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大賢者の秘書官イシュタル  作者: ふるみ あまた
2章 古代遺跡の章

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21 マウマウのマウ

 

 夕食後のリビングは団らんの場となるため、情報整理の続きは私の仕事部屋で行うことになった。室内にはデスクがひとつしかないので、大賢者は自分専用のソファベッドを勝手に部屋へと持ち込んだ。おかげで、ごちゃついていた部屋がさらに酷いものとなったが、いざ作業を始めてしまえば、そこまで気になるほどでもなかった。集めた情報は思いのほか多く、中には数十メートルの長さのパピルスに記された文献もあった。私が情報の取捨選択に苦戦する一方で、ソファベッドでリラックスした姿勢を保った男はスイスイと映像を流し見て、必要なものだけを着実に自分の頭の中に吸い込んでいた。


「よっしゃ、だんだんわかってきたぞぉ?」

「本当ですか?」

「ああ。マウマウ族のお宝の名前、何だと思う? なんと、その名も『マウ』」

「マウマウのマウ、ですか」


 音の響きを聞いただけだと冗談のように聞こえるが、実際のところは真逆で、信憑性を感じさせるのに十分なものがあった。我々魔法族は、大昔から言葉や文字といったものを大切にしてきた。とりわけ名前の扱いというのは、古代文明の価値観で考えれば、相当に高い位置にあるはずだ。マウマウ族が自分たちの部族の名前の一部を使っているという事は、そのお宝にはそれだけの価値があるということを示している。


「そういうこと。どうやらマウマウ族は、その『マウ』をエジプトの広大な砂漠のどこかに隠したらしい。問題はそのお宝が俺たちの求める技法なのか、それとも全然別の物なのかっていうところにある」


 離れた場所にいるにもかかわらず、大賢者は私の使っていた記憶媒体用魔道具を操作して映像を切り替えた。私の顔の正面と左右、そしてその三つの映像の間に浮かぶ立体映像は新たなものに置き換わり、それらには共通する形のシンボルが映し出されていた。


「どいつもこいつも丸、丸、丸。このお宝が丸っこい形をしていることは確定だ。形あるものという事は、残念ながら錬金技術そのもののことではなさそうだ。だがこのお宝がもし宝石だった場合、そのまま指輪に使えるかもしれん。調査はこのまま続けて、この秘宝を見つけ出してやろうぜ?」

「おぉ……」


 大賢者の提案に私は大きく肯定していたが、声は感嘆に近い吐息のようなものが出ていた。圧倒的スピード感と、仕えているこちらの気持ちを高揚させるカリスマ性。すでに引退しているとはいえ、数々の不滅の金字塔を持つ魔法史上最強の、伝説の賞金稼ぎという肩書は伊達ではなかった。


「というわけで、今日のところはここまでにしよう。お前はもう、休んでいいぞ」

「へ?」


 今度はちゃんと声が出た。もっとも、初めて挑戦する吹奏楽器をやっとの思いで鳴らしたかのような、少し間抜けな音だったが。そんな情けない音を私が出すことになったのは『お前は』という部分に引っかかったからでもあった。私が休んでも、大賢者はこのまま休まずに一人で何かをするつもりだ。要するに私は、大賢者から突然の戦力外通告をくらったということになる。この男はいつだって言葉が足りない。そんなことは今更わかりきったことではあるのだが、ちょっとイラついた私は、出来るだけ冷静を務めて真意を探ろうとした。


「それって……どういう意味ですか?」

「そんなおっかない顔するなって。時計を見ろ。このままじゃあ、明日のトレーニングにも響くだろう?」


 私とキラは、アシハラが講師を務めるトレーニングを毎朝行っている。それは間違いないことなのだが、そこまで夜も更けていない今の状況でそんなことを言われても、まったく納得が出来なかった。この野郎、また何か隠してやがるな。そう考えた方が、この場合はずっとしっくりきた。


「教えてください」

「ん? 何が?」


 ちょっとだけ早口になった大賢者の『何が?』は、王道のすっとぼけパターンだ。あからさまに単独行動をしたがっている。なぜかというと、口やかましい私が邪魔だから。つまり、違法なことをしようとしている可能性が高い。それは推理というよりは経験則だった。


「どこへ行くおつもりなんですか? おひとりで」


 私は確信をもって言った。ところが、大賢者の反応は、私が想像していていたものとはまるで違うものだった。


「……野暮なことを言わせるなよ」

「はい?」

「魔法に、情報整理に、目の使い過ぎだ。この前だって、アシハラが目ん玉をやったばかりだろう? だから……俺なりに気を使ってだなぁ……」


 普段はちょっとだけ素行の悪い、田舎のお兄さん的な部分のある大賢者の腹の内は実は大きな優しさで溢れかえっている。その言葉は私の胸を打った……わけもなく。以前までの私だったら、完全にここで騙されていただろうが、今回の仕掛けは二重トラップである。このペテン師は人の心を踏みにじることを何とも思っていない節がある。情緒のある言動をとれば、すぐに私が騙されると思っているのも気に入らなかった。


「そういうのいいんで。白状してください」

「あれぇ? なんでわかったの?」

「わかるようにさせたのは、あなたでしょう?」


 大賢者は白い歯を見せて体を揺らしながら笑った。とうとう観念してくれたのか、そのあとは真剣な表情に戻して、ベランダの外へと視線を向けた。


「新しく注文したTシャツがある。それを取りに行きたい」


 口を割る気がまるでなかった。この場合は多分ダミーの方。嘘をつき通すためにちょっとだけ混ぜる真実のことだ。観念させられたのは私の方だった。こんなバカ話をさせれば、この男は無限に続けてしまう。私に出来ることは、せめて彼が違法なことをしないように釘をさすことだけだった。


「別にいいんですけどね。だけど万が一、あなたが破滅した場合、私だけじゃなく、他の皆も困ることになりますからね? それだけは、くれぐれも忘れないでください」

「大丈夫。今回は本当に大丈夫だから。そんなに心配するなって」


 ソファベッドから立ち上がった大賢者は、そのままベランダへと進み出た。開け放った扉を閉めることもなく、彼は闇に染まった空へと落ちていった。仕方なく私はベランダの扉を閉め、それから温泉へと向かった。肩までお湯に浸かりながら大賢者がどこへ向かったのか考えを巡らせたが、私にわかったことはソフィーさんがタバコをたくさん吸う理由だけだった。

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