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大賢者の秘書官イシュタル  作者: ふるみ あまた
1章 エルフの章
11/20

11 第一回パーフェクトスイーツ選手権 前哨戦

 

 時はうつろい、黄昏時。会場のリビングルームにあった家具類は大賢者の空間魔法により一旦収納され、見たこともないほどの大量のクリーム、山盛りにされた色とりどりのフルーツ、ソース、ゼリー、プリン、スポンジケーキ、クッキーやコーンフレークやチョコスプレーといったトッピング類、アイスクリームなどなど、ありとあらゆる甘味がテーブルの上に並べられ、それとは別にしっかりとした調理台まで用意された。こんな時間に甘いものなんて食べちゃダメだろ、という罪の意識がふつふつと沸き立つのを感じながらも、私はどこかワクワクした気持ちで開会の言葉を待ちわびた。


「パフェ王は誰だ!? 閃け!! 第一回、パーフェクトスイーツ選手権!!」

「イエーイ!!」


 いつものようにお祭り大好きのキラが盛り上げ、これまたお祭り大好きの大賢者が取り仕切る。こうして時折開催される選手権大会については、初めはバカらしいと思って冷めた目で見たり、のらりくらりと曖昧な意思で参加したりしていたが、羞恥心を捨てきることさえ出来れば、とても楽めるものである。ちなみに直近のものでは『弔え!! 第一回お墓参り選手権!!』が開催された。アレキサンダー家の墓前で故人を偲び、白いお花を供えて、そこからそれぞれが種族や国籍によって異なるお墓参りの方法を披露するという、標題こそふざけていたものの、その実非常に勉強になる大会だった。


「さて、今回の優勝賞品ですが……やべぇ、何も考えてなかったな。たまにはリーブとかにするか。えー、優勝者には賞金1リーブが、大賢者より進呈されます!!」

「ウオォォォ!!」


 意味もわからないくせに、キラが会場の空気を暖め続けているが、リーブというのは魔法界の共通通貨である。大賢者の父でもある発明王エドガンの登場をきっかけに、需要が爆発的に増加した魔法界は現在、歴史的な好景気状態にある。高まる需要に生産業はまだまだ追い付かず、モノが不足気味で物価は上昇。しかし需要はあるために企業の売り上げは伸び、市場規模を拡大したい企業はさらなる働き手を求め続けていて、人手不足も相まって生産系労働者の給与は右肩上がり。おかげ様で現在のリーブの価値は非常に高く、今こうしている間にもその価値は上がり続けている。1リーブあれば、ハイブランドのお店で儀礼用のローブ一式とブーツまで仕立ててもらっても、まだおつりが余る。しかし問題はこのおつりの部分にあった。1リーブが最低値のこの通貨に、どうやっておつりを出せばいいのか。想定よりも価値が上がりすぎてしまったが為に、非常に使いづらいのである。よって社会全体を支えている層には『ゴミ通貨』と呼ばれ忌避されており、一般の魔法族がリーブで買い物をすることはまずない。商業側もこの通貨を嫌っていて、店で使おうものならば舌打ちされること間違いなし。結果、魔法界のほとんどの人間は非魔法界の通貨を利用している。


「さぁ、それでは早速参りましょう!! それぞれ位置について、レッツ・クック・クレイジー!!」


 両替する場所や手数料なんかの問題もあるが、それでもお金はお金だ。しかも結構な高額。他のメンバー同様、私は心を燃えたぎらせながら材料の待つテーブルへと急いだ。





 初めてのパフェ作りは手を動かすだけで楽しかった。頭に思い描いた完成図がみるみる埋まっていくスピード感は、ケーキ作りともまた違う快感を得られるものだった。メインとなる材料選びは大事で、王道を好む私としては、やはり旬の材料に頼らざるを得なかったが、特に優勝候補のアシハラとは絶対に被らないように慎重に選んだつもりだ。調理中、後ろの方から『ポン』という何かが弾けるような爆発音がしたり、大賢者の『あっ』という不穏な声が聞こえたりもしたが、なんとか気を取られず自分のパフェを仕上げることに集中できた。真剣勝負の場で勝利を掴むためにも、残った時間は装飾に使わせてもらったが、あっという間に発表の時間となってしまった。


 中央の試食会専用テーブルに集まったメンバーが、クローシュというドーム型のカバーで自作のパフェを隠して順番に並べる。司会進行が再開されたのは、最後にゆっくりとやってきたソフィーさんが、自分の作品を並べてからだった。


「はいっ、それでは作品の発表の方に移りたいと思うんですが、その前にひとつ、悲しいお知らせがございます。レオナルド・セプティム・アレキサンダーさんは調理中に不慮の事故に見舞われたため、不戦敗ということになりました」

「えぇ!? 何があったんだよぉ!?」


 リアクションから何から、こういう時のキラの存在というのは本当にありがたい。おかげで悪名高い司会力を持つことで知られる大賢者でもポンポン話を進めてくれる。


「いやぁ、作業途中でね、サラマンダー君のかまってほしい病の発作が出ちゃって。器ごと燃やされちった。代わりといっては何だが、このコーヒーゼリー&ホイップをお食べなさい」


 すでに手元で露わにしていた皿を、大賢者はテーブルの中心へと雑に突き出した。全員のスプーンが伸びたのは、まさかのパフェ以外のものが最初となった。


「うまい!! けど、クリームがうまいだけだな!!」

「うむ! 俺はそれが伝えたかった!」

「ソフィー? どうしたんだ?」


 キラの無邪気な問いかけにソフィーさんは何も答えず、ただ気まずそうに自分の作品を披露しただけだった。姿をあらわしたのは大賢者と同じようなお皿で、そこには湯気立つさつまいもにホイップクリームが添えられたものが乗せられていた。


「ぶっふぉ!! レオと同じじゃん!!」

「おっと。これは……お前は、なんで、こうなっちゃったの?」


 キラが嬉しそうに囃し立てるのを、大賢者がすぐに彼女の口を手で塞ぐことによって止めた。私は五分五分の気持ちというか、二人が似た部分を持ち合わせているところが嬉しくもあり、大賢者と同じようなものを作ってしまったソフィーさんがへそを曲げないか不安に思う部分もあって、なるべくその思いを表情に出さないように努めるのが精いっぱいだった。


「お芋を焼いていたら、時間になっちゃったの。前にアシハラさんが作ってくれたやつが、すごく美味しくて。あの時、時間をかけてじっくり焼いていて、それを真似してたら……」

「そうだったのか。だけど、これも美味いけどね? このちょっとパサつきがちな芋を、添えられたクリームが喉を通しやすいように補ってくれるというか」


 ソフィーさんが爆発しないように頑張る大賢者。それは実に珍しい光景だった。


「私はアシハラさんが作ってくれた、あの焼き芋が作りたかったの。本当はクリームなんかいらない。もっとしっとりしていて、美味しいものが作れるはずだったのに」


 やばい。ソフィーさんに火が付き始めている。もはや時間の問題か。私がそう思ったところで、焼き芋という悪魔の食べ物をレオナルドファミリーに伝来させた男がようやく話に加わった。


「そんなに気に入ってくれていたとは、知りませんでした。ありがとうございます。次回は簡単に作れるように、専用の調理器具を手に入れておきますので、その時になったら改めて進上させていただきます」

「違うの。あなたの作ったのと、同じものじゃないと嫌なの。調理器具じゃダメなの」


 やっぱりダメか。いや、なんとか持ち直せるかもしれない。こうなってくると、アシハラの応対にすべてがかかってくる。こういった緊張感が味わえるのも、選手権大会ならではである。


「やはり、わかりますか。あの味が」

「だって全然違うんだもん。今度は私とチームを組んで、あの美味しいお芋、焼いてちょうだい」

「ええ、もちろん。奥様のためならば、喜んでそうさせていただきます」


 アシハラの落ち着いた口調とゆったりとした動作は、ソフィーさんに笑顔を取り戻させた。なんとか丸く収まったということだった。最初からソフィーさんにパフェを作る気がないとか、そもそも彼女はパフェという単語の意味すら知らなかったんじゃないかとか、そういう事はどうでもいい。ソフィーさんとアシハラ。実はこの二人、不倫してるんじゃないかと勘違いする人も出そうなくらい仲がいい。そういう一幕であった。

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