表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大賢者の秘書官イシュタル  作者: ふるみ あまた
1章 エルフの章
13/18

13 思わぬ報酬

 

 初代パフェ王を決める、第一回パーフェクトスイーツ選手権大会はクライマックスへと突入する。これより優勝候補アシハラのパフェが登場するわけだが、日本人である彼が和の食材を選ぶことは間違いないだろう。アシハラが普段おやつの時間に作ってくれていた、和菓子や抹茶ドリンクのことを思い出しながら、私は期待に胸を躍らせていた。


「それでは次が最後の出場者となります!! 張り切って参りましょう!!」

「はいっ!! エントリーナンバー4番!! 北関東のとんでもない山の中から来た、葦原無我!! 44歳です!!」


 あ、ふざける気だ。私は察した。このオジサンがふざけ始めると、ある意味では大賢者よりも厄介な存在になる。元気の良いオジサンというだけでもう面白いし、持ち前の強面が手伝ってハキハキ喋るほどに囚人感も醸し出されて、色々とズルかった。


「ありがとう、ミスターアシハラ。キタカントーのその、とんでもない山の中っていうのは、どんな所なんですか?」

「はいっ!! すっごい田舎です!! 外に出たら、二分で熊に会えます!! あと、靴とか外に置きっぱなしにして、夜寝ちゃったりしたら、もう……終わりです!!」

「きっしっし。どうなっちゃうんだよ!! ちゃんと説明しろ!!」


 ノープランでやってきたオジサンの尻すぼみのボケを賑やかしのキラがアシストした。


「はいっ!! 山に隠れ住むヤバい連中に持ってかれて、次の日から裸足の生活になります!!」


 会場全体がドカンと笑った。ヤバい連中とは何なのか。熊とか言っていたから、てっきり野生動物に持っていかれてしまう程度だと思って話を聞いていたが、どうやらそういう事ではないらしい。私は笑いながらも、改めて日本という不思議な国に興味を持った。


「今回参加されたメンバーの中でも、ダントツで治安の悪い場所で育ったみたいですねぇ。アシハラさん、もうラストなんで、これ以上笑いはいらないです。外も暗くなっちゃったし、早めに作品の紹介をお願いします」


 タイムキーパーも兼ねていた大賢者は、盛大に笑いつつもしっかりと進行役を務めた。


「はいっ!! 巻きですね!? じゃあ、口で説明するのも省略しましょう!! どうぞ、もう開けて、みんなで食べちゃってください!!」

「それでは……はい、ドーン!!」


 大賢者の手によって、最後のカバーが外された。露わになったアシハラのパフェは、それまでの空気を一変させるものだった。


「ヨーグルトのパフェです!!」


 ニコニコしながら紹介するアシハラをよそに、会場はシーンと静まり返った。それはすぐさま押し寄せる大波を知らせる静寂だった。


「テメェ!! それはちげぇだろう!? お茶のやつを期待したよ、俺は!!」


 静寂を最初に突破したのは、大賢者だった。前線を切り開いたリーダーの声に私も続く。


「そうですよ!! 私だって、絶対にアシハラさんとだけは被らないように、気を使ったんですから!! どうしてヨーグルトなんですか!?」

「バカおじ!! バカ侍!! ござるって言え!!」

「あれぇ……そんなに、怒る感じですか? でも、作った後に『あ、皆に求められてるのと違うの作っちゃった』って、自分でも思ったんですけどね。だけど、時すでに遅し、って感じで。あと吉良殿、それはただの悪口でござるよ?」

「とにかく作り直しだ、バカタレェ!!」


 天然ボケおじさんのせいで、大会は前代未聞の延長戦へと突入することになった。大きな調理台にむかって一人たたずむアシハラの背中は哀愁漂うものだった。その背中を見守っていた私たちの方に、くるりと振り返るとアシハラは雨に濡れた野犬のような表情で言った。


「でもぉ……せっかく作ったものなので、これ作ってる間に、せめて試食ぐらいはしてくださいね?」

「安心しろ。それが出来上がった頃には無くなってる。どうせ、うめぇんだから。お前の作るものなんて」

「なんか嫌な言い方だなぁ……」


 大賢者が代表して全員の声をまとめた言葉を返すと、アシハラは珍しく反論をボソッと呟いた。


「なんだぁ?」


 怒り半分ニヤニヤ半分の大賢者が肩をいからせ、謀反の兆しを見せた侍に詰め寄った。


「いやいやいや!! ごめんなさい!! ちょっと距離感を間違えただけです!! お茶のパフェですね!? ただちに用意しますので、5分ほど、お待ちください!!」


 侍は両手を顔の近くに挙げて、その大きな身体をできるだけ小さくさせようとした。私は軽く笑ったあと、隣にいたソフィーさんと目を合わせ、もう一度彼女と一緒に笑いあった。バカな男たちのバカなやり取りというのは、見ているだけで愉快な気持ちになるものだった。


 なお、アシハラ特製ヨーグルトパフェはぶっちぎりの美味しさだった。私たち素人が作ったものと比べて、まず高さが違った。見ただけでキラとピィちゃんがその場でピョンピョンとび跳ねて喜ぶほど、そのビジュアルは素晴らしかった。端麗かつダイナミックに盛られたソフトな食感のフローズンヨーグルト。この中には柿のピューレが隠されていた。これが出てきたタイミングたるや、少しヨーグルトの酸味がきつくなってきたかな、と感じた頃にちょうど良く現れて、完璧に計算された職人の技というものを、まざまざと見せつけられた。フローズンヨーグルトの下にはチーズケーキのような味わいのヨーグルトがびっしりと詰められ、その中にはカットされたフレッシュな柿と、ピューレよりもさらに濃い柿のソースが使われていた。さらには一番下に敷かれていた砕かれたビスケットがヨーグルトの水分を吸って柔らかくなっていて、それが下の方で濃縮されたヨーグルトと柿のソースと抜群にマッチしていて、最終的には全員の伸ばしたスプーンが、お互いにぶつかり合うほどの激しい取り合いになった。


「はい、ごちそうさまでした!!」

「ごちそうさまでした!!」


 大賢者の声に全員で復唱する。パフェが綺麗さっぱり消え去るまで、5分もかからなかった。さすがは私たちの胃袋を支配する男。文句なしの味だった。


「アシハラ、うまかったよ。ごちそうさん。それで、もうできたかぁ?」

「はい、ただいま完成しましたぁ!!」


 もうそうしなくていいのに、わざわざ律義に丸型のお盆にドーム型のカバーを被せて全員が食べたかったお茶のパフェを持ってきたアシハラが、今度は自らの手でカバーを開けた。


「ほうじ茶とチョコナッツのパフェです。どうぞ、ご賞味あれ」


 再び訪れた静寂。私の耳には大賢者が大きく息を吸い込む音がよく聞こえた。


「だからぁ!! ちげぇっつってんだろ!? お前……なんでそんな急に、ポンコツになっちゃったんだよ!? さっきソフィー慰める時に、めちゃくちゃ難しい言葉選んで使ってたやつと本当に同じヤツなのか!? いいか!? 俺たちがお茶って言ったら、抹茶のことなんだよ!! 緑のやつ!! なにこれ!? 色が淡い!! ほうじ茶とか、俺たちにはまだ早いから!! 作り直し!!」


 もはや食レポをする気にもなれなかった為、省略するが、ほうじ茶パフェも絶品だった。まさかまさかの再延長戦の果てに、ようやく作られた抹茶パフェの味は、もう体が甘い物を求めていなかったからなのか、微妙なものだった。当分いいかなと思えるほどに糖分を摂取した私は、タイから帰って来た時の大賢者の気持ちが少しだけわかってしまったのであった。





 キラがまた突飛な要求をしたのは、宴もたけなわとなり、パフェだけで腹がはちきれんばかりになった時だった。


「パフェ食い過ぎて、なんか寒くなってきた。みんなで温泉入りたいな」


 これに答えたのは少しだけ困った表情をさせた大賢者で、その言葉は私にとって思わぬ報酬となった。


「温泉かぁ……昔やろうとしたんだけど、その時はほとんど家に帰れなかったし、元が取れねぇと思って契約してねぇんだよなぁ。でも確か家族割とかもあったし、今なら契約しても全然いいな。もう遅いから、それは明日行ってくるとして、地下に設備だけの雰囲気温泉を作ってやる。今日のところはそれで我慢しろ」

「本当か!? やったぁぁぁ!!」


 キラは両手を挙げて喜んだ。私は内心で、彼女以上に喜んでいた。


 こうして男湯女湯がきっちり分けられた、いつでも入りたい放題の温泉施設が拠点に追加されることになった。ちなみに賞金1リーブを手に入れたのは、普通に美味しいヨーグルトパフェを作ったアシハラだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ