて来たレーガー卿、シュタック卿の配下はそこの廊下に並んでもらった十八名で全員か?」

「はぁ? そうですが……レーガー卿だけはミッシルのスライムに負傷させられて医院に搬入しており……」


 そこでグリーンスライムの姿に戻っている俺を目にして驚くシュタック卿。


 特務機関の周囲には城から来たのか、鎧を着た兵士達がずらりと並ぶ。

 誰も逃さないと言う心積もりなのか、それともこのイケメンの護衛なのか。


「ふむ、この部屋で火を付けたのはウェメトリー長官自らだな?」

「ええ、状況からしてその通りかと」


 何を当たり前のことを?と、シュタック卿の顔が少々不思議そうな表情になる。


「余にもそう見える」


 その質問に特に意味が無いと言う素振りを見せた、自称、余の人が叔母さんの机の引き出しを開けていく。そして首を傾げる。


「おかしい。鍵が足りない。誰かが持ち出したようだな」

とシュタック卿を睨むと、睨まれた本人は一瞬胸ポケットでも見ようとしたのか頭を下ろし掛けたが、すぐに視線を床に固定した。


「趣味じゃないが、お前らの身体検査をさせて貰おうか。勿論断らないな?

 断りゃ……」


 シャキッと音を立てて首筋に剣を当てられたシュタック卿が冷や汗を垂らす。


「ちょ、吐けよ」


 ぁい? 何すか、その間抜けたセリフは?

 何かのドラマでも見てから来たの?


「王子、何故?」


 俺も何でそのセリフを知っているのか聞きたいよ……て、その前にこのイケメンって王子?


「あん? 俺がここの鍵の数なんか知るか」


 そっちは答えなくても良いからっ!

 ちょ、の方を教えろよ!


「ではどうして私がと?」

「この部屋の書類は不燃処理が施してあって、燃えにくいんだよ。

 なのに煙が上がるってことは、知らない誰かが火を付けたってことになる。

 つまりだ、てめえは自分で自分に火を付けたって訳だ。

 それにな、ここの出来がお前らとは違うのさ」


 自分の頭をトントンと指で突く仕草がイケメンすぎる。


「他にも理由はある。

 俺の愛しのミッシルちゃんの研究室に俺の断り無く侵入したお前らはな、それだけで死罪確定なんだよ!

 死んで詫び入れろ!」


 異議ありっ!

 お前が王子であっても、ミッシルさんはお前みたいなイケメンには渡さんっ!


「女中の名前を無断で借りてミッシルちゃんと文通をしてたって言うのに、身辺に不穏な空気ありって書かれてヒヤヒヤしたぜ」


 王子よ、まずはその女中に謝っとこうな。


「スライムに関する研究の進捗を聞くのが俺の一番の楽しみだったのに!

 それをつまらん理由で邪魔しやがって!

 理由を吐けっ!」


 なんか言ってること、めちゃくちゃだよね。


「お前が噂のラグムか。ミッシルちゃんと一緒に風呂に入る仲とか……」


 王子! 頼むからどす黒いもん出さないで!


 てか、俺を抱き潰したらミッシルさんが悲しむから!

 てか、危ない! 後ろっ!


「隙ありっ!」


 思わず俺を抱いた王子を横方向にはね除け、剣の前に飛び出した。


 王子、最後までちゃんとしないと斬られるからね……


 核を斬られるのは避けたものの、体の三分の一を失った。くそ、良い腕してやがる。

 慌てて皮を伸ばしてスライム液と核を保護し、辛うじて即死は免れたがこのダメージだと暫くまともに動けないな。


 王子の方だが、俺に横に撥ね飛ばされて斬り付けられた剣を回避、そこから素早く抜いた剣がシュタック卿の腕を切り落とした。


「助けてもらわなくても、無断で持ち出した国宝バンタイガーなら魔剣でもない限り、斬られることはなかったんだが」


 国宝かよ。道理でギンギラギンの悪趣味な訳だ……無断で持ち出して問題ないのか?


「聞いて驚け、この鎧の能力は……」


 そこからの話が長いから全部カット!



 レーガー卿、シュタック卿の悪事は道楽王子の活躍により見事打ち砕かれた。

 お陰ですぐに特務機関にも日常が戻る……訳では無かった。


 魔力スポットの変化を正常に戻さなければ、消費しきれない魔粒子が蓄積し、この辺りに住む生物に悪影響を及ぼす可能性ありと結論が出たのである。


 この未曾有の危機に対処すべく特務機関はフル動員で解決策を模索するのだが、人知を越える現象故に有効な手段が打ち出せない日々が続く。


 黒油のように上に土砂を被せたところで魔粒子を遮ることは出来ず。

 魔粒子を消費して作動する魔具を設置することで、全体量からしてほんの僅かだけを消費することで今は凌いでいる。


「私達じゃ居ても役に立たないんだけど」


 スライム研究のミッシルさんが魔力スポットに来ていても確かにって気がする。


「そう言えば、ラグムって斬られて百グラムも減ってたのに、もう回復したんだね」


 ダッシュを失ったショックはまだ完全には癒えていないのか、俺をずっと離さないミッシルさん。

 俺も嬉しいけどね。


「魔粒子が回復を早めたのかな?」


 どうなんだろうね?

 確かに元の体型に戻るのにもっと時間が掛かると思ってたけど、意外と治るの早かった。

 魔粒子には治療促進効果を……蛋白質とかの生成を早める効果か、自然治癒力を高める効果があるのかも。


 ポトンと地面に降りて、ノソリと魔力スポットの方に足を踏み出す。

 中心に進むに連れて、何となく温かい気が流れていて全身の血流がスムーズになっていくような気がする。


「ラグムっ!ストップ!」


 戻って来てとお願いされているようだが、今の俺は何かに取り付かれたように魔力スポットの中心に向かって進む。


 全身を大量の魔粒子が素通りしていく感じは、まるでシャワーを浴びているような感覚に思える。


 足元に広がる地面からエネルギーが体内に流れ込み、もう訳の分からない快感のようなものを時間を忘れて楽しんでいた。


 ふと気が付き、手を顔に当ててみる。


 ポン、と不思議な触感が手を伝う。


「指のある触手が生えた?」


 そんな訳あるか?と暫く自問自答するが、ようやく答えが出たところでミッシルさんの方を向いて手を振った!


「ミッシルさーん! 俺、人間になった!」


 地面から噴出していた大量の魔粒子だが、いつの間にかほとんど感じないそこら辺と同じレベルに戻っていた。

 ひょっとしたら、ここがヤクザ神の言ってたギミックって言うことか?

 あの野郎、勝手に人を人間に戻しやがって!

 次にあったら文句を言わなきゃ。


「ミッシルさーん!」


 彼女が笑顔で向かえてくれると思ったら、

「この変態めっ!!!!」

と突然顔面に彼女の右ストレートを浴びたのだった。


 なんでだよっ!

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― 新着の感想 ―
 エタる事無く連載小説を完遂させる事は、大変な事だったと思います。  主人公と神々のダメーノとヤクザーノとのコントが面白かったです。  スライム主人公と研究者の相棒って、相性が良いんですね。  最後の…
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