こんな終わり方、許すまじ!
沢山の素敵な作品の数々からお読み頂き有難う御座います。
ちょっと不思議な砂漠の国が舞台の漫画の陰険な皇女(中盤で棄てられる)に転生した主人公が原作回避に挑むお話で御座います。
「私が勇者様の御子を産んであげるわ! 側女の母親の娘なんかよりも、崇高で麗しく高貴なる血の私が!」
「すまない、イサ。俺は、ホノリアを愛してしまったんだ」
矢鱈シャラシャラした使いづらそうな飾りだらけで豪華な家具だらけの割に、灯りは少なく暗い部屋。
床に座り込んだ女を仁王立ちで罵っているド派手ボリューミー女がいる。何故か男を背にして……コイツは彼氏? それにしては……ニヤついてるな。
衣装は……布がたっぷりめの、洋風? で、滅茶苦茶豪華。華やかな場の筈なのに、漂う空気は重い。
これは……まさか、婚約破棄現場? しかも一方的な。
わー、引くわー酷すぎな展開ー。何処の漫画のヒドインかしら。悪夢? 悪夢よね。詰め寄られた座り込んでる女性、滅茶苦茶泣いてるし。
……。
…………?
私、もしかして傍観者じゃない? もしかして主観で見てる?
この、やたら派手な服の感触とか腕に触れるレースのザラザラが何だかリアルね。踏みしめた大地がグラグラするわ。
……ちょっとばかりコケそうよ。この、ツルツルした中敷きの靴から足が滑ってはみ出しそうな感覚が、とってもリアル。
「って!」
ダイレクトに自分の足で痛みを感じる!
まさか、コレ夢じゃない!? この目に映る体型……コレは元からか。腕肉と手が……ちょーっと記憶の中の自分よりほんの少しポチャっとして太ましいわね。
「ホノリア……。君は優しいね。そんなに泣かなくても」
「……」
後ろから誰じゃ貴様は。
それに、泣いてない。狼狽えて挙動不審になって顔つねりかけて擦ったただけよ。
いや、落ち着いて考えたら……ん?
ホノリア?
ざあっと血の気が失せる音がしたのが、耳の奥で聞こえた。
嘘でしょ?
この体型、このドレス、この声、この体型!(2回言う)
まさか私ってば、横四皇女こと、ホノリアではないの!?
横取り横恋慕横入り横槍横幅……おい、最後!
横紙破りは和紙が無いから付かなかったのね。
しかもどうでもいいけど横が5つ有るわよ! ふざけんな!
って、さっきは動いた筈の何故か体が動かない!
コレって、まさか人気漫画『勇者と真実のラバーズ』!?
略してユシバズ! そう、『油脂バズ』ってコレステロール爆上がりそうな略称で呼ばれてたっけ……。
……えーと、他には……! んん!? そうと認識したら動けないって何よ!? 嫌な明晰夢ね!
「勇者様、ホノリア、どうして……」
イサ姉様が泣いている。あの、冷静沈着なイサ姉様が。
誰、イサ姉様って。知らない、登場人物よね? 思い出せ思い出せー!
「ふんっ、ワタクシの決めた事にグチャグチャ言わないでくれる? ノッペリ地味でガリガリ無価値なお姉様の分際で!」
勝手に口から漏れ出す酷い言葉!
しかもこんなに泣いてる人の前で罵る私ったら、何の痛痒を感じていない、みたい。それ所か、滅茶苦茶高揚していい気になっているみたいよ。人でなしか。
こんなに内面オロオロオタオタしてるのに? え、二重人格? ダブル内面人格発見? いい大人になってから今更? くそう、さっきみたいにコケそうでもいいから動いて私のボディ!
動かない! さっきより格段に冗談抜きで重たいな!
やばーい。
……滅茶苦茶嫌な予感しかしないわ。
「皇女殿下、ご無事ですか!?」
で、嫌な予感は大当たり。
王家肝入り鳴り物入りの婚約破棄が認められる訳もなく、ドヤドヤドヤっと兵士に囲まれてね。
そうして、横着で横柄なホノリアは、何でか市井に放り出され、炊き出しの列に横入りした罪で横死するのよ。
「んごお……」
したのよ。酷いな断末魔。
あ、罪人墓地の横に放置されてる。
……どんだけ横を乗せてくんのよ。泣くわよ。四はどうしたのよ。
あー、記憶が鮮明になってきた。嫌だー!
しかも、勇者は逃げ延びるのよ。
ホノリアと組んだ同罪なのに。
視えるわ、何故か死んだのに展開が視えるわ。
前世知識かしら。遅いわ。
急に出てきた新ヒロインと急に仲良しこよしでスピードエンディングしちゃってるわね。
殺意の波動が芽生えそうね。芽生えて芽生え過ぎで最早大森林よ。
えーと、兎に角私は王都近くの村の生まれの勇者様とやらに横恋慕してヒロイン(第一皇女)に横槍を入れまくり、挙げ句横取りする横幅の有る(以下略)皇女に転生してたみたい。
渾名はさっきも思い出した通りに『横四皇女』
まあ、やらかしは四どころじゃないけど!
でもこの渾名嫌すぎる。
何だこの悪辣な生まれ具合。私は前世で何の罪を犯したの? 漫画チックな夢見てるだけでしょ!?
夢なら醒めて! 早く醒めてよ!
今から善人になるから! 横だらけのロースペックだけど、有り余るロイヤルパワーで不幸な人をちょびっと救ってみせるから! 高望みは無理よ、ロースペックだから!
どうしたらいいのよ。夢から醒めるには、手足を振り回し……!?
横に溢れた人生だったようです。