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オズの祝福  作者: りりいち
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もう一度 別世界で

あの日の声がまだ頭の裏にこびりついて離れない。

薄暗い部屋で目を瞑る日々。

部屋の隙間を無くすためにガムテープで塞いだ。

まずは丸めた新聞紙に火をつけ、鉄製のバケツに入っている炭に上手く火がついたのを確認してから薬を飲む。

効果が出るにはまだ少しかかるだろう。


スマートフォンの電源を切ってから鉄バケツの前に座に座りじっと火を眺める。

しばらく経って意識が現実に引き寄せられる。

集中力がきれたようだ。

眺めている間、瞬きを忘れたのか目が乾いているような気がする。



どれぐらい時間が経っただろうか。

炭の半分ぐらいが白くなってきて手をかざしてみると、じんわりと手にあたたかさが伝わってきた。

右目から何かが垂れる。

死にたくないなと少し思う。しかしこの気持ちが本当に自分のものなのか、本能的なものか分からない。

そしてまた考える。

少し眠くなってきた。

なんとなく立ち上がろうかと思い足に力を入れるが上手く力が入らない。薬が効いてきたかなと思っていると一瞬で目の前が真っ白になった。

これが酸欠か。

人生の最後ぐらいは感動的な思い出でも思い出すかと思ったが、あっさりだったなと少しガッカリしていると意識が消えていく。




はずだった。



黒い場所に立っていた。周りが一切見えない。何が起こったか理解ができない。

だが、一つだけ分かることがある。

目の前に『なにか』がいるのだ。

光はないのに確かに存在を感じることが出来るのは、その『なにか』が放つ息をするのを忘れるほどに大きな鼓動のような存在感がじりじりと伝わってくるからだ。


「やぁ」


中性的な声で『なにか』が話しかけてくる


今何が起こっているのか理解しようと、頭がいっぱいになる。


「結構混乱してるようだね。まぁ、無理もない。」


喋りかけられてるが動揺からか内容がうまく頭に入らず聞き返しそうになる。


「色々説明してあげたいけど、まずはこれからだ。はい、口を開いて」


『なにか』がそう言うと、自分の口が自分の意志とは関係なく開く


口の中にピンポン玉くらいの大きさのものが押し込まれる


「はい、噛まずに飲んでね」


それは無茶だろと思いながらも体は無理やりそれを飲み込もうとする。

無理やり喉を通ったそれは体の深くに入っていくほどだんだんと熱くなっているのがわかった。腹の中がとても熱いはずなのに痛みがない不思議な感覚が更に脳を混乱させる。


「何を…飲ませた……」


何も見えないが存在を感じる方向を睨みつけながらか細い声でそう言うのがやっとだった。


「体に異常はないかい?痛みとか吐き気とか、答えて」


『なにか』はこちらの声など聞こえてないかのように問いかけ、いや、命令してくる。


「腹の中が異常に熱く感じるが痛みはない。吐き気もだ」


口が勝手に動く


「ならよかった。その程度で済むなら問題ないよ」


これ以上の事が起こる可能性もあったのか、モルモットのように扱われたことが不愉快だ


「ごめんごめん、怒らせるつもりはなかったんだ。これも君のためだよ。だって君、あのままだったら死んでたし」


そう言われて自分が何をしてたかを思い出す

死に損ねたか?ならこの状況はなんだ?また頭が思考でいっぱいになる。


「いや、君の計画通り、君は死ぬことには成功してるよ。実際このままだと君の魂は裁かれるだろう。だけど死んで輪廻に行くまでの間に僕か取引したいことがあってね。あのさ、君もう少し生きてみない?」


こいつは馬鹿か?と思ってしまった。自殺した人間にもう一度生きてみろなんて、正気の沙汰じゃない。そんな話を受ける物好きはいないだろう。

「馬鹿とは失礼な。まぁ、話を聞いてくれ君の人生は少し覗き見させてもらったよ。人の死ぬ理由を大体で話すのもなんだが、君、自分の努力が実らないあの世界に、結果を出せない自分に絶望したんだろ?だから死んだ」


言い返そうとして、言い返せる言葉が見つからないことに嫌気がさす。


「でもさ、1からやり直すなら話は別だと思わないかい?自分のことを誰も知らない、そんな状態なら」


正直とても魅力的な提案だと思った。もしかしたら神が自分に与える最後のチャンスなのではないかと思えるほど。

しかし、すぐ首を縦に振ることは出来なかった。

結局、もう一度やり直しても結果は変わらないのではないかと、ただただゴミのような人生を、もう一度歩むだけになるのでは無いかと。


「あんまり乗り気じゃないみたいだね。でも大丈夫、次の世界では僕もサポートするからさ」


意味がわからない。あまりにも話が美味すぎる。

そこまでする理由が分からない。


「だから言っただろう取引だって。君は別の世界で生きる僕のサポート付きでね。その代わり君の体を、存在を、僕に分けて欲しいんだ。僕は実体がなくてね、僕1人だと向こうの世界に存在することも難しくて困ってたんだよ」


理由はわかった。

だけど、なぜ俺なんだ?


「僕が体を借りるには条件があってね。たまたま君が合致したのさ、なかなかいないんだよ?全部の条件満たしてる人間」


…信じるしかない。けどあまりに話ができすぎている。


「だから、生きない?あと少し。いらない命ならさ、僕に少しぐらい分けてくれてもいいんじゃない?それで生きたくなったら、また生きればいいしさ」


頭を撫でるように優しい言葉が脳に染みる

どうせ投げ出した命なら、どうにでもなるか。

最後の悪あがきに終わっても。こいつとなら。

ついさっき出会った仲のはずが、今はこいつが一番信頼出来るようなそんな感覚に陥って。


「じゃあ契約をしよう。契約は僕が君に名前をつけて、君が受け入れることによって結ばれる。そうだな…じゃあ君の名前はべシルだ?かっこいい名前だろう?どうかな?」


今まで日本人だったからなんか違和感あるな…でも、いいよ新しい人生なんだ、思い切っていこう


「じゃあ契約成立だ。まだ自己紹介がまだだったね。僕の名前はオズ、よろしくねべシル」


そういってオズは心底嬉しそうに、ニタリと笑った気がした。

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