第2回─旅行
少女は窓の隙間から差し込む光の塵を見つめながら、ふと考え込んで目を閉じた。
「どうしたんだい?パンとミルク、口に合わなかったのかい?」と老人が優しく問いかける。
「ううん、そんなことないの。昨夜、おじいさんが話してくれたことを考えてたの。あの男の子の光がもし消えたり、誰かに奪われちゃったら……彼は星の国に帰れなくなるんじゃない?どうなるんだろう……」と、少女は心配そうに言葉を漏らした。
老人はその言葉を聞いて、少し遠くを見つめながら黙り込んだ。その時、珍しい紫と青の鼻鳥が天井の隙間からひょいと飛び込み、老人の肩にちょこんと止まった。老人はそっと鼻鳥の頭を撫でると、鼻鳥は安心したように羽を少し動かし、目を閉じて肩の上で休み始めた。
「この鳥、すごく綺麗……」少女がつぶやきかけた瞬間、老人は素早く彼女の口を軽く押さえ、「静かに。この子は『鼻鳥』っていうんだ。とても臆病だから、驚かせると疲れるまで飛び回っちゃうんだよ」と優しく諭した。
少女は驚いた表情で目を丸くして、この小さな鳥をじっと見つめていた。
老人はその様子を見て微笑む。「さあ、パンが冷めないうちに食べておきなさい。昨日の話の続きだけど、あの男の子と女の子は特に行き先も決めず、二人で旅に出たんだ。手を取り合いながら、森の方へと歩いていったんだよ」
「この場所、暗くて怖いよ……」女の子は小さな声で呟いた。
「僕の手を握って、心の中で光を想像してごらん」男の子は優しい口調で言う。
女の子が男の子の手を握ると、彼の手のひらから淡い光がゆっくりと立ちのぼり、その光の粒が女の子の腕を包んでいった。
「ありがとう、ヴィガ」女の子はふっと微笑んだ。
ヴィガは驚いたように目を大きく見開いて彼女を見つめている。
「どうしてそんなに驚いてるの?」女の子はくすくす笑いながら尋ねた。
「いや……君が、さっき僕に『ありがとう』って……それに……」ヴィガは言葉に詰まる。
「それに、何?」と、女の子がからかうように返す。
「僕の名前……呼んでくれた……」ヴィガは少し照れた様子でぽつりとつぶやいた。
女の子はいたずらっぽく笑って、「じゃあ、これからは『おい』って呼んであげるわね!」
「いや、それはだめ……僕はその名前、好きなんだ……」ヴィガは慌てて手を振りながら否定した。
「じゃあ、決まりね!これからはあなたはヴィガ、そして私はレイリスよ」女の子は嬉しそうに頷いた。
「レイリス……」ヴィガは小さな声で反復する。
「さあ、行こう!ヴィガ、森の中に何があるか見に行こうよ!」レイリスは光を振りかざし、笑いながら走り出した。
「待って、レイリス!」ヴィガは必死に追いかける。
暗い森の中、ヴィガがやっとレイリスの姿を見つけたその瞬間、彼女の光が弱まり、レイリスの驚いた表情がヴィガの目に映った。
「レイリス!」ヴィガは闇の中で叫んだが、返事はなく、風が木々を揺らす音だけが耳に届いた。
「おじいさん!レイリスはどうなったの!?早く続きを教えてよ!」と、少女は老人を強く揺さぶる。
老人は驚いてお茶をこぼしそうになり、「あいたたた」と声を漏らしながら、手を振りつつ苦笑いを浮かべた。
「ごめんなさい、おじいさん、大丈夫?火傷してない?」少女は慌てた様子で尋ねた。
「大丈夫、大丈夫、こんな小さなやけどなんて何ともないさ」と、老人は微笑んで答えた。
「さて、今日はちょうどお昼になると、海の竜巻が魚を陸まで運んでくるんだ。見に行ってみようか?」老人が提案すると、少女は驚いた顔で、「え、本当に?魚がここに?」と目を丸くする。
「そうさ、ついておいで」老人は優しい笑みを浮かべながら、外を指差した。
二人は庭を通り抜け、古い階段を下りて行くと、そこにはたくさんの魚が地面で跳ねていた。
「わあ、すごい!本当にいるんだ!」少女は目を輝かせた。
「さあ、この魚を持って帰ろう。昼ご飯を食べた後で、レイリスとヴィガの話の続きをしてあげるよ」と、老人は微笑んで言った。
太陽が真上に昇り、海辺の小屋からは美味しそうな香りが漂っていた。
二人の出会いが紡ぐこの物語は、どんな未来へと繋がっていくのだろう——それはまだ誰も知らない。