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大賢者の秘書官イシュタル  作者: ふるみ あまた
3章 あやかし大国の章

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54 場違い?

 

 あやかし大国日本。それとは別に、この国では様々な産業が発展している。すべての魔道具を網羅するエドガン社とは違って、魔道具の用途別にそれぞれ独立したメーカーが存在しているのが特徴的だと私は感じた。


 その日訪れたのは、アシハラの生家から車でしばらく走った場所にある、オープンモール型の商業施設だった。広大な敷地を活かして作られた、いくつもの独立した店舗が軒を連ねるブロックが道路の先の方まで続いている、通り全体がショッピングの為に存在しているという摩訶不思議な空間でもあった。


 クリスマスまであと二日。混雑を避けられないこの時期に、買い出しに参加したのは師匠と弟子二人。


「おい、ムガ!! あんまり放っておくと、私が迷子になるぞ!! ちゃんと手を握っておけよ!?」


 アシハラ流は、師匠の地位がとにかく低いことで有名である。いつものごとく、弟子のキラが尊大な態度で人ごみの不安をアシハラへと伝えた。


「今はちょっと無理ですね。はぐれないように、裾とか、そっちで適当に握っておいてください」


 両手はおろか、背中までがもち米の入った袋で塞がっている状態で歩いているアシハラにそんな余裕はなかった。私の手も、餅つきのために必要なその他の材料で空いていない状態だった。しかしキラにとって、それは好き勝手にふるまう理由にしかならなかった。


「コラコラコラコラ。公衆の面前でそんなとこ握ったら、オジサンだけが捕まっちゃうでしょうが。もし通報でもされたら、帰れなくなっちゃうよ? 今すぐに、おやめなさい」

「お前が掴めって言ったんじゃないか!! それに、何だコレは!? でかすぎて、逆に持ちづらいぞ!?」


 ……やると思った。握るというワードが出た時点で、私は先の先まで予測していた。


「イシュタル殿ぉ~?」


 我が家の場合、キラのしつけは段階的に厳しくなっている。アシハラがダメなら私。それでもダメなら大賢者。大抵の場合、私が叱ることによってキラの悪ふざけは止まる。


「ひとつ、持ってあげたら?」


 とはいえ、買い物はまだまだ始まったばかり。いきなり厳しく言いつけて、しゅんとさせるのは早いと判断した私は普段より優しい声をキラにかけた。


「重そうだから、やめとく」

「じゃあ、こっち持って」


 見越していた態度をとったキラに、ピーナッツが大量に入った袋を押し付けた。有無を言わさず手伝わせることによって、私は彼女の悪ふざけに終止符を打った。


 そこから少しだけ歩き、ほぼほぼ満杯状態の駐車場。アシハラ曰く、日本の魔法界では車は富裕層の移動手段として定着しているらしいが、この時期は所得層に関係なく大盛況ということだろうか。ともあれ、お馴染みのマペット君の姿がそこにはあった。


 今日は大量の荷物を積み込む予定なので、人員は必要最低限。本当はアシハラと私だけで来る予定だったが、出発の際にキラがゴネたので連れて来たのであった。何でもどこでも収納ができる便利な男、大賢者は山に行って辰喰らいを見たいとのことで、残念ながら今回は不参加となっている。


「よし、と。それじゃあ、次のお店に行きましょう」

「疲れた。もう休みましょう」


 買ってきた餅の材料を車に積み終えると、キラが早くもギブアップ宣言をした。普段ならお尻を叩くようなことを言って、無理やり歩かせるところだが、昨日の今日ということもあって、疲労感を拭いきれていない私はキラの意見に一票投じることにした。


「軽くお茶でもしませんか?」


 アシハラは二つ返事でオーケーしてくれた。





 私の認識が甘かった。現在は繁忙期。カフェというカフェは満席で、どの店舗にも長蛇の列が並んでいた。


「どうしましょうか?」


 アシハラは困り顔で私に判断を仰いだ。こういう時のキラは、なぜか遠慮がちになって


【今月のスペシャリテ!! カロリー終了☆ゲロ甘ショコラスムージー】


 という期間限定メニューを、強く興味を持った眼差しでただ眺めるばかりとなる。


 キラにはかわいそうだが、時間も限られているし、今は無理してお店に入る必要もないか。


 そう考えた時、私の目に映ったのは一軒のおもちゃ屋だった。飛び込んできたその情報は、脳に直接指令を与えてきた。おもちゃ屋と言えば、ゲームが置いてあるはず。ゲームといえば、ソフィーさんだ。今、彼女へのプレゼントを買わなくて、いつ買う。


「私は、あそこのお店に行ってくるので、二人は並んで何か買って、休憩しててください」


 降って湧いたのは使命感。私は返事を待たず、その店へと駆け込んだ。





 おもちゃ屋なんていうのは、来たことがないかもしれない。冗談ではなく、どう記憶をさかのぼっても、こういうお店に来たという映像が蘇ることはなかった。おそらく人生で初めてのおもちゃ屋の訪問は、場違いのひと言に尽きた。


 仲良さげな若い夫婦や孫を連れた祖父母といった、親子連れが中心となった店内は幸せな雰囲気に溢れていた。そこへ現れたのは、軽く息を弾ませた単品の独身魔女。きっと、どこからどう見ても浮いていたことだろう。


「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」


 そんな私に声をかけてきたのは、すさまじい清潔感を持った背と腰の低い男性店員だった。


「えーっと……ゲームコーナーはどちらに?」


 アメリカで訪れた倉庫型商業施設を彷彿とさせるほどに、店内は広かった。ゲームコーナーではなく、ゲーム自体を探すことに時間を費やしたかった私はおそるおそる、その店員に尋ねた。


「それでしたら、あちらの突き当りの壁が一面ゲームコーナーとなっております。ゆっくりとお楽しみください」


 深々と頭を下げてきた男性店員に、つられてこっちまでお辞儀してしまったが、本当にいい国だなと思いつつ、私は突き当りの壁まで急いだ。

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