第十二回─2の試練
レイリスは少し顔を上げ、懐かしそうに微笑みながらヴィガに問いかけた。
「あの海辺の小屋、覚えてる?私たち、あそこで少しの間、暮らしてたよね。」
ヴィガも微笑みながら頷いた。
「もちろん覚えてるさ。鼻鳥がいつも小屋の周りを飛び回っていて、まるで僕たちに挨拶しているみたいだったよ。」
レイリスは笑いながら続けた。
「それから、海の中の竜巻ね。毎回、新鮮な魚や貝を砂浜いっぱいに運んでくれて、私たちは苦労せずに海鮮のごちそうを楽しめた。」
ヴィガは声を上げて笑い、その日々を思い返した。
「そうだね。毎朝、竜巻が運んでくれた魚を拾いに行って、見たこともないような不思議な貝まであったよ。」
レイリスはそっとため息をつき、目に優しさを浮かべながら言った。
「あの頃は本当に無憂無慮で、世界には私たちとあの海だけが残っているように感じたわ。」
レイリスはほほえみ、温かな思い出を振り返りながら続けた。
「朝一番に目覚めたときの温かいミルクが一番好きだった。あなたはいつも私が目を覚ます前にそっと準備してくれて、目を開けるとその温かな香りが漂ってきたの。」
ヴィガもまた優しい声でほほえんだ。
「君がそんな朝の始まりを一番喜ぶことを知ってたよ。あれは僕にとっても一日で最も楽しみにしている瞬間だった。君が幸せそうに温かいミルクを飲む姿を見ると、心が満たされるんだ。」
レイリスは静かにヴィガを見つめ、心の中に温もりが満ちていくのを感じた。まるであの頃の平穏と幸せが今また目の前に戻ってきたかのようだった。
二人は冷たく暗い宮殿に座っていたが、共にした思い出と積み重ねてきた経験が、まるで宮殿全体に温かな光を注ぎ込んでいるかのようだった。かつて共に過ごした日々の一つひとつが星のように輝き、暗闇を払い、この冷えた空間を温かく柔らかなものに変えていた。
ヴィガはそっとレイリスの手を握り、優しくほほえみながら言った。
「ここがどれだけ寂しくても、君がいればもう寂しくはないよ。」
レイリスは小さくうなずき、彼に寄り添いながら囁いた。
「ええ、私たちが一緒にいる限り、どこでも暖かく感じるわ。」
二人が互いの温もりに浸っているそのとき、突然遠くの空間から陰気な女の声が響き、静寂を破った。
「それならば、永遠に離れ離れになるがいい!ハハハ——」
その声は非常に陰険な笑みを帯び、まるで暗黒の深淵から響き渡るように宮殿全体にこだまし、ぞっとするほど冷たかった。
レイリスは激しく顔を上げたが、周囲には尽きることのない暗闇が広がり、何も見えない。ただ、ヴィガの手をしっかりと握りしめる中で、胸に一抹の不安がよぎった。
彼女がヴィガをしっかりと握りしめたその瞬間、彼女は指先に異様な冷たさを感じた。視線を下に向けると、ヴィガの姿が彼女の目の前で冷たい石像と化し、彼の温もりを感じさせる姿がそのまま凍り付いてしまった。
「ヴィガ!」レイリスは思わず声をあげ、石像を揺り動かそうとするが、どんなに努力してもヴィガはびくともしない。冷たく硬いその姿を前に、彼女の心には恐怖と悲しみが押し寄せ、唯一の温もりを奪い去られた喪失感が広がるばかりだった。
「ハハハ——」その陰険な笑い声が再び響き、無情な嘲笑を含んでいた。「これが運命の定めだ。どんなにもがこうと、結果は変わらない!」
宮殿内の揺れがますます激しくなり、周囲の壁にひびが入り、大きな石片が高所から次々と落下し始めた。暗闇に包まれたこの空間は、抗えない破滅的な力に応じているかのようだった。
揺れが収まると、レイリスは思わず目を見開き、周囲の景色が一瞬にして歪むように感じられた。彼女が目を上げると、かつてすぐ目の前にあった暗黒の扉が今や遥か高空に浮かび、冷たい光を放ちながら、まるで高所から彼女の一挙手一投足をじっと見つめているかのように思えた。
レイリスは冷たい石像を優しく撫で、その心は目に見えない鎖で縛られているように感じ、息が詰まる思いだった。しかし、彼女はその痛みを自分に飲み込ませはしなかった。ヴィガがかつて「君の心の光を信じて」と言った言葉が、今、彼女の耳に灯台のように響いていたのだ。
不安を感じながらも、レイリスは一層強い決意で高空に暗い気配を放つ扉を見据えた。彼女は目を閉じ、深く息を吸い込んでから、再びその遥か彼方の扉を見つめながら呟いた。「どんな試練があったって、絶対に乗り越えてみせる。ヴィガ、私たち、絶対に一緒にここから抜け出すんだから!」
その時、彼女を優しく抱き上げるような無形の力が現れ、彼女は徐々に高空にある扉へと近づいていった。足元から青い光が淡く浮かび上がるのを感じながら、「ヴィガ……あなた……」彼女の心の光が石像と化したヴィガに呼びかけ、彼は最後の一筋の星の輝きをもって二人を空高く押し上げた。レイリスは自分が独りではないことを感じ、涙を湛えた目でヴィガの石像をしっかりと抱きしめた。冷たい風が顔に吹き付ける中で、彼女は絶対に最も大切で愛する人を救う決意を胸に、絶望に屈することなく前進していた。
扉は彼女の決意を感じ取ったかのように、不吉な赤い光に包まれた空間に鋭い笑い声が響き渡る。扉に近づくにつれ、その光はますます強烈に輝き出し、周囲は不吉な赤に染まっていった。しかし、レイリスは後ずさりすることなく、むしろ未知の闇に向かって強い意志を持って進み続けた。心にはただ一つの信念——ヴィガを救い、この宿命の鎖を打ち破る。