星詠みの境遇は不憫
お読み頂き有難う御座います。
星詠みとご対面です。
推しの強すぎるハルミナ姉様から、つい星詠みを引き取ってしまった……。
勇者ではなく。
いや、アイツを矯正して良い奴にカスタマイズするのは、どう考えても無理だけどね。スパダリ改造にはスーパーハイスペックが要るわ。
……案外、口は悪すぎるけど、ハルミナ姉様なら良い感じに善性を盛り付けて、カラフル良い人にカスタマイズしてくれるかしら。
……ごぐぐううー。
考えてたら……私のお腹の音とデュエットしてるじゃないの。余程減ってるのかー。あのグリフォン籠の中で何か食べさせて貰えてないの? 何て事! 虐待だわ!
……そして私もお腹減ったわ……。一緒に食べましょう。さっに朝ごはんだったけど、少しなら……いいわよね、多分。
「……取り敢えず、お風呂に入らせてご飯にしましょうか。私も食べるわ」
「えっ、本当に姫様がこの……者をお世話なさるのですか?」
「文句有る?」
「い、いえとんでもない……」
まあ、侍女が躊躇うのも分かるほど滅茶苦茶小汚いのよね……。この星詠み。
勇者の方はそうでもなかったのに……。陰で甚振られてる予感がするわね。しかも、抵抗しない感じの……。
星詠みなのにこのいい加減な扱いはどう言うことなのよ。いや、星詠みが何だか良く解ってないけど将来高給取りになるなら、稼ぎ頭でしょ? 大切にしなさいよね……。
全く、運んできた部署何処なのかしら。後でクレームと文句をしこたま言わないと。
この辺、ホノリアである私の性格悪いからズケズケ文句は言えそうね。ハルミナ姉様以外に居丈高に振る舞えて気が強くて良かったわ。
「……何だよアンタ……」
言い方が実に捻くれ少年の気配ね……。
「私は第四皇女ホノリア。今日からお前のお世話を担当するようハルミナ姉様に仰せつかったわ」
「……」
威嚇されてるのか驚いてるのか判断しにくい目の剥き方ね……。敵意は……判らんわね。私ったら何せ甘やかされた幼児だもの。イマイチこう、危険センサーが働かないわ……。ロースペックだなあ……。
「……ねえちょっと、其処の黒い服で暗い顔の庶民。聞いてるの?」
「……な、何だよアンタ……失礼だな。黒は汚れが目立たなくて良いんだぞ」
洗濯物はとしての黒なんて聞いてないってのよ。大体直ぐに褪せるのよ黒は。……服のコンディションも良くないみたいね。どんな扱いしてんのよ。
「名前を聞いてるのよ」
「無いよ、そんなの……」
「無いの!?」
「……悪かったな」
「いえ、悪くないけど。不便ね」
「ふ、不便……なのか?」
「不便に決まってるでしょ。ひとと生まれたからには、名前がないと不便だわ! 尊厳もへったくれも無いじゃないの! そんな人生、このホノリアの前では認めないわよ!」
「……」
いや、そんな嘘極まりない奴めみたいな目で見られても……。
人間不信なのかしら。
ちょっと大きく言い過ぎたかな。うう、遅れて照れが来たわね。汗が酷いな。
「取り敢えず、お風呂に入って来なさいよ。私が名前の候補を決めておくわ」
「候補……? アンタが付けるんじゃなくて」
「好みとかあるでしょうが。四の五の言わずに入りなさいよね!」
部屋に付いてるお風呂の方にグイグイ押しやったら、滅茶苦茶背骨が手に当たる! このぷにぷにハンドで触ってるから尚のこと痛々しい!
痩せすぎよ!
「姫様……。やはり、姫様ご自身が面倒を見られずとも……」
「……あの少年が着れそうな服って用意出来る、わよね?」
「は、はい。只今!」
「後、ドロドロ系のご飯が良いわ。暫くあの子と私のご飯はお粥ね」
「か、畏まりました……」
ワラワラ支度してるわ。取り敢えず、私のワガママで通せそうだけど。
ワガママ系で良かった。
……ハルミナ姉様の方はどうなってるのかしら。あまり勇者と一緒にさせたかないのよね。私にも破滅的未来が待ってそうだから絡みたくないし。
あ、星詠みの名前どうしよう。何かないかなー。家探し家探しー。
「……」
其の辺に……童話が転がってたわ。
私の記憶から捻りだした名前だと……ネーミングセンス無いのよねえ。星詠み……。星男は流石にないわ。
えーと、この童話は、5匹のグリフォンの話か。
エマヌエル……。
ボボ……。
ムームー……。
トニオ……。
ポンポカ……。
人名に向かない系の名前が多いわね。
エマヌエルか、トニオかしら。
「……風呂、めっちゃ広い」
「あら、出たの」
バスローブ的な布でぐるぐる巻きにされてるわね。
血色も良くなったみたいで、青い目に少し光が差してる。昨日見た星のようね。此処の世界の星って、青いのが多いみたい。
「ねえ、名前ってボボかエマヌエル」
「エマヌエルで! 何だよそのグリフォンみたいな名前!」
……まあ、そりゃそうか。
ボボって、グリフォンのメジャーネームなのかしら。
でもエマヌエルも、この童話ではグリフォンの名前だって言わない方が良いかしらね。
「ん?」
……視線を感じる。
まあ、此処はあんまりドアとか無くて布で仕切って何処もかしこも開けっ放しだから、プライバシー無いのよね。
……誰だろ。もうちょっと悪意を感じ取れるスペックが身に付くと良いんだけどな……。
「聞いてんのか、ホノリア」
「少年! 姫様に対して」
「ええ、別にいいわ。ホノリアで」
視線が、何処かに行って紛れてしまった……。
一体誰なのかしら。文句が有るなら言ってくりゃいいけど、拗れそうだなあ……。
砂漠は暑いので其処此処開けっ放しなようです。内緒話には向かないですね。