突然の死
とある店が、最近噂になっている。突如として現れ、数日で姿を消すその店は、ロスト・ショップと呼ばれていた。
売っている商品や店員はおろか、どうやってその店に行ったかもわからないそうだ。そして、【ロスト・ショップ】に目をつけられたものは、この世界には帰ってこない。
その店は、私たちの街にも来ていた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「…ないないってー!」
アハハッという甲高い笑い声がクラスに響いた。私、日野本束沙は、クラスの隅で溜息を吐いた。
彼女たちは今、そのロスト・ショップについて話していた。なんでも、行ったら願いが叶うとか。
「束沙ー。あんたはどう思う?」
リーダーの女が私に声をかけてくる。確か、遙華という名前だったはず。
「さあ?」
特に興味もないので、適当に返事をする。
すると、彼女は少々不機嫌な顔をしながらも、今度は私の隣にいる御幸に尋ねてきた。
「御幸ー。あんたはー?」
御幸はおとなしい性格の上、最近転校してきたばかりだからなのか、少し慌てながら
「え!?あ、あー。どうだろうね?でも、私はあると思うよ。」
と答える。
それと同時にチャイムがなり、この話はここで終わった。
放課後、私は靴に履き替えると、走って御幸を追いかけた。休み時間中に彼女が小さな石を落としたからだ。彼女含め他の子も気づいていなかった。
彼女、どうやら私を避けているらしく、今日は話しかけても返事さえされなかった。
帰りになったらすぐに走っていってしまったので、こうして追いかけているわけだ。
彼女は複雑な道を迷いなく進むので、彼女との差を広げないようにするのでやっとだ。
「…!」
彼女が消えた。正確には、壁に入っていった。
どういうことか全く分からないが、今はそんな事を考えている暇はない。私は御幸が入っていった壁に飛び込もうとした。
瞬間、躓いてしまったような感覚に襲われる。もう一度体勢を立て直すと、改めて壁へ入っていった。
「御幸!」
壁の向こうに彼女はいた。いや、顔立ち自体は御幸と同じだ。だが、体に纏っている者はどう考えても制服ではない。
羽衣にしか見えないのだ。胸に掛かっている布は小さな石で止めてある。いや、左側は止まってあるが、右側は止めるための石が無く、布がだらんとぶら下がっているだけだ。
留め具になっている石…。どこかで見覚えがある気がした。何だったっけ。そんな事を考えていると、御幸がこちらに気づいた。そうだ。私は彼女に用があったんだった。
彼女は、私を見るなり、
「あー!」
と大声を上げた。突然だったので尻餅をついてしまう。
「な、何?」
やや、怒り気味で尋ねた。尻餅の恨みだ。
「それ!その手に持ってる石!」
言われて、この石を返すためにここに来た事を思い出す。
「ああ、これ?あなたが落としたみたいだったから、持ってきたの。」
「そうだったんだ…。ありがとう。」
素直に感謝されると、少し照れくさい。
「はいこれ。」
そう言って、彼女に手渡す。受け取ったのを確認してから、御幸であろう目前の人物に尋ねた。
「あなた、何者なの?」
彼女は、なにか言いにくいことでもあるのか、渋い顔をした。
「私さ、あなた達の住んでる地球で言うところの神様。みたいな?」
何故に疑問形?よくわからないが、神様だということはわかっ…。
「は?神様?あなたが?」
こくんと彼女はうなずいた。
「そんでもって、あなたは今幽体なわけだよ」
御幸が何を言っているのかよくわからなかった。幽体、私が?
「足元、見て」
言われたとおりにしてみる。白い布切れ(?)のようなものが、本来足があるはずの場所にゆらゆらと浮いていた。顔をあげてから、もう一度見てみる。
やっぱり足はない。
御幸が私の後ろを指差した。なにか言いたいのだろうか。
「後ろ見て」
彼女は、私の体をグルンと回転させ、無理やり後ろを向かせた。
後ろでは、救急車のサイレンが鳴り響いて人が私のもとに集まっていた。私の顔に血の気はない。手は少し乾燥していて、体には死斑が現れている。まるで死んだ人のようだ。
あれ、なんで私を見ているのだろう。
「束沙さん、結構鈍いね。」
私は、死んだのだろうか。
「最初に、倒れたような感覚に陥ったでしょ?あれは、あなたの体と魂が離れたから。この壁から先は、ここではない世界の狭間。普通は人間が入れるような場所ではないけど。あなたが渡してくれた石が、それを可能に…」
「私はどうなるの?」
つい食い気味に聞いてしまった。できれば戻りたい。私は家に帰って平穏な生活を送りたい。まだ、死にたくない。
「あなたには二つ選択肢がある。」
御幸の言葉に顔を上げる。
「一つ、このままあの世に行く。」
そんなの嫌だ。
「二つ、私と一緒に異世界を旅してみる。もちろん、新しい体を与えてね。」
「死なずに…済むの?」
彼女はうなずいた。そして笑顔になり、
「だから、一緒に行かない?異世界に。」
「私、ロストショップって呼ばれてる店の店長なんだけど、今の所私一人で暇なんだよね。ちょうど話し相手を探していたの。」
「え、ええええええええ!」
とある店が、最近噂になっている。突如として現れ、数日で姿を消すその店は、ロスト・ショップと呼ばれていた。
売っている商品や店員はおろか、どうやってその店に行ったかもわからないそうだ。そして、【ロスト・ショップ】に目をつけられたものは、この世界には帰ってこない。