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甘い香りの『男』と『薔薇の紋章』

新作、短編です。ちょっと趣向を変えてみました。

 甘い、甘い香り。

 ドキッドキッっとその匂いに煽られるように鼓動が速くなっていく。


「やっと、やっと見つけた」


 突然背後から抱きしめられ、切なそうなテノールが耳元で囁かれゾクゾクっと全身に電流のようなものが駆け巡った。


 思考停止がどれくらい続いただろうか? 目の前にピンクダイヤモンドの瞳が覗き込んでいた。


「え? 誰?」


 抗い難い甘い香りから身を捩り抜け出そうとしてもガッツリと抱き込まれ身動きが取れない。


 声を上げようとしても甘い香りに翻弄されて何故か何もできない。


 仕方がなく、嵐が過ぎるのを待つかのように抵抗を止める。それがわかったのかフッと抱きしめられる腕の力が緩む。


「左手を前に出してみて」


 その声に従い左手を前に出す。自分の手の甲に薔薇の花のような紋が白く浮かんで見えた。



 何これ?


 疑問を声に発する間もなく、私の手の甲に誰かの大きな手の甲が重ねられると、赤い薔薇の紋章がパッと浮かんで消えた。


「やっぱり、僕のだ」


 僕の? え? 僕のって何よ、それ。

 反論しようと体を身じろがせた時


「何をしている」


 冷たく非難する、聞き馴染んだ声と共に強い力で私を後ろの男から引き剥がそうとする。


「殿下……」


 私の言葉に背後の男がぴくりと反応した。



「リアを離せ」


 後ろの男に命じているのは我がノイバード王国の王太子であるマクシミリアン・ノイバードだ。

 そして、見知らぬ男に背後から抱きすくめられ身動きが取れないでいる私は、この国の筆頭公爵家であるラルフレッド公爵家の長女フローリア。そして王太子マクシミリアンの筆頭婚約者候補だ。

 つまり王太子の婚約者候補である私が王太子の目の前で他の男性に背後からバックハグされている。

 しかも、王太子の命令に僅かに反応しながらも私を解放しない。そして、私を掴む王太子の手を振り払った。


 …… え? 王太子の手を振り払った? 何者?


「王太子殿下、このような状態で失礼します。ですが、やっと見つけた『私の番』なのです。離してしまえばどこかに再び隠されてしまうかもしれません。御前、どうか、ご容赦ください」


 番? その言葉にギョッとした私の反応に目の前にいるマクシミリアン王太子殿下が気まずそうに顔を顰めた。



 この国、ノイバード王国は神獣によって守護された初代国王が興したとされている。この国に生まれるものは全てその恩恵を受けているといわれ、特に祝福されているのが『番』という『唯一無二』の存在と『縁』を結ぶことで『聖力』の多い子供が生まれるとされている。そしてそれによって国が繁栄していくといわれ、何よりも優先事項とされていた。


 時と共にその血も薄れ、人々には単なる伝承とされてきたが、貴族、特に王家にとっては最も優先されるべきものと秘匿事項として受け継がれていた。

 とはいえ、国の運営は『政治』だ。いくら『番の恩恵』とはいえそれに振り回されては国を統治することもできない。


 そこで『番』よりも『政略』を優先するように特殊な『番システム』が構築された。


 いつ、どちらが先に『番』を認識するのか? 長い年月の中で導かれたのは、女性よりも男性。そして第二次性徴を迎えて以降、つまりは『精通』と『月経』だ。

 男性の『番』を探すための『フェロモン』に女性が反応を示すというものだとされていた。

 この為、『番システム』は王家の男子が『精通』を迎える前に『政略相手』である『婚約者候補』を優先的に選出する。そして『候補者』や『伴侶』とされる期間は『番認識阻害』魔法を掛けられるというのが「番システム」なのだ。それは『守護魔法』と共に常に『政略相手である王子』によって上書きされ『番』に認識できないようにされている。


 いや、されていたというべきか。何らかの都合で不具合が生じたのか……


 そうでなければ王太子の筆頭婚約者候補に『番』が現れるはずなどないからだ。




 王太子マクシミリアンの視線は彼の筆頭婚約者であるフローリア・ラルフレッドの左手の甲と彼女を後ろから抱きしめ離さない男の左手の甲に浮かんだ『薔薇の紋章』に釘付けになっていた。



 『薔薇の紋章』、俗に言われる『番の紋章』。

 聖獣が認める伴侶の証。祝福の紋章。神に定められた『番』。誰も引き離すことができず、『番の認証後』、それを阻めば禍が降りかかると云われている。

 つまり『番の認証前』ならば『番の認証阻害』も可能だが、それ以降であれば、何よりも『番』が優先される。

 つまり、それが王族の伴侶であれ、その候補であれだ。

 『薔薇の紋章』を持つ者は『番』以外を伴侶とすることは不可能になる。

 王太子マクシミリアンの筆頭婚約者候補であったラルフレッド公爵家のフローリア・ラルフレッドは『薔薇の紋章』を持った時点で自動的に筆頭婚約者候補から外されることになった。


「リア……」


 王家直系特有の金色の双眸が私の名前を呼び、私に手を伸ばそうとするが躊躇し手を下ろす。


 王家直系であればあるほど『番の祝福』が『国家安寧』に直結していることを知っている。

 『番の祝福』を受けしものがその国で平穏無事に暮らすことが『国』に『恩恵』をもたらすからだ。

 それには貴族も平民もない。従来の身分から解放され、『神獣に祝福されし者』とされ、国によって『守護』されるのだ。


 王太子である自分の目の前で、筆頭婚約者候補を奪った男は、名乗りもせず彼女と共に自分の目の前から去って行った。


 あの男は、確か……


 マクシミリアンは『青の王国騎士団』の騎士服を身に纏う、王国騎士団で有名な『桜の騎士』と呼ばれる桜色の毛髪と瞳を持つ男の背中を見送った。



 王宮の、本来ならば王太子と『婚約者候補達』とのお茶会に向かうために、『お花摘み』して廊下に出た直後、不意を突かれた形で『見つかった』フローリアは、迎えにきた王太子の目の前で攫われてしまった。というか、その男は彼女の手を引き、彼女の父親である前王弟、ラルフレッド公爵の執務室の前で立ち止まり、あっという間に入室の許可をとってしまった。



 フローリアにとっては馴染みのある執務室。

 執務机に座っている父は私の手をしっかりと握る『男』に視線を向けると一気に部屋の温度が下がった。


 『男』は私の手を握る力をギュッと強める。地味に痛い。


「一体、君は誰だ。何故、娘の手を握っている」


 ごくりと『男』の喉が鳴った。


「ラルフレッド公爵閣下、突然の訪問失礼します。私はイスタバル男爵の四男ルーカスと申します。この度、ご息女フローリア嬢と『番の認証』が相成りましたことをご報告に参った次第でございます」


 紳士の礼を取り、毅然とした言葉と態度で父である公爵に対峙する『男』…… 名乗りを上げた今ではルーカス・イスタバル。

 その発せられた言葉に準王族である父、アレクシス・ラルフレッドも驚愕を隠せなかった。


「番だと? フローリアには『番阻害』がかけられているはず……」


 そう言葉に出しながら、娘とルーカスと名乗る『男』の左手の甲に浮かんだ『薔薇の紋章』を目に留めると執務机から慌てて立ち上がり、二人に近づき、確認するかのように二人の手を取り『紋章』を食い入るようにみた。

 沈黙の後、何ともいえない表情を浮かべ、片手で額をさすりながら、執務室でひたすら空気のように気配を消している側近へ


「ファビアンを執務室に来るように呼んでくれ、それと今見聞きしたことは他言無用だ」


 アレクシスは大きなため息をついた後、執務机の前のソファーに座るように娘と男に指示をする。


「イスタバル男爵といえば、確かウェスバルト侯爵の……」


「はい、そうです」


「君が今身に纏っているのは『青の騎士団』の制服だね……」


 肯定する、ルーカスと名乗る男をフローリアは観察した。

 自分の『番』……


 『青の騎士団』は下級貴族の子息の爵位を受け継ぐことができない者達で構成されていると以前聞いたことがある。

 『騎士爵を得るために』と兄である次期公爵ファビアン・ラルフレッドも言っていた。


 『王宮騎士団』は四つあり、『赤』は『近衛騎士団』、『白』は『上級貴族』、『青』は『下級貴族』、そして『緑』は『平民』によって構成されている。但し、いずれの騎士団も『魔法』が一定以上のレベルで使用できることが絶対条件となっている。仮に『魔力』があっても『魔法』(実践)が使えなければ入団できないのだ。


 ピンク色の緩くウエーブのかかった頭髪にピンク色の瞳。容貌は『容貌も加味されるといわれる近衛騎士団』でも即合格できるんじゃないかと思うくらい整っているし、表情も中性的で優しそうだ。

とてもじゃないが初見の女性に対して突然バックハグしたり、王太子や父である公爵相手に一歩も譲らず対峙するようには見えない。

 甘いマスクなのに凛としたルーカス卿についつい目が入ってしまう。

 男性なのにピンクピンクしてるっていうのも何だか可愛らしい。

 甘い香りが妙に気持ちを浮き立てるのか、ずっと握りしめられている手に目線をやった。



 いや、緊張してるのかな、握りしめた私の手を離す気配がない。

 剣だこで固いけれどすっと綺麗な指をしているんだな。

 見た目は中性ぽいのに手は大きく私の手を包み込むように握りしめている。


 手フェチの自分としては合格点だ。


 ソファーに横に並んで座り、父は再び執務机で仕事を再開している。ものすごい集中力で、ガンガン仕事している。かなり積み重ねられていた書類の山がみるみる処理されていく。早い、早すぎる。ペン先を走らせる音だけが執務室に響いている。


 怒ってる? お父様、怒ってるよね。


 黙々と仕事をこなす父の様子を横目に入れながら、そっと小さく息を吐いた。




 ラルフレッド公爵家のフローリア・ラルフレッドは前王弟であり、現ラルフレッド公爵であるアレクシス・ラルフレッドの二男一女、つまり一人娘だ。現在十七歳。

 四歳上の兄ファビアンと双子の兄ラファエルがいる。

 同じ年の王太子マクシミリアンの筆頭婚約者候補になったのは十歳の時。王宮で開かれた側近や婚約者候補選抜のための『お茶会』だった。当時婚約者候補に選ばれたのは王太子の年齢差前後三歳。最初の候補は二十人くらいいた。しかし、四、五年も経つと四分の一くらいまでに絞られ、現在はフローリアを含め四人に絞られていた。

 さらに一月後に予定されている『婚約者選定』を待つのみとなっていた。

 現時点で四つある公爵家から二名、六つある侯爵家から二名だった。

 ここで、最有力候補と云われていた『フローリア』が『番』出現により『辞退』することになるのだが……


 『王太子妃』になると腹を括っていた分、正直いえば呆気なさすぎる幕切れだ。

 でも、どこともなく『予感』めいたものがあった。


 そう…… 『予感』だ。



 実はフローリアには前世の記憶ぽいのがある。

 十二歳になった頃、タチの悪い風邪が王国で流行した。それに罹患し、肺炎を起こし、あわやという事態になった。

 高熱でうなされている最中、見た事もない世界を垣間見たのだ。鉄の塊が空を飛び、海に浮かんでいる。蛇のような金属の長い箱の中にぎゅうぎゅう詰めに人が乗り込み、馬よりも早く移動していく。掌サイズの長方形の何かをいじっている姿。

 その夢の中では『私』はいわゆる『職業婦人』で二十歳半ばで未婚。

 恋人は二次元。ゲーム、漫画、小説なんでもござれ『腐女子』に分類されていたように思う。

 その流れは現在も心の中に密かに芽吹いてはいるのだけれど……


 十二歳までの公爵令嬢としての淑女教育と相反するような『前世の記憶』。混乱しながらも何とか自身を納得させて生きてきたけれど……

 その上さらに『番』? キャパ超えるよ、流石に。


 自分の隣に座っているピンクピンクの美青年。ピンクピンクって『異世界もの』の定番じゃないかとふと過ってしまった。フラグ立ててしまったかな。

 いや、でも、こんな話読んだ事もゲームした事もないんだけれど。




いつもお読みいただきありがとうございます。

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