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大賢者の秘書官イシュタル  作者: ふるみ あまた
2章 古代遺跡の章

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27 愛しのラミー

 

「……ということがあって。今、その人を匿っているというか、せめて彼女にかけられた呪いを解くまでは一緒にいたいと思っていて」

「もういい。よくわかった」


 キリの良い所でアシハラがストップをかけた。そこからアシハラと私は一秒ほど視線を交わし、沈黙に身を(ゆだ)ねる必要があった。ヤスヒロの話の内容があまりにも無秩序なものだったために、混乱した頭を整理する時間が欲しかった為だ。


 ヤスヒロが身につけた古代の開錠呪文。それを使って古代遺跡の仕掛けを解いたら、二千年以上前に滅びた国の王女が生きた状態で出てきた。この時点で古代ロマンも(はなは)だしかったが、ヤスヒロの話はそれで終わりではなかった。


 現代に蘇ったその王女には呪いがかけられていた。それは吸血の呪いという、まったく聞いたこともない類の呪いだった。果たしてこの話は、どこまでが本当なのか。ヤスヒロが嘘をついているようには見えなかったが、私にはすべてを鵜呑みにすることはできなかった。


「ところで、お前を襲った男に心当たりは?」

「ない。初めて見る顔だった。でも、仕事の誘いだと思うよ。いつもあんな感じで始まるから」


 それも色々とおかしい。私がずっと引っかかっていた部分は、アシハラが明らかにした。


「気づいていないのなら、はっきり言おう。お前は拉致をされかけていた」


 私の視点から見ていても、明白なことだった。しかしヤスヒロ本人は、なぜそうなるのか理由がわからないといった表情を浮かべながら口を開いた。


「も、もう少し、詳しく教えてもらえます?」

「思い出してみろ。これまでに無理やりお前を駆り出そうとしてきた連中のやり方を。今日の男は一人で来ていた。脅して言う事を聞かせようというには弱い人数だ。そりゃそうだ。連れ去るだけなら、力で抑え込める人間がいれば、一人でもよかったんだから」


 言っては何だが、ヤスヒロの体格はヒョロヒョロで、とても弱そうだ。というか、絶対に弱い。魔力も強くないのか、危険性というか、人間として嫌なものを感じない。まるで一般人である。捜査官として見ると、こういうタイプの犯罪者が一番捕まえられないし、そうする前に消されてしまうのが悪の世界の常でもある。


「盗掘を生業にしている連中なら、絶対にお前を殺さない。再利用の価値があるからだ。だが、ああいう連中は違う。今だけ必要なお前の力を使ったその後は、即切り捨てることだろう。この意味はわかるな?」


 今回の一件について嘘偽りなくいうと、アシハラが帯同していなければ、首を突っ込むことは絶対になかっただろう。私とキラだけだったら、一緒に安全な所まで逃げて、あとは関係ない態度を貫く。それで終わりにしていた。それほどまでに、この事件には気味の悪さと厄介さがあった。ところがこのアシハラおじさんときたら、決断と行動に迷いがなかったし、動き出した時の目が何よりも綺麗だった。


 ナンバーツーなんていう説明で持ち上げられて、今もどういう口調でヤスヒロと接すればいいのかよくわからないまま黙っているが、私は本能的に上だと思った人間の行動に従う習性があるのだろう。だから大賢者にも犬扱いをされるわけだ。自分の事を分析すると、あまりにも滑稽で笑いがこみ上げてきた。


「あの……ナンバーツーの方、すごい笑ってますけど……これ、笑い事じゃない感じ、ですよね?」

「当たり前だ。お前の言うラミアとかいう娘を匿っているのは、向こうにあるホテルの二階だろう?」


 アシハラの言っていたのは、カーテンを閉め切っていた例の部屋のことだ。この町でよそ者が誰かを匿える場所なんて、他になかった。


「どう、どう、どうしてわかる……の?」

「見るヤツが見ればすぐにわかる。お前を(さら)おうとした連中がそこを見つけ出すのも、時間の問題だ。悪いことは言わねぇ。その子を連れて、今すぐ町を出ろ」

「いや、しかし……うーん」


 何をそんなに考え込むことがあるのか、ヤスヒロはうなだれたまま顔を上げようともしなくなった。この態度に痺れを切らしたアシハラが懐に手を入れた。そこから握ったままの拳が出てくると、その拳はドンと音を立ててテーブルの上へと置かれた。


「金がねぇなら、これを使え」


 なんと気前の良いことか。大きな拳が開かれると、そこには1リーブ硬貨の姿があった。これだけあれば、物価の安いエジプトなら数か月は過ごせるはずだ。これにはヤスヒロも顔を動かした。


「いや……ありがたい。本当に、とってもありがたいんだけど、でも、やっぱりひと目でもいいから、どうにか彼女と会ってはいただけませんか? 特にそちらの、お二方」


 ヤスヒロは丁寧に、私とキラを一人ずつ両手で指名した。


「だって、半年だぜ!? 俺は留守がちだから、その間は彼女、ずっと孤独で俺みたいな……いや、俺の話はいいんだけど、とにかく、ラミーは子供が好きみたいなんだ。どうだろうか、お嬢、いや、アシハラさん?」

「その呪い、うつる危険性は?」

「噛まれなければ……いや、正確には、血を吸われなければ大丈夫」


 呼び方といい、肉体関係を匂わせる内容といい、私にはどうにも乗り気になる要素が見当たらなかった。しかしここで、大賢者と同等のスケベ心を持つ娘が動き出してしまった。


「どんな女なんだ? 美人か?」


 ヤスヒロはアシハラを二度見することによって、キラと会話をしていいか許可を得ようとした。アシハラは黙って頷いてしまった。


「超美人。もう、俺なんかすぐ骨抜きにされちゃう」

「ホネヌキ? どういう意味だ?」

「そうね……やるべきこともやらずに、彼女のその~……彼女に夢中になってしまうことかな」

「ふーん。おっぱいは?」

「ぶるんぶるん」

「よし、行く!! はやく案内しろ、シケ坊!!」

「しけぼう!? 今時!? でも、行ってくれるなら、好きに呼んでくれて構わない!! 本当にありがとう、お嬢ちゃん!!」

「おい、人の名前はちゃんと呼べよ、シケ坊!! 私はキラだ!!」

「えぇ……すいません」


 下らない。毎回毎回、本当に下らない。私が重い腰を上げることになったのは、机の上に並べられた料理の数々を全員に食べ尽くさせてからだった。

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