彼女の真意
オレが控え室から中を覗き込むと、室内では盛大なパーティーが開かれていた。
ずらりと並ぶ山海の美味と銘酒。めいめいに着飾った紳士淑女たち……。 さすが国内有数の財閥主催と言う事か。
名目は木戸グループ現総帥、木戸 お志摩の白寿祝い。
だけども、豪華な料理に手を着ける人は誰も居ない。
会場の異様な張り詰めた雰囲気、そしてメイドたちのパーティション(仕切り)ごしに耳に入る ひそひそ話。
「このままでは、 妾腹の怜菜が家督を……」
「長女の亜由美さまには、お相手が居ないのでは、争う以前の問題。
このまま怜菜の後継者発表の式に……。
恐怖の大魔王と言われている、傍若無人、天上天下唯我独尊のあの性格ではねぇ……」
「家を護るためとは言え、お志摩さまが あんな条件を出されては、亜由美さまの難易度が更に……」
「――仕方ありませんわ、前当主があんな失態をされて北方の油田開発に飛ばされて居ては……」
「所詮、犬は犬ですから」
「自分達も、次を見つけ始めた方が……」
全てを聞いて、あっ、とオレは気が付いた。
これはタダのパーティーじゃない。ほんとうに違ってたんだ。
初めから、長女の亜由美と、別腹の妹 怜菜。 二人の木戸家における権力闘争の最終決着の場所だったんだと。
オレはえらい事に巻き込まれたとも。
”
パーティー会場に入ると、めいめいに着飾った年若い淑女から、声をかけたくてもかけれない羨望と嫉妬のような痛い視線が突き刺さる。
オレが何をしたんだよ……。
「あ~ら、姉上様。 今日は逃げ出したのかと思いましたわよ」
「……」
近寄りがたい雰囲気を物ともせず、こちらにズカズカと歩み寄ると、嫌味たっぷりに慇懃な挨拶をしてきたのは、ゆったりとしたドレスを着た赤いショートヘアーの姉属性と、同じようなドレスをまとった青髪、ふわふわ系のまるで双子のような娘。
二人とも、とくに青髪の娘の方は鬼のような可愛さだ。
この娘は、好みによるけど、アイドルユニットで投票しても上位に食い込めそうな位の可愛さだろうな。
どうせなら、あの青髪の娘の方を押し倒したかったなぁ……。 この娘の名前でも聞いとくか……。
甘い妄想に、思わずニヤケル。
「この人達は?」
「赤髪の娘は、分家筋の怜菜。
そして、隣に居る青髪の子は、アイツが祖母が出した条件をクリアするために、以前から準備しておいた切り札、つまり 鬼札だ」
「あの娘が?」
亜由美は、青い髪の娘をじっとみつめるオレの耳元で、囁くように説明した。
「貴様は何をにやけている。 あの子の見た目にごまかされるな、あのように見えてもアイツは男だ。 名前は「鵬、つばさ」。
――所謂、男の娘だ」
「……」
彼女のささやきにオレは思わず声を失う。
夜道で出会えば、思わず飛びつきそうな感じだ。
……けれど、すぐその後で、押し倒した事を後悔する、
まさに鬼札だ。
「あいつは今日のためにレナと出会ってからの一年の間に、礼儀作法、料理洗濯の家事一切、更には夜のトギまで完璧に躾けられているともっぱらの噂だ。
さらには、祖母愛読小説のキャラに、それとなく自分たちをコスプレするとは、向こうも本気のようだな」
コスプレまでして準備するとは、凄まじい一族だ。
恐るべし女の執念。
「可愛い娘とは、男前な貴女にはお似合いですけど。 たまには、素敵な殿方といらっしゃっても良いのですよ。居るのなら――」
「フッ……」
レナとあゆみ、彼女二人が舌鋒を交える前に、亜由美はレナの言葉を涼しい視線で遮ると、腕を軽く開きかぶりをゆっくりふりながら、フッと鼻で笑う。
イケメン具合もあって、よく似合ってやがる。
宝塚でもいけるんじゃね?
「姉上、なにが可笑しいのですか?」
「はっ、お前の甘い考えが可笑しいのさ、どれだけ私を見くびっている?」
「ま、マサカ、その娘は?」
彼女はずかずかと近寄るとオレのパット入りの胸をしたたかに触ると、顔を引き攣らせながら事態を察したのだろう。
「きぃぃ~~~」と、隣に居た娘の顔とオレの顔を交互に見て、ハンケチを食いちぎりそうな表情を浮かべていた。
どっちが女装でかわいくなるとか、オレはそんな物で勝っても嬉しく何とも無いんだけどね。
「残念だったなレナ。 私が本気になればこんな物だ」
あゆみはオレのアゴを片手でグイっと持ち上げると、唐突にクチビルを重ねてきた。
唐突な行動にオレは顔を真っ赤にして思わず固まった。
――普通、逆じゃない?
「見てわかるとおり、私たちはこういう関係だ。 さて、今日は約束の日。 お互い祖母上の所に挨拶に行かないか、良いお言葉が頂けると」
「姉上。殿方は……見た目じゃ無いですから、勝負はこれからですわよ」
レナは可愛い顔も台無しになるくらい目尻をひくつかせ、捨て台詞を吐くと足早に去っていった。
”
総帥のありきたりな挨拶も終わり、お開きとなったパーティーの後、メイドに案内され松などがある庭園をあるく ドレス姿のオレとスーツ姿の亜由美。
行き先は、亜由美とレナの二人が呼び出されたお志摩の私室がある屋敷の離れだ。
「あっ!」
オレは、なれないハイヒールに足元もおぼつかず、思わずコケそうになる……。
「大丈夫か?」
彼女は、オレが倒れこむ前に、オレの手をもって支えてくれていた。
「うん、何とか大丈夫……だよ」
オレは笑顔をつくり、返事を返す。
「ウソを言うな」
彼女はそう言うと、フッと表情をゆるめ、
「貴様には、うちの面倒につき合わせて悪いな、いま木戸家は半ばボケた祖母が出した無茶な要求。
――結婚相手の男の娘をつれて来た者を時期当主にする。
と言う無茶な話で家がゴタゴタしているんだ」
亜由美はそう言うと、表情を曇らせ、眉をしかめながら小さくため息をついた。
「そりゃ 無理難題だよな……。」
結婚相手の男の娘って、そんな物何処に居るんだよ。
居たとしても、結婚相手にならないだろ?
そんな物を探してこいとは、凄まじい家系だ。
――でも、その真意はなんだろ?
なにか裏が有るはずだ、じゃなければ、コンナ組織の上に立てないからね。
「れなはこのチャンスに家を乗っろうとしているんだ……、
お志摩亡き後、アイツが当主になったら、家屋敷を売りはらい、会社も合理化の末、みんな解雇するだろう」
「金色夜叉だね」
「そして自分は莫大な財産を投資にまわし、配当で悠々自適な生活を望んでいる、木戸グループの家族の為もそんな事はさせない」
腕を組み、遠くを見るような視線で、ポツリ本音を溢す亜由美。
家を護る。 違うな、木戸グループの家族を護るためにどうしても勝たないといけない。
これが本音だろう。
昼ドラのようなドロドロとしたシュチュエーションに義憤がメラメラと湧き出してくる。
強姦未遂犯のオレにもにも人並みに同情心や義憤を覚える心はあるのだ。そしてその心が、木戸グループで働く人たちとその家族を護るためにもこの女を勝たせないといけない、と訴える。
「判ったよ、手を貸すよ」
オレはそう言うと、握ったコブシを胸の前にだして、小さくガッツポーズをする。
「その表情、やる気になったようだな。 貴様には期待しているぞ、ただ静かに座って「はいはい」、と愛想良く返事をするだけでいい」
「任せて」
亜由美自信満々の表情を前に、オレは小悪魔のように小さくウインクをする。
自信はないけど、メイドたちの話を聞いて答えは見つかったから。
この耄碌……じゃない。 腹黒ババアの求める答えはきっとこれだから……。
最終話は18時に予約投稿済です。
……ちなみに、お志摩の愛読書は、死に戻りする 例のアノ小説ですね。