1+1=
多分中3で書きました。
完全オリジナルです。
「1+1=?」
また来た。本当にめんどくさい。
「2。」
「ブッブー。正解は田んぼの『田』でしたー。」
そう言うと春くんはいつものように私が文句を言う前に、校門をくぐって校舎に向かって走っていく。何なんだ、もう。
私の一日は溜め息で始まる。
私は転校生だ。最初は不安だらけだったが、友達もでき、学校にも慣れてきた。今ではとても楽しい日々を過ごしている。
しかし、私には一つだけ悩みがある。それは、「友達を呼び捨てで呼べない」こと。
前の学校では、男子同士でも女子同士でも全員、必ず「くん」か「さん」をつけて呼んでいた。それが暗黙のルールのようなものだった。
それが普通だと思っていた。だからほぼ全員が呼び捨てでお互いを呼び合うこの学校に転校して、合わせようとして呼び捨てで呼ぼうとしても、どうしても口ごもってしまう。友達は自分を呼び捨てで呼んでくれているため、申し訳なくなる。
そんなある日、ある友達と喧嘩をした。喧嘩を出来るほど親密な関係が築けているのだ。怒りながらもどこかでそう感じている自分がいた。だから、その子から言った言葉は深く刺さった。
「あやっていつも私達を『さん』付けで呼ぶよね。本当は友達って思っていないんだよね。」
次の日は学校へ行く足どりが重かった。空はアスファルトのように黒い雲で、まるで私を閉じ込めているようだった。
「1+1=」
いつものように春くんが来た。気分は最悪だった。
私は俯いたまま無視することに決めた。
「どうした。元気無いなぁ。あ、分かった。傘忘れたんだろ。」
「違う。」
ついポツリと口を出た。そこからは自分でもびっくりするくらいスラスラと言葉が出た。
「いや、私、前の学校のせいで友達を呼び捨てにすることが出来なくて。ほら、春くんのこともいっつも春『くん』じゃん?みんなは呼び捨てしてくれてるのに、申し訳ないのに、どうしてもできなくて。それが、嫌で。」
全部吐き出したあとは少しスッキリした。誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
春くんは急に喋り始めた私に少し呆気にとられてたようだが、その顔はなにか苦い物でも噛んだかのように、困惑した表情に変わった。そして言った。
「呼び方なんてどうでもいいじゃん。友達なら。」
春くんはにっこり笑って、
「あ、俺たちはマブダチな。」
と言った。
呼び方なんてどうでもいい。
マブダチ。
「ほら、1+1=?あ、まさか降参か?いっつも不正解だもんな。」
ああもう、本当にめんどくさい。
「田んぼの『田』。」
私はゆっくりと振り返って言った。
別に見られてもいい。マブダチになら。春になら。
春は私の顔を見て少し驚いたようだけど、すぐにいつものようにニヤリと笑う。そして、
「正解。」
とだけ言うと、また校門をくぐって校舎に走って言った。
何なんだ、もう。
私はまだ赤い目のまま歩きだした。空は晴れ間が見えてきたようだった。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
あまり経験の無い設定で共感は難しいかと思いますが、こういう人もいるということを。