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短編 いろいろ

100回私を殺した神に結婚を迫られている。

「結婚しよう?」


「ふざけんな地獄に落ちろ。」


こんにちは皆さん。私は今、緑豊かなカフェで目の前の男に求婚されている。私はまぁ、その辺の背景にいる量産型女子。


「今度こそ幸せにするから。」


「今度も何も1度目がねぇわ。」


目の前の顔面力の高い色男は、そんな私のストーカー。こいつ、私が生まれたときから近所のお兄さんとして存在し、転勤族の家族と何度引っ越そうが行く先々に現れる。はじめはそんなこともあるかと、なついていた時期もあったが、今ならわかる。こいつは異常者だ。勿論、理由がある。


まず、私以上に私の好みを把握し、毎年誕生日や記念日に何かと理由をつけ大量に物を送ってくる。ただの近所のお兄さんが、だ。両親はそれを何故か喜んで、当たり前に受け取る。私は一切触れていないため、こいつの所為でクローゼットが二つ潰されている。着拒否や送り返しもしたが、何故か全て戻ってくるため、諦めた。


次に、こいつは歳をとらない。初めて会ったときは新生児だったそうだから、25年は顔を合わせているのに、いっさい衰えない。こいつが当時20歳であれば、今は45歳の筈だ。老化しないわけが無い。つまりこいつは、人じゃ無い。


極めつけは、私以外の記憶や存在がこいつに操作されているらしい。と言うこと。25年もあれば甘酸っぱい恋の一つや二つあるわけだが、私に好意を持ち告白してくれた男は、私の目の前でかき消えた。存在ごと。男の家族すら、男の存在を忘れて。


そして、最近見る夢。何度も、何度もこいつに殺される夢。時に泣きながら、時に狂ったように。私はついに我慢の限界を迎え、こいつを呼び出し、事の次第を問うたのだ。


「何度も言うけど、俺は神だ。」


「神がモブを好きになるか馬鹿が。」


「話すと長いから端的に言うけど、もう君を追いかけて世界もまたいでるし滅亡もさせてるからね?それだけ君が好きってこと。」


「一昨日来やがれ。」


「一昨日も来たんだよなぁ。」


自称神曰く。初めての出会いは邪神と聖女。世界の滅亡をもくろみ勇者一向に封印されるとき、聖女は言ったのだ。


「寂しいなら一緒にいてやろうか。」


そんなテンプレぶっ壊す聖女がいてたまるか。…私の所感はさておき、かくして。邪神は聖女と共に封印され、世界に平和が訪れた。問題は、聖女が人間で、魂が転生したこと。邪神はすぐそれに気付き、追いかけた。しかし、神の感覚では人の時間は瞬きの間。見つけたときには、転生した聖女は夫と子供と幸せに暮らしていた。


邪神は、裏切られたことに怒り、はじめて聖女を手に掛けた。そしてそれは現代までつづく。探しだし、殺し。探しだし、殺し。時にはまだほんの子供の頃の淡い恋心すら、嫉妬に狂い、殺したという。


何度も繰り返す内、邪神は、考えた。何がいけないのか。何故自分を忘れ、他の物を愛するのか。どうすれば自分のものになるのか。幾度と試し、失敗する度、拒絶される度、殺しては転生を待った。そして、101度目の今。


「人間の感覚や思考も理解した。君の好みも、嫌がることもわかってる。人の生活に必要な物も全て準備してある。今度こそ、君を幸せにする。」


「御免被る。」


そんな話を聞いて、思うことは一つ。そんなこと知るか。だ。前世なんて覚えが無いし、お前は現在進行形でストーカーの不審者だ。そもそも、お前のそれはただの依存だろうが。自分の脚で立てない奴に用はない。


糞みたいな理由でバカスカ殺しやがって。


「気にくわないなら、また私を殺せば良いだろう。」


「無理だ。魂が摩耗しすぎて、これ以上転生を重ねられない。」


三桁も殺すからだろうが。自業自得を死んで詫びろ。


「どうしたらいい?望む物は全て準備する。君は何もしなくても、僕と一緒にいてくれるだけでいい。」


「何で私がお前の都合に合わせなくちゃいけないんだ。お前が私といたいなら、お前が私に合わせろ。」


はんっ、と鼻で笑うと、自称神は数度瞬きをして微笑む。…こいつ、本当造形はいいな。


「合わせたら、一緒にいてくれるって事?本当?嘘じゃ無い?」


「グダグダ五月蠅い。お前の信頼はいらない。ただ、お前が私を欲しいなら、お前は私に逆らうな。」


嫌なら殺せ。吐き捨てる私に、背筋がぞわぞわするような笑顔で跪いた。


「あぁ、今度の君は、本当に最初の君と同じだ。有無を言わさないところも、その癖すぐに死ぬほど脆いところも。愛してる。」


恍惚とした表情で、爪先に口付けるシルヴィを見て、私はこいつにどうやって自覚させるか考えていた。





(初恋は五歳の時。優しい近所のお兄さん。)


(失恋は十歳の時。お兄さんが、私を通して誰かを見ていることに気付いたとき。)


(こいつは全ての私を愛しすぎて、その実私を見ていない。)


(私に愛を説く癖に、私の愛を信用しない。)


(だから私は教えない。私がお前を覚えていることを。)


(自分で気付け馬鹿野郎。)

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