第3回─永夜の国
女の子は好奇心いっぱいで老爺さんに続き、外へと足を運んだ。顔に感じる海風は、ほんのり塩味を帯びた清々しい涼しさだった。
老爺さんが指差した海辺に目を移すと、遠くの海面に小さな渦がゆっくりと形成されているのが見えた。
渦が次第に勢いを増し、海水がうねり始めると、突然、巨大な水柱が海面から空高く立ち上がった。
「それは……?」女の子は目を見開き、この信じられない光景に釘付けになった。
「これが毎年この時期に見られる特有の光景なんじゃよ。」老爺さんは、わずかに神秘的な表情で説明した。
「この竜巻は海底からいろんな魚や貝を巻き上げ、陸へと運んでくるんじゃ。ほら、もう飛び魚が見えるじゃろう。」
その通り、上昇する水柱と共に、無数の飛び魚が銀色の矢のように水面を突き抜け、空に優雅な弧を描きながら、岸辺に静かに落ちていった。
さらに、珍しい貝殻や巻貝も一緒に巻き上げられ、砂浜の上で太陽を反射してきらきらと輝いていた。
女の子は驚きで口元を押さえ、この壮観を見逃すまいと夢中で見つめていた。
「これ……本当にすごい!おじいさん、この海には不思議な力がたくさんあるんだね!」
老爺さんは微笑んで頷いた。「そうじゃ。毎年この光景を見るたびに、若い頃の不思議な日々を思い出すんじゃ。ここにある海水も風も、すべてがまるで無数の物語を秘めておるようじゃよ。」
二人は岸辺でいくつかの飛び魚や貝を拾い集め、満足そうな笑顔を浮かべながら小屋に戻った。
海の恵みで贅沢な昼食を作ろうと準備を始める中で、女の子の思考は再び老爺さんが話していた物語に引き戻された。
「おじいさん、それで……レイリスとヴィガはどうなったの?二人は無事だったの?」女の子は声を震わせながら、心配そうに尋ねた。
老爺さんは手にしていたカップを置き、静かに頷きながら、意味深長な笑みを浮かべた。
「レイリスとヴィガは多くの困難に立ち向かったが、その絆はさらに強くなったんじゃよ……」彼の声は低く、まるで遠い記憶を思い返すかのように静かに語られた。
「その日、二人は濃霧に覆われた森へと足を踏み入れたんじゃ。レイリスは微かな光を灯しながら前を進み、ヴィガはその後ろを行き、両手で荷物をしっかりと握りしめていた。森の奥に広がる闇と静けさは、何か不吉なことが起こりそうな気配を漂わせておった……」老爺さんはそこで言葉を切り、女の子は息を飲んで続きを待った。
「突然、レイリスの光がまるで何者かに奪われたかのように、瞬く間に消え失せ、彼女の姿は闇の中でぼんやりと見えなくなっていったんじゃ。『レイリス!』とヴィガは焦って叫んだが、その声は夜の闇に飲み込まれ、ただのこだましただけじゃ……」
「知っておるか?」老爺さんは静かにため息をつき、続けた。「実は、レイリスは今の両親の実の子ではないんじゃ。彼女の本当の出自は、永夜の国の奥深くに隠されておるんじゃよ。」
「永夜の国?」女の子は驚いたように尋ねた。
「そうじゃ。」老爺さんは窓の外を飛ぶ渡り鳥を見つめながら頷いた。
「あの国は、世界の果てに位置し、永遠の闇に包まれた神秘的な場所なんじゃ。実はレイリスはその国の姫君じゃったが、何か秘密の理由で、彼女はこの世界に連れて来られ、今の両親に養子として迎えられたんじゃ。」
「それで、本当の両親はどうしたの?」女の子は疑問に思わず聞いた。
老爺さんの目は遠くを見つめるように深く沈み、昔を懐かしむように答えた。
「彼女の本当の両親は、永夜の国の支配者で、夜と星を操る力を持っておった。しかし、彼らは知っておったんじゃ。レイリスの未来はその国には属しておらんことを。彼女は特別な道を歩む運命にあると。だから彼女を守るため、遠くこの地に送り、彼女が闇の勢力から遠ざかるよう願ったんじゃ……」
「だから……レイリスが黒い穴が追いかけてくるって言ってたの?」女の子はようやくその意味を理解し始めた。
「そうじゃ。」老爺さんは一口の茶を飲みながら続けた。
「それが彼女の力の一部で、永夜の国が彼女に残した唯一の印なんじゃよ。だからこそ、彼女の運命は永夜の国と深く結びついており、これこそが彼女が今生で向き合わなければならない挑戦なんじゃ。」
女の子はそれを聞いて静かに沈黙した。彼女には、そんな運命を背負ったレイリスがどうやってこれからの試練に立ち向かうのか、到底想像がつかなかった。
彼女は、この物語が自分が思っていた以上に複雑であることを悟った。
老爺さんは考え込む女の子を見て、微笑みながら温かな手で肩を軽く叩いた。
「お嬢ちゃん、この物語は確かに簡単ではない。しかし、時には物語というものはゆっくりと語られることで、その奥深さをより感じ取れるものなんじゃ。」
女の子は顔を上げ、老爺さんが少し疲れた様子をしているのを見て、心の中に温かい感情が広がった。
彼女は老爺さんがずっと話をしてくれたことを感じ、きっと彼も疲れているだろうと思った。
「おじいさん、少しお疲れじゃない?」女の子は優しく問いかけた。
老爺さんは微笑みながら頷いた。「ああ、確かに年を取ると、長く話すのは少し堪える。しかし、夕暮れ時には、この物語がより美しく響くんじゃよ。」
女の子は頷き、老爺さんが休む必要があることを理解した。彼女はそっと老爺さんを支え、二人は一緒に小屋のソファへと向かった。
「じゃあ、夕暮れまで待って、また続きを聞かせてもらうね。」女の子は言い、期待に満ちた眼差しで微笑んだ。
老爺さんは微笑み返し、ソファに腰掛け、目を閉じて少しの間休もうとしていた。
窓の外から陽の光が差し込み、老爺さんと女の子を照らし、部屋の中は格別な温もりに包まれていた。
女の子はそっと窓の方へ歩み寄り、遠くの海を眺めながら、心の中で老爺さんの話を静かに思い返していた。
彼女は知っていた。黄昏が訪れれば、もっと多くの答えが明かされるだろう。そしてその時、彼女は真実にさらに近づくに違いない。
屋外では、依然として海風が穏やかに吹き続け、時間がこの瞬間に止まっているかのように感じられた。黄昏の到来を待ち望んでいるかのようだった。