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大賢者の秘書官イシュタル  作者: ふるみ あまた
2章 古代遺跡の章

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40/63

40 総括

 

 ありとあらゆる方向に天空が広がっているデッキへと出ると、六角形のガーデンテーブルにつく大賢者とソフィーさんの姿があった。まだ玄関を出たばかりだというのに、二人とも目ざとく私に気が付くと、大賢者はそのままに、ソフィーさんは立ち上がって微笑みながらこちらへと近づいてきた。


「ごゆっくり」


 すれ違いざまにソフィーさんは甘い香りと、ウインク付きの囁きを残して拠点へと戻っていった。お言葉に甘え、私は何もかもを追求する覚悟で、今回の件についても、まず間違いなく全体像が見えている、唯一といってもいい男の隣に座った。


「よう、敏腕捜査官。飲むか?」


 開口一番、大賢者はシードルの入った緑色の瓶を勧めてきた。気持ちは嬉しかったが、入浴前ということもあって私はその誘いを断った。


「そうか。で、どこから聞きたいんだ?」


 決まりの悪さや、居心地の悪さといった思いの裏返しか、今日の大賢者はやけに話が早かった。


「そうですね……まず、一人で何をされていたんですか?」


 大賢者は何も言わず、重量感のある物体を取り出してテーブルの上へ置いた。それは私にとって懐かしい、紙媒体の資料の束だった。私は出された資料をめくり上げて、その内容に目を通した。


「初めて行ったんだが、イージェプトの警備局っていうのは、なかなかに権威に弱くてな。おかげでこういったものが易々と手に入った」

「……盗掘被害のリストですか?」

「さよう。正しくはマウマウ族とそれに関係する遺跡限定のものだが、まさか隣国にまで被害が及んでいるとは考えていなかった。おかげで無駄足を踏まされたが、まあ一個一個調べているうちに、そのことに何とか気付けたわけだ」


 神経質にさせられたが、そういう事だったら置いていかれてよかった。フィールドワークはとても大切なことだが、一件だけでも肉体的にも頭脳的にも重労働であり、高い精度を保ったままこの量の調査を不眠不休で続ける自信は私にはない。というか、そんな人間は見たことがない。私の隣にいる男以外には。


「で、今度はリビアで調査を始めた。その中で、あの姫様が封印されていたらしき場所にあたった。ところがこの遺跡の内部に残されていた文献で、マウの封印が行われた年代と姫様が封印された年代がズレてることに気付いちまった。その証拠に、あの姫様、マウについて何も知らなかっただろう? それで焦った俺様は……何をしたと思う?」


 突然のクイズ。私はこの男がやりそうなことを適当に考え、最初に思い浮かんだことを口にした。


「カチコミと拷……尋問ですか?」

「正解」


 思った通りだった。気の短い大賢者のことだ。現行犯の盗掘者たちを襲って、口を割らせる。それを数珠つなぎのように行って、ヤスヒロの存在や最終目的地であるピラミッドを見つけ出したのだろう。


「結果的にお宝の正体は猫だったわけだが、解読時点では何やらすごい予感がプンプンと漂っていたよな? だから、同じものを狙っている連中が必ずいると、俺も思っていた」


 私は頷いてから黙った。大賢者がタバコに火を点ける姿を眺めながら、程よく冷えた空気を取り込んで、火照った脳を冷ました。


「……逢魔連合(おうまれんごう)かと思っていました」


 もうこの世には存在しない、忌まわしい組織の名前を口にすると、何事にも動じない大賢者のタバコを持つ手がピクリと動いたような気がした。


「……考えすぎだ。アシハラも心配していたぞ?」

「どうして、アシハラさんが?」


 気遣いは本当にありがたいが、本人に直接言ってほしくもあった。


「それだけ今のお前は変なんだよ」

「あなたにだけは、言われたくないです」

「へへっ……質問はもう無いのか?」


 当然、まだある。特に、最大ともいっていい謎を残したまま、エジプトを去る気にはなれなかった。


「あなたを狙撃しようとしてきたのは、誰だったんですか?」


 ラミアの胸を貫いた凶弾。攻撃の軌道と大賢者がとった行動を(かえり)みると、狙撃犯の標的は明らかだった。


「さぁな。もしかしたら、協会絡みかも。明日にでも地元紙に載るんじゃないか」


 大賢者には敵が多い。本人曰く、本来であれば味方のはずの国際魔術師協会の中には彼の反対派も多くいるという。残念ながら、その話は真実なのだろう。世の中には汚い人間が蔓延(はびこ)っているのだから。しかし、もっと汚いのはこの男だ。普段だったら、結界魔法で並の暗殺者なんて寄せ付けもしないはずなのに、今日に限ってその侵入を許した。大賢者に個人的な思惑があって、わざとあの状況を作り出したのではないかという、確信に近い考えが私にはあった。


「……私の言いたいこと、わかりますよね?」


 すべてをいちから糾弾するのが面倒だったと言う事もあるが、私は信頼をもってその言葉を送った。すると大賢者は含みを持たせた笑いを漏らしてから、口を開いた。


「レグナス・レグロスの居住権の問題で、仕方なかったんだよ。愛というものは、宣言するのだけは容易だ。苦境や苦難を分かち合い、そして再生を誓った男女のつがいを誕生させる必要があった」


 やはり、わざとだった。考えが的中した私は気持ちよく、事の詳細を聞くことにした。


「レグナス・レグロスというのは、どういうところなんですか?」

「古代竜を知っているか?」

「話だけなら」


 古代竜とは、独自の領域を持った神のような存在である。その存在は古くから魔法族に知られているが、私のような一般人からすれば、おとぎ話のような感覚に近く、もちろん遭遇したことはない。というか、巻き込まれたら無事ではいられない、とんでもない内容の話が絡んだ古代竜が多いため、悪神として語られていることがほとんどである。


「レグナス・レグロスは、愛の古代竜が支配している領域のひとつといわれている。この星の魔力を喰って生きている古代竜は、この世の事象をすべて観測している。だから、各地に散らばった信者たちが古代竜からメッセージを受け取って、あいつらをレグナス・レグロスに導くっていう風に持っていきたかった」

「へぇ……考え通り、うまくいくと思いますか?」

「どうだかな。意識的にやろうとしたのは、初めてなもんで」


 言葉こそ謙虚であったが、その顔は自身に溢れていた。私には、それが答えだと思えた。


「結局、あの二人の呪いは解けるんですか?」

「それは絶対に解ける。俺様が国際魔法医療センターでこき使われていた時に、パシリにしていた男がいてな。そいつが、その手の呪いには詳しいんだ」

「あなたが人頼みっていうのも、珍しいですね」

「それだけの実力がある人間ってことだ。そいつは結婚式の招待状の返事も早かったし、そういう縁だけは大切にしなきゃな」


 家族以外を好意的に語る大賢者は非常に珍しい。それだけに、パシリに使っていたという証言だけがもったいなかったが、強く興味を覚えた私は、その人物について聞いてみることにした。


「どんな人なんですか?」

「そうだなぁ……忠実な男だったよ。たしか、ウェールズ出身とか言っていた気がする。時には、互いのキンタマの裏の匂いを嗅ぎ合ったりもした」


 聞かなきゃよかった。


「タぁ~ルぅ~!!」


 玄関の方からダミ声が聞こえてきた。不機嫌な時のキラの声だった。


「ソフィーがひとりで温泉行っちゃったぁ!! 私たちも行こう!!」


 玄関から顔を覗かせ、キラは不満を爆発させていた。


「行ってやれ」

「でも……」

「いいから。俺との話なんて、いつでも出来るだろう?」


 仕方なく、私はそこで話を切り上げて、キラのもとへと向かうことにした。


 余談ではあるが、最後の最後で聞かせられた大賢者のクソみたいなエピソードは私を悶々とさせ、その日の安眠を妨げてきた。

******機密情報******




――以下、極秘資料につき持ち出し厳禁――









イシュタル姐さん、お元気でしょうか。

ヤスヒロです。

手紙なんていうものは、ガキの頃以来で

書き出しからして、おかしいかもしれませんが

どうか、お許しください。


大賢者レオナルド・セプティム・アレキサンダー様へ

お知らせがございます。

俺がこの手紙を書いているということは、そういうことです。


間違いなく、俺たちは辿り着くことができたんだと思います。

そう、この場所こそが大賢者様の言っておられた

ペピャンス・ペピャンスです。


夢物語のような理想郷、またの名を楽園。

実際に俺たちが住んでいるのは、まだボロ屋ですが。


この場所は日本に帰ってきたのかと思うほど静かで綺麗で

何よりも、近隣住民たちに驚かせられました。


まずイタリアンピエロの夫婦。

お隣、といっても俺たちが住む家から

3キロぐらい離れた農場に住んでいるその人たちは

なぜかピエロのメイクをずっとしていて

俺たちが引っ越してきたその日に

大量のトマトと卵を持って訪ねてきました。


俺はアジア人だから差別されたんだ。

カゴいっぱいのそれらを投げつけに来たんだ。

と思ったら、そういうことじゃありませんでした。


引っ越しの御挨拶でした。


見かけによらず、めちゃくちゃいい人たちでした。


こういうのって、俺たちからしないとダメじゃん。

ラミーと話し合って、そういうことになりまして。

これまたはるか離れた、別の隣人のお宅へと彼女と訪問することにしまして。


そこが!!


なんと!!


ユリエル・セプティム・アレキサンダー先生のお宅!!!!


ビックリしちゃって。

俺、何も言えなくって。

ただただ、腰を抜かしまして。


弟さんが住んでるの知ってたんなら、先に教えておいてくださいよ。

恥かいちゃいましたよ、俺。


んで、奥さんにも会えて。

めちゃくちゃ可愛くって、素敵な変人でした。

だって、毎日ご機嫌なんですもの。

生まれてこの方

そんな魔女には会ったことがありません。


先生は日本フリークみたいなところがあって

俺にウザいぐらいに絡んでくる時もあります。

日本人に生まれて、こんな誇らしかったことはないです。


俺に知識が無いから質問に答えられなくて

ガッカリさせてしまうことも多いんですけどね。

色々と落ち着いたら、改めて勉強をやり直してみようかな

なんて、柄にもないことを目論んでおります。


変わった人同士、ラミーは奥さんと意気投合したみたいで。

マウも先生のお宅の猫ちゃんとは馬が合ったみたいで。

人間関係も最高です。

ですが、それこそが最大の悩みと申しますか。


こんないい人たちとは、一刻も早く、一緒にご飯が食べたいです。


イタリアンピエロ夫妻にいただいた

大量のトマトと卵を腐らせちゃってますから。

先生の奥さんに焼いてもらったケーキも、カビ生えちゃってますから。

日本人に生まれて、こんなに心苦しかったことはありません。


ヤバいっす。

どうか。

どうか、どうか。

解呪の件について、早めにご検討のほど、よろしくお願いいたします。

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