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第1話 担当はめんどくさい女神だった

2話分の長さですが、キリの良いところまでで一話にしています。

セリフが長い箇所は、わざとです。

「まことに申し訳ありませんでした!」


 真っ白な空間に突如移動した俺の目の前には、フヨフヨと宙に浮きながら器用に土下座をしている誰かが居た。


「あの、そう言うの対応に困るので普通に頼みます」


 正直、頭が混乱していたのだがそれもすぐに回復する。

 さっきまで居た自分の部屋から一瞬にしてこの真っ白な空間に移動したって言うこの状況、ほぼ間違いなく噂に聞く転生前のアレだよね?


 フライング土下座を決めている神様ぽい人が何かミスをやらかして、俺は死ぬ予定が無かったのにポックリと。

 それで生き返ることは出来ないから、どこか別の世界に転生させてもらおうと交渉するシーンが今から始まるわけだ。


「……さすが彼女も作らず、ラノベを書いたり相当読み込んでおられるだけあって理解が早くて助かります」


 音も立てずに土下座から普通の立ち姿に戻ったのは、絵画の中でしか見ることの無いような超絶美女の女神様。

 ギリシャ神話の中から飛び出してきたような美しさに目を奪われ、微かに漂う甘い香りが俺の思考力を低下させ……ムムムっ!


 間違って人を殺すような駄女神なんかの思い通りになってたまるかって!


 大チョンボで俺の人生を終わらせた女神に良いようにされるつもりは微塵もない。精神力をかき集めて鈍る思考を活性化させていく。

 恐らくコイツ、こうやって有耶無耶の内に自分の有利な条件で転生させようって目論みに違いない。


「この女神の上司の神様っ!

 この人、転生の交渉でズルしようとしてますよっ!」


 聞こえているか分からないが、上の方に頭を向けてそう大声で叫んでみた。


「あわわわっ! そんな訳ないじゃないっ!

 ヘリを落とす位置を少し間違えたのは悪かったけど、たったの六十年ほど寿命が減ったぐらい、大した問題じゃないんだから!」


 六十年が大した問題じゃない……いや、それはお前が神様と人間で時間軸が大きくズレてるってことが理解出来ていないだけだろ。


「それに上司は出張してるから大丈夫!

 悪いようにしないから転生の話しようよ」


 彼女がバチンとウィンクして、人差し指で目の前の空中を軽く突く。するとそこに五十インチぐらいの薄緑色の透明な画面が現れた。


「間違えて俺を殺したことに対する謝罪をするつもりは無いと?」

「だから、たったの六十年ぐらいでグチグチ言わない。

 だからアナタ、三十過ぎても彼女の一人も出来なかったのよ」


 どこから取り出したのか、メモ帳をめくってニヤリ。きっとそこにはどうでも良いような俺の情報が記載されているのだろう。


 死んでしまったのはショックと言えばそうだけど、何故か俺は錯乱するでもなく。

 ひょっとして、この駄女神が俺の精神に何か作用させているのかも知れないな。


 でもまぁなんだよね、軽く腕を組んで僅かに考えてみたが、自宅のボロアパートと勤め先を往復するだけの人生を続けること既に十年。

 惰性で消耗していくだけの人生を楽しめていたかと言うと、残念なことにイエスではない。

 むしろ個人的にも世界的にも、明るい未来が全く想像出来ないことを悲観していたのは間違いない。


「……まぁ、こちらの条件さえ飲んでくれるなら転生するのはやぶさかではない」

「でしょっ!

 しょうもない人生に執着してる人には絶体当てない私のコントロール、さすが超一流なのよ!」


 だからと言って自慢げにVサインされても。少しは自分のミスを詫びる謙虚さとか持って欲しいが今さら遅いだろう。

 恐らく年に数件、コイツは同じように誰かを異世界送りしてても不思議じゃなさそう。


「そんなことないよ!

 だって私、昨日この部署に配属されたんだから」

「勝手に人の思考を読み取るなよ……って言っても無駄なんだろうけどさ。

 まぁ良い。で、転生先のことだが」

「それなら好きな世界を選ばせてあげる!

 ジュラ紀、白亜紀、五代亜紀、インダスとかエジプト文明、江戸時代とか宇宙戦争真っ只中のSFの世界とかお勧めよ」


 なんか知らないけど、随分と選択肢が片寄っていないか?

 それに五代亜紀って演歌歌手だし。バレないと思ってしれっとネタぶっこむな。


「あ、バレた?

 ちょっとしたジョーク。ジョークと言えば、ウチはパパの支援者が腐るほど食べ物くれるから主食は買ったこと無いの」

「え? そのネタ、時が経つと誰も分からなくなるから取り消して。それに今は米とか関係無いだろ。

 それより、もっと普通の転生先があるだろ」

「……アンタも例の投稿小説のアレやコレやに似たような世界で良いの?

 それなら設定集も充実してるから一番ラクで助かるわよ。それに説明も簡単だしね」


 アレコレそれじゃどの小説を指しているのか分からないが、薄緑色の画面にいつも見ていた投稿小説サイトが表示されたのを見て黙って頷く。


「それそれ。似たような小説も多いけど、そんなんで良いんだよ。やっぱり慣れ親しんだ世界が良い」

「いきなり追放されたりダンジョンに取り残されたりするのが良い?

 それとも剣も魔法も錬金術もハーレムも何でもアリのが良いのかな?

 こっちからすれば、そんなユルユル設定の話は見てて詰まらないんだけど」

「それはお前の好みの問題だろ。チート貰って何が悪い?

 戦闘経験の無い俺に何も無しで魔物とか盗賊とかと戦わせるつもり?

 そんなん秒で俺が死ぬぞ。転生させた奴がソッコー死んだら、お前が責任とらされるんじゃね?」

「それは困るのっ!」


 大きく手を振って否定する駄女神だ。


「とは言えだ。

 折角の機会だから幾つか教えてくれると助かる」

「ん? エッチね、乙女のスリーサイズも体重も駄目だからっ!」

「その幾つかじゃねえし、見た目だけのお前のに興味無いし」

「そっか、だてに三十過ぎても童貞じゃあね。もう達観してる訳だね……死にたいの? くそっ、ここじゃ人は殺せないっ!」

「うるせぇし。

 てか、本題に戻るけど、まず聞きたいのは、どうして転生先の候補が幾つも用意出来てるかだな」


 恐竜の生きている時代はハードな予感がするから除外するが、転生先が選べるのは嬉しいけど準備が良すぎるだろ?


「急に冷静になるヤツだわ。良いわ、私はスーパー天才転生ガールだからアンタの対応なんて御安い御用よ。ちっ!

 それはね、世界の神々が暇潰しに……仕事の為に最低でも一人が一つは世界を持っているからね」

「神の暇潰しにか。スケールでかいな。ちっ!、は聞いてないからな」

「………クソッ………神々の寿命ってとっても長いの知ってるよね?

 だから、やること無い時に世界を作って遊んでるのよ……あ、今のナシっ!」


 もう遅いって! 覆水盆に返らずってやつね。


「でね、世界を作って人間も作って、人間からの信仰を集めて悦に入る神も居れば、何年で人間が滅びるか賭けにしてる神も居るわ。

 人間ってのは神の思惑通りに動かないように出来ていて、見てて飽きないから」

「人間が神の意思に背くのは問題無いと?」

「勿論よ。だって神の言いなりになるようじゃ行動予測が可能だから、敢えてそうなるように創造された生物なのよ。

 あ、これは他の人には言わないでよ」


 転生してからの話だろうけど、そんなこと誰かに言っても信じて貰える訳がない。

 言うと逆に宗教関係者から白い目で見られそうだ。


「うんうん、そうかもね。じゃあ、次の秘密行こか。

 何故地球では魔法が使えなくて、異世界では使えるのかって?

 それはね」

「だから勝手に人の思考を読むなっての。いくら神でも俺に失礼だろ」


 悪びれる素振りも見せず、ブンブンと首を左右に振ると彼女の柔らかなブロンドヘアがふわりと舞い、そこからまた良い香りが漂い始める。


「この女神の上司の神様!

 この人、またズルしようとしてますっ!」

「あーっ! 何でコレが効かないのよっ!

 腹立つわねっ! アンタ鼻詰まってるの?

 なに? 慢性鼻炎だからって程があるでしょっ!」


 そんなの知るかっての。

 それより魔法の秘密をチャキチャキとゲロしろって。


「やな感じね。まぁ私は出来る見習い転生神だから大目に見たげるわよ。

 で、魔法が使えるのは何故かってことね」

「そう。俺の認識だと魔法を使うには空気中や体内の魔力とかマナとか魔素とかをエネルギーとして、それを掌に集めて魔法の名前を唱えると発動するんだけど、制御するのは人の脳ミソだよね?」


 小説や漫画によって多少の違いはあるが、魔法の発動は燃焼の三大要素に良く似ていると思う。

 と言うか、コイツさっき見習いと言ったよね?


「一つ大きな勘違いしているわね。

 どの世界も神の暇潰……管理下にあるわ。

 たまたまアンタの住んでた世界が魔法を使えない仕様になってるだけで、魔法が使えるとか使えないとかに特別な意味は存在しないから。

 でね、魔法が使える方が何かと人間にも神にも都合が良いし、閲覧数も稼ぎやすいの。空間魔法が最たるものよ。分かるでしょ?」


 たまたまかよ。外れの世界に住んでた気分になっちまう。

 それにしても都合とか随分ぶっちゃけた話だな。

 

「そうね、折角暇つ……管理してるんだから他の神にも見てもらいたいでしょ。

 閲覧数の多い世界を持つ神がチヤホヤされる傾向にあるから、見た目に派手な演出のしやすい魔法が重宝されてる訳よ」


 神がとんでもない俗物に思えて来た。それにこの人、見習いの話は完全に無視してら。


「ゴホン。

 で、魔法を使うには発現したい現象を正確に脳内イメージに落としこんで、それに応じた量の魔力、正確には魔力じゃなくて魔粒子って物質を現象に変換して発現トリガーを引けば良いから、アンタのイメージは正解に近いわ。

 その変換が出来るかどうかってのが、作品で言われるところの魔法適正。


 ……付いて来れてる? 説明中に寝ないでよ。


 で、アンタらの言う魔力、魔素、魔粒子は別に体内にある分じゃなくて他ので代用可能だから、量って実はそう大きな問題ではないのよね。

 代替エネルギーを使える手段があるならって前提だけど」


 なるほど、地球のサブカルチャーも中々馬鹿には出来ないってことだ。

 誰が魔法はイメージとか最初に言い出したのか知らないけど、魔法の真理に到達してたってのは凄いことだよ。


「ただね、アンタの世界の作品には考察が不十分な作品が多いわね。

 プロじゃない人の作品ならそれも当然だし笑って見過ごせるけど、アニメ化したのでも神目線で言うとやっぱりコレ無いわ~っ、駄作だわ~ってのは確かにあるわ」


 神様に添削されたらどんな作品でも当たり前だろ、と言うか神様もアニメ見てるんだね。

 世界を管理してるって言うぐらいだから、テレビだけじゃなくてありとあらゆる物を見ているんだろうけど。


「そりゃもうガッツリ見てるわ、だって暇だから。

 あ、そうそう、どうして地球でアンタらの言うファンタジー作品が産まれただけどね、あまりの暇に耐えかねて堕天した神の何人かが人に姿を変えて色々と作品を作り上げたからだわ。


 人間名は出せないけど、きっとアンタも一人や二人は知ってる名前が居るから」


 例えば腕輪の作者とか、かな?

 あの人は独自の言語まで作ったとか何とからしいけど、実は元ネタがあったのか。


「それと、コンピューターとかの基礎理論をもたらしたのもやっぱり神の一人。自分が遊びたい一心でね。

 実は結構アンタの世界に神は降りてて、数学、物理、化学分野とかでもかなりの知識を与えているのよ、感謝しなさいね」


 それって神様の社会的にオッケーなの?

 普通は神って人間の世界には干渉しないんだろ?

 そっか、それも小説での話だったな。


「堕天したら神ではなくなるからねぇ……そもそも神にとって一番の罰は寿命を持つこと。

 だから、自らその罰を受け入れて人間となった者にそれ以上の罰は与えられないの。

 オッケーとかそう言う問題じゃないのよね」


 元々寿命のある人間にはとても理解出来ない話だな。これに関しては深く追及しないでおこうか。


「それが正解ね。

 次はケモ耳とかケンタウロスにアラクネが居る理由が知りたいって?


 残念ながらそれはファンタジー作品を面白くする要素の一つ、単なるネタに過ぎなくて、どの世界にも自然発生した種族は実在はしないわ。

 進化の過程でワーウルフみたいな人間と動物の合の子みたいな種族が出来た世界は沢山あるけど、アンタらの大好きなケモ耳娘は実在しないから」


 ……マジかよ、この世に神は居なかったのか!


「アンタってちょっと失礼な奴よね……こんな奴にヘリを当てた自分に腹立つわ」


 そんなの俺に聞こえるように言うなって。

 あ、この空間に居ればコイツの話は丸聞こえになるのかな?

 次は試しに耳を塞いでみようか。


「……ここじゃ、どうやっても聞こえる設定よ。

 で、話を進めるけど、ケンタウロスとかアラクネみたいに全く別の種類の生物の体を結合した生物はね、真面目な話、エッチなことか暴力か食べることか空想しか娯楽の無かった古代人の妄想の産物。

 どの異世界にも本物は居ないわよ」


 人外娘も存在せずか。そっちは守備範囲外だからどうでも良くて、居るなら見てみたかったってレベルだからショックは無い。


「先に人体側でウンチにした物が馬体に到達して、馬の胃の中をウンチが通るのよ。考えたら凄くイヤでしょ。

 それでもケンタが居ると思う?」


 そこまで真面目な?ケンタウロスの解説は不要なんだけど。馬だけどチキンみたいだな。


「ケンタは居ないけど、手足のある人間蛇が支配している世界もあるわよ。

 そう言う世界は転生先としては人気が皆無だから実は逆にお勧め。

 不人気な分、必要な転生ポイントが少ないの。

 その分を他の所に多目に割り振れるから有利なスタートが切れるわ。どうかしら?」


 ポイント割り振りとか、そんなゲーム的な世界には行きたくないな。

 ゲーム的と言えばステータスや鑑定とかの色々なスキルもそうか。最たるものはやはりレベルだよね。


「HPとかSTRとかのステータス、剣術とかの各種スキル、それとレベルがあることが引っ掛かってるのか。

 痛い所を突いてくるわね。


 アンタらの世界のゲームを参考にして作った世界で、そう言うシステムが良く利用されてるわ。

 でも色々と不都合が多くてさ、最近になって神の世界でそのシステムを廃止するかどうかの議論が持ち上がっているのよ」


 と言うと? 


「現実問題、人間の成長ってレベルが一つ上がったからって途端に能力がステップ状にアップする訳が無いじゃない」


 それ言われると身も蓋も無い気がする。


「てか、普通の人間は転生する時にそんなシステム面のことは疑問に思わないのに、アンタって随分と変わり者ね。設定厨なの?

 心配しなくてもゲームみたいな世界は選択肢から除外しとくから」


 別にゲームみたいな世界に行きたくない訳じゃないし、むしろ身近なのはそっちなんだけど、勘違いさせたか。


「あのねぇ、言わせて貰うけど、そもそもレベルってものはゲームだから必要なのであって、生身の人間にそんな要素をどうやって持たせるって言うの?


 スライムを七匹倒したら一レベルから二レベルになって各種パラメーターが上がって、ついでに技や魔法を覚えるって?

 そんな訳ないでしょ。


 人間の成長ってそうじゃなくて、さまざまなパラメーターが独立した成長曲線に沿って上がるものなのよね。ロープレよりむしろ育成シミュレーションに近いわ」


 これは意外だな。思ったより神様ってのはしっかり考えてるもんなんだ。


「もう信じられない奴ね……私のことどう考えてたのよ?」

「だって間違えて人を殺してるしさ」

「それは悪かったわね。でもアンタ、結果オーライとか考えてるじゃない」


 ちっ、バレてたか。


「数値はどうでも良いけど、仮に人間の理論上の最大STRを百、赤ん坊の筋力を一とするわ。

 じゃあ人間の腕力と脚力は同じかしら?」 


 言われて見ればだ。筋骨隆々とした体操選手でも握力は鍛えないって話だからな。


「ね、違うでしょ。

 アンタらの世界では背筋力とか握力とか計測してるのに、ステータスには一つの筋力しか表示しないのはおかしいのよ」


 例えば体重が七十五キログラムの人が一秒で一メートル動けば、それがちょうど一馬力に相当する。

 だけど同じ体重の人でも腕力には違いがある。


 これとは少し意味は違うけど、ステータスに表示される筋力ってのは実質何を表してるのか意味不明ってことか。

 攻撃に使用する筋肉を総合的に判断したのがSTRだと言われても納得は難しいかな。


「元々ステータスはコンピューターゲームでの攻撃値や防御値なんかを算出するためのファクターに過ぎないのに、ゲーム機のRPGで育った世代が理論や人体のことをろくに考えずに小説に使ったんだろうね。


 更に何も考えてない人がコレいいじゃんって真似して広がって、それが今では蔓延してる訳よ」


 こんなこと言って、色々と批判浴びないか心配だよ。マジ大丈夫かな?


「そう言うゲーム脳で作られた作品を、ゲーム脳の読者が読む分には問題なく受け入れられるけど、そうじゃない人が読んだらどう感じると思う?

 そんなことあるわけ無いだろうって、すぐに読むのやめて見向きもしなくなるわ。


 だからと言って、そう言う作品が悪いって訳じゃない。商業的にもヒットしてるんだから認めないとね。

 もし嫌ならその小説を読まなきゃいいだけ。単純よ。


 でも、何も考えずにその小説をパクって新しい世界を作った馬鹿な神が現れてね、さっきの筋力のこととか矛盾だらけの世界が出来てしまったのよ。


 後から別の神が派遣されて修正パッチ貼りまくって鬱になったって事件があって、ゲームシステムを流用した世界を作るのは禁止する方向に成りつつあるわけ」


 ……そんなことをドヤ顔で言われても俺にどう反応しろと?

 神様にも色々あるのは理解したけど、俺には関係無いだろうし。


「アンタねぇ。自分が今から転生するって時に関係無いとかあまりに無関心過ぎない?」


 いや、なんか話が長くてめんどくさくなって。

 ぶっちゃけ、もう転生しなくてもいいかなって思ってきた。


「何でよっ! (ひと)が折角色々と裏事情を教えてあげたってのにあんまりじゃない!」


 だからって怒鳴られてもねぇ……元々お前が間違ってヘリを落としたのが原因だし。

 現れた女神の話が長くて……はぁ……マジでもうお腹いっぱいだから転生しなくても良い気がしてきたってマジで何なんだろうね? 


「裏事情を教えて貰ったのは転生先の話を聞きたくてだけど。

 神様も色々と大変みたいだし、俺一人に関わって時間を無駄にするのはどうなんだ?」

「どうなんだってね。

 アンタがさっさと転生先についての要望を出してくれたら、こっちだってその話をしたわよ!

 なのにアンタがどうでもいい設定の話を聞いてきたから、こんな面倒なことになったんじゃないの!」


 この程度で怒るなんて随分短気な女神だよな。カルシウム不足じゃね?


「心配されなくても、ブルーベリーとかシジミエキスとかの定期購買して飲んでるから健康そのものよ!

 次はどこの野菜ジュースにしようか悩んでるところ」


 カルシウムの要素が無い気がするけど。


「カルシウムなんて日光浴してたら合成出来るの」


 えっ? それ、ビタミンDの間違いだろ。それとも神様は本当に日光浴でカルシウムが出来るのか?


「嘘っ?! ちょっと待って、調べるから」


 薄緑色の画面を使って検索した結果、この駄女神の勘違いが発覚してカルシウムサプリを追加で購買することに……えーと、俺ってどうしてここに居たんだっけ?


「仕方ないわ。野菜ジュースは昇給してから買うことにするわ」

「それが良いよ。じゃ、俺、そろそろ逝くから」


 と言うものの、ここからどうやればあの世に行けるのだろう?


「あーっ、だからアンタはあの世に行くんじゃなくて転生するのよ!」

「だからそれはもういいんだって。

 さっさと閻魔さんの居るとこ連れてけや」

「そうやって悪い子ぶって。

 でも、確かにアイツが帰って来るまでもう少ししか時間がないわね。


 仕方ない、なるべくアンタの希望に沿う世界に希望の姿で送ってあげる。さっさと希望を言って。

 転生ポイントの配分は後で融通が効くよう誤魔化しとくから」


 腕時計を気にする素振りからして、本当にこの駄女神は焦っているみたいだな。

 後腐れの無いようにサッと希望を決めようと思うのだが、はて困ったもんだ。いざ転生するとなると、どんな希望が良いのかサッパリ分からない。

 で、誤魔化すってなんだ?


「早く決めて!」

「そんなに急かすなよ。人生のやり直しなんだから普通なら時間を掛けて決める話だろ。お前の都合に合わせて済む問題じゃねえんだぞ!」


 転生先の世界を選ぶだけじゃなくて、両親とか家庭環境とか容姿とか、能力だってじっくり時間を掛けて選ばないと納得出来る訳がない。


「やばっ!あと三十秒よ! 世界だけでもすぐに決めて!

 他は転生ポイントをサービスするから足りないところは現地で上手くやって!」


 まったく無茶苦茶を言いやがる。

 じゃあ、ご都合主義な普通のファンタジーな世界で、病気とか毒とかで苦労せず。旨い飯が食えて、後はそうだな……


「キャッ!」


 視線を斜め上にしながら真面目に考えていたところに、突然そんな可愛い悲鳴を上げた駄女神が俺の方に倒れてきた。


 彼女が立っていた場所のすぐ後ろに、いつ現れたのか目付きの悪い男の神様がヤクザキックの体勢で立っていたのが目に映る。


「ちょっと! どさくさに紛れてどこ触って」


 倒れてきた彼女を咄嗟に支えようとした俺の両手に柔らかくもあり、十分な弾力もある素敵な感覚が……これはまさか?


「ポヨヨンって……」


 思わずクチに出たのが何処の幼稚園児かと思う感想だ。さすが俺だわ、だてに三十年も恋人なしの独身賢者では無かったようだ。


「このすけべーっ!!」

「どうやら時間切れだ。良い転生ライフを」


 最後に聞こえたのは、駄女神の悲鳴とヤクザキックをかました、いかにもな姿をした神様のそんな送る言葉だった……。

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